第30話目 交流12

 夜になると、愛美は早速自分のゲストページに書き込まれたMASATOへの返事を入れた。


 『MASATOさん、こんばんは。書き込みありがとうございました。少しでも元気を取り戻すお手伝いができたのなら、よかったです。あの滝、すごいですね。そういえば、以前何かの番組で、ああいった大きな滝を、船といいますか遊覧船というのかな、それで近くまで行って観ることができるというようなことを聞いた覚えがあるのですが、MASATOさん、そういうのに乗られました?アメリカの旅行の話、まだたくさんあるのですか?それは楽しみです』


 問いかけてみた。


 こうして『?』をつけておくことで、もしかしたらMASATOは疑問に答えてくれるかもしれない。そう思い、愛美は先にその滝を検索し、遊覧船に乗って滝の近くまで行けることを予めチェックしていた。


 その後、愛美は自分の予約されていた『その道化師の名は』の記事が更新され、早速コメントが入っていることに気付き、それを開くと、2件のコメントが入っていた。


 『なんか怖そうな話ですね。確かにピエロの姿をして楽しませながら近づいてきたら気を許すこともあるかもしれませんね。そもそもサーカスで人を楽しませている印象だし、でもよく考えてみたら素顔はわかり難いですね、考えていることも……』


 ネコさんだった。そしてその下にあったコメントは、MASATOだ。


 『うぅぅ……道化師の姿をそんなことに利用するとは、むぅ……許せん(笑)道化師は基本的にみなさんを楽しませたり和ませたりしています。AIさん、道化師を嫌いにならないでくださいね』


「なわけないでしょ」愛美は思わず画面のMASATOにツッコミを入れた。


 でも、予想通りだ。MASATOはちゃんとこの記事に食いついてくれたし、コメントも書いてくれた。そのことが嬉しくて、愛美の顔のニヤケが止まらない。すぐに返事を入れたい気持ちを抑え、MASATOが今夜更新した記事を読みに行くことにした。これもタイトルからして、アメリカ旅行のことだろう。



     壮大さ(F)



   ここもすごいでしょ?



   考えてみたら、アメリカで目にしたものは


   壮大さを感じられるところが多かった。


   こんなふうに、何千年何万年もの時を経てこの姿があることとか、


   大きな街で、まるで昼間かと思うほどの明るい煌びやかな街で


   日々行われているショーや日本じゃできないカジノだとか……


   あ、でもまだ学生だった自分はお金もなく、


   ほとんど兄の横で見てただけですよ。


   まあ、少しだけ兄の代わりもしたような気もするけど(笑)


   なんにしても、当たり前だけど世界は広いやって実感しました。


   ちっぽけな自分、ちっぽけな悩み、自分にとってはちっぽけじゃないことも


   いつの日か、それを経験していてよかったと思えるような生き方をします。


   って、なんか、宣言みたいになっちゃったね(笑)



 大きく高い赤茶けた、まるで波打つ陶器の中にいるような土の壁の間に立つ、顔をぼかしたMASATOの姿や、その壮大な景色をバックに、大きな岩の上に立つ、これまた顔をぼかしたMASATOの姿がそこにあった。


「すご……こんなところに行ったら、確かに世界観は変わりそうな気がするよね」


 愛美はその壁の間のMASATOに目を留めたまま、思わずそう呟いていた。


 記事を読み、MASATOが少しだけ元気を取り戻したようで、本当によかったなと思いながらコメントを書いた。


 『すごい……それ以上の言葉が見つかりません。こんな景色の中に立つことができるなんて、羨ましいです。いつか……行けるかどうかわかりませんが、そんな場所に私も立ってみたいです。カジノも、ちょっとやってみたいです(笑)』


 そうコメントを残して自分のページに戻ると、『その道化師の名は』へ書き込まれたコメントに返事を書いた。


 『ネコさん、このピエロのように顔を白く塗って目立つメイクをしてしまうと素顔が全くわからなくて、そもそも笑顔のメイクだから本当の笑顔なのかどうかもわかり難いし、それが悪事のための装いだとしたら本当に怖いことですよね。いつかピエロを間近で見ることがあったとき、すごく警戒してしまいそう』


 『MASATOさん、道化師の姿をそんなことに利用するなんて許せないですよね。でも、これはそれで成り立つ小説で、作り話なので、道化師さんが悪いんじゃなくてこの人が悪いってことで、……って、そんなことわざわざ書かなくてもわかってますね(笑)そうですね、本当の道化師は、人々を楽しませ和ませ、癒しをくれるそんな人ですよね。もちろん、嫌いになんてなりませんよ、本当の道化師さん♪』


『本当の道化師さん』という言葉を入れた。MASATOはこれをどう捉えてくれるだろうか?自分に対してAIが書いたと思ってくれるだろうか?それとも、本当の道化師を嫌いになんてならないですよという意味で捉えるのだろうか?愛美はそのどちらでもいいと思っていたけれど、自分のことと捉えて、どう反応してくれるのかを知りたいとも思っていた。

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