第46話目 交流28

 急いだお風呂上り、そうだ髪が肩までになったからドライヤーも以前より時間がかからないんだと、自分で乾かし始めて実感した。朝も今までの三つ編みではなく、2つに縛るだけでいいから楽チンだ。本当はそのままウエーブのかかったままで行きたいところだが、この髪じゃあ天パの証明は出してあるものの、大勢いる高校の先生たちの中には、自分を知らない口煩い先生もいるはずだ。そんな先生に捕まった日には、説明が面倒くさい。


 そんなことを考えながら髪を乾かし、部屋へ向かおうと洗面所から出た。


「マナ、明日の支度はできてる?」


「うん、もう着替えてすぐ出られるよ」


「明日、私たちもマナが出る頃には出たいから、ちょっと早く行動したいんだよね。6時には起きてくれる?」


「わかった」


 はやる気持ちを抑え、そんなやり取りをして部屋に向かうと、すぐにブログにログインした。


 すると、AIのホームにMASATOの新着の知らせが付いていた。それ以外にコメントが入った知らせはない。先程のゲストページに何かしらの書き込みがあるんじゃないかと期待していただけに、少しだけガッカリした。


 それでも、MASATOの新着記事のタイトル、『好きなところ』は、愛美の心をグッと引きつけた。



     好きなところ



   いよいよ明日から新学期が始まる。


   そんな時、自分はいつもここに登るんだ。


   と、登ると言っても、車で……だけどね(笑)


   ここからの眺めは最高で、子供の頃にはちゃんと自分の足で登っていた。


   今もまあ、歩いて行ける時間があればね、登りますけど、


   今日は仕事も休めなかったし、今からちょこっと登ってきます。



 その下は、右手には真っ直ぐ伸びる国道と、左手には大きく広がる海が太陽の光を反射している、だいぶ高いところだとひと目でわかる山からの景色が添付されていた。



   これはね、以前、昼間に登った時の写真で、


   この景色が自分にとっての原風景って感じかな。


   子供の頃に見た景色と、そう変わらないと思うんだけど、


   子供の頃にはもう少し、田畑が広がっていたように思うけどね。


   ここで、「よし、今年も頑張るぞ!」みたいなね、そんな気持ちになるんだ。


   ここは夜景も綺麗でね、それを知っている人が時々登ってきています。


   まあ、だいたいがカップルだけどね。


   自分は、今夜は一人寂しく夜景を見に行きます。


   明日からのために、自分の英気を養うために。



 そっか。MASATOは今、部屋にいないんだな。


 今からと書き込まれた時間に目をやると、19:20だ。もう1時間以上経つ。これならば先程の入浴前の書き込みに返事がなくて当たり前かと、ホッとした。きっと、コメント書いてくれてから記事を書いて、すぐに出かけたんだろう。


 それにしてもだ。そんな時間から車でとはいえ山の上になんて、どのくらい時間がかかるんだろう?そう思いながら、MASATOが今住んでいる辺りを思い浮かべ、MASATOの記事にある、子供の頃にはという言葉から、やはりMASATOの実家は海のある隣市の、あの辺りだろうと当たりをつけた。それは簡単だ。あの景色が見える高い山と言ったら、あそこしかない。そこまで車で行き、山の上で何かを思い帰ってくるとしたら、ここに来てくれることがあるとすれば、きっと早くても22時頃にはなってしまうだろう。


「今夜、もう一度ここに来てくれるかな?」


 明日はMASATOも書いているように、始業式だ。MASATOだって、あまり遅くまで起きてはいないだろう。そうは思うが、23時頃までは待ってみよう。


 愛美はまず下書きに入れておいた他のゲストたちの記事へのコメントを投稿し、MASATOの記事へのコメントに取り掛かった。


 『MASATOさん、ここ、すごくいい景色が見られる場所なんですね。子供の頃にはということは、MASATOさんのご実家の近くなんですよね?明日からの仕事のために、そこで何を思ってきたのでしょうか……明日からのお仕事、頑張ってくださいね。と、ところでこんな時間に山道を走るのって、怖くないんですか?』


 またいくつも疑問を散りばめた。


 コメントを投稿すると、AIの投稿の直前に、さつきさんからのコメントが入っていた。同じ頃にコメントを入れたようだ。


 『MASATOどの、こんな時間になってまで行くとは、その場所に余程のこだわりがあるんでしょうか。明日からはまた新たな年を迎え、新しい出会いもあるんでしょうね。気合い入れて頑張ってください』


 こだわり……そうか、きっとそこに登って新たな年度を迎えるのが毎年の行いで、それをしないと何か気持ちが悪いというか、ルーティンということなんだろうな。


 MASATO、今夜もう一度、来てくれるといいな。


 愛美はMASATOを待ちながら、今日、髪を切ったことを記事に書こうと思っていた。が、危ない危ない、一日仕事していたはずのAIが、18時過ぎにコメントを書いたAIが、髪を切ったなんて記事にできるはずない。髪を切った記事は、そうだ、明後日の夜、記事にしよう。土曜なら、仕事が休みだということにできる。


 愛美は、今夜は下書きに入れておいたマドレーヌの記事を更新することにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る