第28話 交流10

 図書館では愛美の思惑通り、美弥にリクエスト用紙を渡すことができ、予約してあった本を受け取ると、ディズニーに行ってきたこと、お土産もあるのに今日持ってくるのを忘れたことなどを美弥に話している美菜に、


「美弥ちゃんは仕事中なんだから、お喋りはそのくらいにして帰ろう」


そう声を掛け、


「美弥ちゃん、帰りに寄ってくれる?お土産もあるけど、今からクレープ作るから、美弥ちゃんと桃ちゃんと叔父さんの分も作るから」


「あ、ホント?嬉しい。じゃあ帰りに寄るね」


「いいですね、クレープなんかも家で作っちゃうんですね」


 図書館の裏口から入ってきて、カウンターに入っていた坂本拓也が横で話を聞いていた。それに半分の作り笑顔で頷くようにお辞儀をすると、美菜に「いこ」と声を掛け、図書館を出た。


「坂本さんって、優しいよね。いつも本を探すの手伝ってくれるし」


美菜のその言葉に、なんとなく頷きながら「そうだね」と返事をした。


 家に着くと、早速おやつ作りを始めた。愛美がクレープ生地を焼いている横で、美菜はバナナを横で半分、縦で半分にカットしながら、焼き上がったクレープを愛美がバットに広げておくと、薄く焼かれたそれは美菜が団扇で2~3回仰ぎ、冷えていたバットの上ということもあり、すぐに冷め、次のクレープが焼き上がる前に、美菜は大皿に移していた。その間も、美菜は何度も団扇で仰いでいた。


「お姉ちゃん、今日は私が飾りつけしてもいい?」


「いいよ。私たちの分はお皿に飾って、みんなの分は真ん中よりちょっとだけ手前にに長く生クリームで上にバナナ乗せて、その上からチョコソースをかけて包んでおいてね」


「私はチョコと生クリームたっぷりでいい?」


「いいけどちゃんとみんなの分が足りなくならないように……っていうか、先にみんなの分を作って、残りの生クリームで私たちのお皿を飾っちゃえばいいよ」


「やったぁ」


 そうだ。これもブログに載せちゃおう。美菜が飾ったクレープを写真に撮って、あとからお母さんに見せようよというのは、写真を撮る口実にもなる。


「前にピッコロで食べたクレープみたいに飾ればいいんじゃない?あそこのバナナクレープみたいにさ、包んだクレープを斜めに切って、ちょっとずらして置いて生クリームで飾って、上から斜めに細くチョコクリームかけてさ」


「うん、お店みたいになるよね」


「できたら写真に撮ろうか。あとでお母さんに見せよう」


 そんなふうにして、出来上がったクレープは、見た目は素人感が漂ってはいるが、それなりにお洒落に見え、横に添えたコーヒーカップと美菜用の牛乳とで、おやつ用に妹と2人で作りましたと載せるには、十分な見た目になった。

 

 でも、写っているのが牛乳だと子供っぽく見えるかも……と思い、写真を写す時、わざと中身が牛乳のほうは、中が見えないように写した。


「美味しいね」


 お皿に飾った生クリームをたっぷりとクレープに乗せ、大きな口で頬張る美菜は、やはりどう見ても中学生になるとは思えないほど幼く見え、ふと、自分も真崎先生の目には、こんなふうに子供っぽく見えるのかな……そう思い、真崎先生に自分がどう見えているのかが気になった。


 真崎先生は、MASATOの記事でもわかるように、愛美のことを同じ学校の生徒として、ちゃんと認識を持って見えている。やはり大勢いる生徒の一人で、全く意識などしていないだろう。


 少しだけ、寂しさを覚えた。


「美菜、食べちゃったらお姉ちゃんは2階で借りてきた本を読んでいていい?」


「いいよ、私は朝の続きを観てるから」


 片付けを終え、美菜がテレビをつけたところで、愛美は2階へ向かった。部屋に入ると、早速パソコンを立ち上げた。


 夜になったらと思っていたが、どうしてもMASATOに会いたくなったのだ。『会いたくなった』という表現をここで使うのは、おかしなことだろうか?だが、愛美はAIとしてパソコンの中にいるMASATOの言葉に『会いたい』そんな気持ちが湧き上がり、ブログの中でMASATOに会う。その言葉の特別感を、存在の特別感に変え、それでいいじゃないかという気持ちになっていた。


 

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