第34話目 交流16
朝目覚めると、いつも通りアボカドの様子をチェックした。が、ここ数日全く変化がない。これは本当に芽が伸びてくるのだろうか?根も変化が見られないし、ネットでは2~3週間かかることもあるとは書いてあったが、これでは話題にできないではないか。
そう思い溜め息をついてはみたが、いや、考えてみたらそもそもブログの中でMASATOと出会うためのアボカドだったではないか。ならばこれはもう必要ないかなと思わないでもないが、やはり出会うきっかけになったアボカドは、成長記録として載せたい。MASATOもきっと、それを気にしてくれているはずだ。
洗面所の窓辺に置いた何も変化のないアボカドの水を新しいものに取り換えると、「がんばって」と声を掛け、リビングに向かった。
「マナ、お母さん今日は仕事が午前で終われるから、3人でご飯に行こうか。学校はじまると平日ランチセット食べられないし。あんたたちが好きなスマイルのハンバーグにしようか」
「ホント!?やったぁ」
先に返事をしたのは、ちょうど起きてリビングに入ってきた美菜のほうだった。
「あっ、いいなぁ~お前たちだけランチか~ハンバーグか~いいなぁ~」
「はいはい、お父さんには奮発して牛丼弁当だから」
父は会社の飲み会や出張で外で食べることもあり、よく、自分がいない時には3人で外で食べて来いよと言う人なので、このやり取りには言葉通りの羨望は含まれていまいのである。そんな不毛なやり取りを冗談交じりにする朝の食事を終え、出勤する両親を見送ると、休日のいつも通りの朝のノルマを終え、愛美は今日も美菜をテレビの前に残し、部屋へと向かった。
パソコンを立ち上げブログを開くと、自分のホームにいくつかの新着の知らせがあり、その一つがMASATOのものだった。
「えっ、MASATOあれから記事をUPしてたんだ……うわっ、パソコン閉じたすぐ後じゃん」
その投稿時間を目にして、昨夜愛美がパソコンを消した直後だったことを知り、心底悔やんだ。今のMASATOの心情を思うに、一刻も早いMASATOへの声掛けが必要だったのではないか。そう思うと、その投稿時間をその時刻をあらわす文字に変化が現れるのではないかと思うほど、何度も確認し、間違いないその時間を自分の中に受け入れることをしてから、MASATOの記事へと飛んだ。
愛美は、『明日に向かって』というその記事に目を通しながら、やってみたいことに手を出し過ぎという、昨日のMASATOのコメントを思い出していた。だとしたら、この記事も自分に読んでもらいたいと思っていたに違いない。そう思うと、余計にリアルタイムで読めなかったこと、コメントを書けなかったことを悔やんだ。
誰かがコメントをつけたかもしれないなと、画面をそのまま下へとスクロールして、その記事についたコメントにも目を留めた。MASATO師のさつきさんだ。
そこには、負の感情を打ち落とし、明日への照準は明るいものにと書かれていた。
そのコメントを読み、焦りの感情が湧き上がってきた。自分だったらどうコメントを残しただろう?そのさつきのコメントがものすごく的確に的を得ているように思え、どんなコメントを書いたらいいのか、この時間にコメントをすぐに書くことをしないが、夜、どんなコメントを残そうかとかなり長いこと考えていた。
「ダメだ。全然思い浮かばないや。なんて書いたらMASATOの気持ちに添えるのかな……」
MASATOの気持ちを知るには、このさつきへのコメントの返事をMASATOがなんて書くのか、それを読んでからにしよう。もしかしたらその間にも別のゲストからもコメントが入り、それらの返事をMASATOが入れてからでもいいんじゃないか。そう思い、愛美はいつもと同じように、自分のゲストたちの新着の記事を読み、コメントの下書きをしてから自分の記事の中から、パンナコッタの記事の投稿を予約して、パソコンを閉じた。
もう11時半になる。半日で早めに終えられるから12時過ぎには出られるようにしておいてと母に言われていたため、愛美は急いで出かける準備を始めた。
「先にちょっとコンビニに寄るわ。マナの学校方面にスマイルに行くのにちょうど左折で入れるとこあったよね」
車を出してすぐ、母がそう口にした。
「お姉ちゃんの学校の横、通るよね。私もそこに行きたい。制服可愛いし」
「制服で選ぶと後悔するかもよ。校則めちゃめちゃ厳しいし。まあ、入るのには難しいところじゃないけどね」
「そうね、美菜もそこでもいいし、他でもいいし、何になりたいかで決めればいいよ。中学の3年間でゆっくり考えればいいよ」
「お母さん、コンビニで何か買うの?」
「ちょっと荷物を送りたいだけよ。陽子ちゃんのところにね」
陽子ちゃんとは母の高校時代の親友で、小さい頃には会っているらしいのだが、実際写真で見た顔しか知らない。結婚で京都に引っ越してしまったので、この近くにある陽子ちゃんの好きなチョコ専門店のチョコや、好きなせんべい屋のせんべいや、地場産品などを時々送っている。陽子ちゃんからも時々荷物が届く。父の好きな奈良漬けとか京都のお菓子とかだ。最初はたまには食べたいと言っていた陽子ちゃんに頼まれて何度か送り、お返しにと荷物が届き、いつの間にか習慣化していた。
コンビニに着き母が車から下りようとすると、美菜が私も行くと言って一緒に下りた。後ろに回ってトランクを開け、荷物を取り出した母と共にコンビニに入り口に向かうと、中から一人の男性が出てきた。その男性に視線を移すと、愛美は息を飲んだ。
「えっ、うそ……真崎先生」
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