第41話目 交流23 MASATO

 すると、AIからコメントが入っていた。やはりAIさんは今も画面の向こうにいる。


「待っててくれたんだな」


そうだろうと思いつつも、AIから何も書き込みされず、画面の向こうにいないことを確信することにならずに、心底ホッとし、AIのコメントを目で追った。


 『MASATOさん、ご指名ありがとうございます。誠実さとか、安心感とか、嬉しい言葉が並んでいて感激しています。ありがとうございます。では、バトンやってみますね。ところでMASATOさん、納豆がお嫌いなんですね(笑)私は納豆好きです。それと、チーズケーキがよほどお好きとお見受けしました(笑)スイーツ好きの男子って、いいです。カフェでデートもできそうですもんね(笑)』


「ははっ、バトンやってくれるんだ。ははっ、チーズケーキの話題だ。カフェでデートできそうって、今、塔子とのカフェデートを思い出していたよ。同じこと考えてたんじゃん。って、俺がさっき話題にしたからか。ははっ、ははっ……」


 AIのコメントにいちいちツッコミを入れながら、直人は止まらない涙を流しつつ声だけで笑っていた。


AIはすぐにバトンをやるだろうか?やってみますとは書いてくれたが、これだといつやるのかわからない。けれど、もしかしたらすぐにやってくれるかもしれないじゃないか。もう少しだけ、AIと一緒にいたい。画面から去りがたい。今夜はなんだか、人恋しい。


 腹は大して空いていない。今日は昼におにぎりを食べて、3時頃に土産だと回ってきたチョコの挟まったクッキーを2つ口に入れただけなので、本当はお腹は空いているのだろう。けれど飲み込んだ大きな石が、今夜は胸につかえて何も食べられそうにない。MASATOは冷蔵庫からビールを取り出し、流石に先に何かお腹に入れないとと、その奥に見えるクリームチーズを手にとり、「またチーズか」と独り言ち、取り出すのを止めた。


 直人は今夜だけと、いつもは一本にしている缶ビールの二本目を開け、つまみで開けたガーリック味のポテチに手を伸ばした。その間にも、幾度となく画面を更新し続け、もうAIさん今夜は更新しないかなと思い始めたとき、画面に変化を見た。


 AIさん、すぐにやってくれたんだ。


 直人は涙が渇き、皮膚がこわばった顔にささやかに笑みが浮かんだことでそれに気付き、再び目頭が熱くなった。それは塔子に対する想いではなく、画面の向こうにいる、知らないAIという人に対しての、拠りどころとしての想いだった。


 『AIさん、バトンやってくれてありがとうございます!AIさんも東海4県にいるんですか?なんだか嬉しいな。どこだろう?ストレートな髪が欲しいってことは、天パですか?自分、剛毛なんで天パ羨ましいです。それと、自分、熱いですか?一生懸命に見えます?そんなふうに言ってもらえて、なんか嬉しいなぁ。ありがとうございます。って、なんか疑問符ばかりになってすみません(笑)』


 そんなコメントを投稿した時、すぐ下にAIのゲストのネコさんからのコメントが目に入った。


『ゲストページありがとうございました』その一文が目に留まり、ネコさんのブログへと飛び、そのゲストページを開いた。するとそこに、AIからの書き込みを見つけた。


 そこにはバトンを無理のないようにお願いしたい旨が書かれており、記事ごしでAIに頼んだ自分とは違い、ネコさんに対しても丁寧さと誠実さを感じ、自分もそうすればよかったと落ち込んだ。


 にしてもだ。AIも東海地方に住んでいるんだと知り、ぐんと距離が近づいた気がしてなんだか嬉しい。どこだろう?気になる。かといって、ズバリ聞くわけにもいかない。本人発信がない限り、個人的な情報は聞くべきではないと思っている。


 AIさん、髪は天パ?じゃあウエーブのかかった髪なんだな。直人は知り合いで髪がウエーブがかっている女性を何人か思い浮かべ、あんな感じかな?こんな感じかな?と想像してみた。この感じ、なんだろう?AIさんをもっと知りたい。今までどのゲスト相手でも、その姿を知りたいとまで思ったことはなかった。


 今、画面の向こうにAIがいる。それは確信となり、確実にすぐに返事が入るはずだ。直人はAIの姿を想像しながら、AIからの返事を待った。


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