第29話 交流11
愛美はパソコンをつけるとログインし、MASATOのブログへと飛んだ。
すると、昨夜の『動揺』の記事に、ニコさんからコメントが入っていた。
『MASATOさん、大丈夫ですか?何かお辛いことがあったんですね。仕事をしていると、人間関係で悩むことも多々ありますよね。その方と接するときは、感情の壁を作って、義務的に進めるとかどうです?上手くやり過ごすことができますように』
感情の壁か。
ニコさんは、そのブログで見える範囲で想像するに、結婚したばかりで今は仕事をしていない人のようだ。けれど社会人の経験から上手くアドバイスをしているように見えた。そしてそれは的確なものに思え、胸がざわついた。
やっぱり自分がするコメントは、感情論的なものになりがちで、現実的なアドバイスになんてなっていない。どんなに考えても、経験には適わないな。
そんなことを思いながら自分のホームに飛ぶと、ゲストページに書き込みのある表示がついていた。
誰だろう?と、ゲストページを開くと、そこにMASATOからの書き込みを見つけた。
「えっ、なんで?今日も仕事休み?」
愛美はその書き込みの時間に目を移すと、12:37の表示があった。あっ、そうか。きっと昼休みなんだ。仕事中とはいえ、学生がいない学校では、昼の休みの時間はきっとこうしたブログを開くこともきっと可能なんだな。
相変わらず身体に何かがポッと灯ったような暑さを感じながら、はやる気持ちを抑えながら、MASATOの書き込みを読み進んだ。
それは、書かれたことの先を知りたいという気持ちと、読み終えてしまいたくないという、相反する感情のせめぎ合いの中で、あっという間に目を通し、もう一度最初から書かれたことを読み砕くといった、落ち着きのない読み方になっていた。
『AIさん、こんにちは。昨日は記事へのコメントをありがとうございました。ご心配をおかけしていますよね。すみません。でも大丈夫です。昨日、AIさんの記事の自分へのコメ返を見て、兄のところに行った時のことを思い出して記事を書いたんです。その旅行で滝を目にしたときの感動を思い出し、なんか、気持ちが少し楽になったというか、コメントで心配してくださるAIさんたちがいて、一人じゃないんだなって思えたら、それが力になったようです。ありがとうございました。アメリカ旅行の続き、また書きますから読みに来てください』
よかった。そう思ったと同時に、力が入っていたと感じるほどの上がっていた肩が下がったことを感じた。MASATOのこの書き込みから、MASATOの気持ちを少しは楽にできたこと、そして何よりこうして書き込みをくれるMASATOの気持ちが自分には嬉しくて、こんな些細な出来事と思えるようなところからもMASATOの……真崎先生の人柄をも感じ、愛美はもう何度も思い浮かべている真崎先生の顔を思い浮かべた。
けれど、いつも思い浮かぶ顔はあの階段での出来事の顔で、真崎先生のハッキリした顔はそれ以外に自分の中にはないことに気付いていた。それ以前、存在の認識はあったものの、その顔は靄がかかったように漠然としたものでしかなかったのだった。
「あっ、そうだ!」
真崎先生の顔を思い浮かべていて、ふと思い出したことがある。確か職員室の前に去年のサッカー部が県大会で優勝した時の写真が何枚か飾られていたはずだ。もしかしたらあの中に真崎先生が写っているものがあるかも。
愛美は4日後に迫った始業式、職員室に行く用事などなかったが、その場に行こう、朝早くなら人はまだ少ないだろう。写真が撮れるかもしれない。いや、ダメか。校則を細かく全部はチェックしていないけれど、携帯持ち込み禁止なんだからカメラだって、ダメに決まってる。でも……下校時間を過ぎてからなら、あ、でも午前で終わる日だから先生たちが職員室にいるに決まってるか。
愛美は一枚だけでもMASATOの顔が写る写真を手に入れたく、なんとかそれを撮れないかと考えを巡らしていたが、始業式当日は、まずはMASATOが……真崎先生が写る写真があるかどうか、その確認だけをしておくことだけをしようと思った。きっと、いつか真崎先生の顔を、写真を手に入れることもできるだろう。急がなくていい。だって学校が始まれば、いつだってMASATOに会えるのだから。
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