第27話 交流9

 愛美は昼食後に図書館に行くことにした。2冊を予約したときに、1冊はすぐに取り置きされ、それは始業式のあとでも取り置き期間に間に合うと思い、そこで行こうと思っていたものの、ブログを1日中やるほど、そこに変化はなく、やはり時間が空いてしまう。やはりここはいずれブログネタにもなることだし、さっさと読みたい本を読んでしまおうと思ったのだ。そのついでに、買い物をしよう。今日はおやつ用にクレープでも焼こう。クレープ用の粉は買い置きがあるし、キッチンのカウンターの隅にバナナがあったことも、朝、目に入っていた。あと、足りないのは生クリームだけだ。


「美菜、お姉ちゃんはご飯のあとに図書館に行くけど、どうする?」


「私も行く!この前の返すし」


「じゃあ図書館のあとスーパーに寄って、生クリーム買ってそのあとにクレープ焼こう」


「ホント?やったぁ、たくさん作ってね。あ、チョコのソースもかけて!」


はいはい、チョコのソースね。あったかな?と、食品棚を覗くも、チョコソースがない。じゃあそれも買わなきゃねと、昼食の片付けをしたあと、2人で自転車に乗り漕ぎ出した。


「もうその自転車に慣れた?」


「うん、こんなのすぐだよ」


 美菜は中学に上がるにあたり、年明けには新しい自転車を買い与えられていた。中学に上がるまでに慣れておくためでもある。

 

 シルバーの真新しい自転車は、使い始めて4年以上経つ愛美の自転車と並べて置かれると、その光具合いは一目瞭然に綺麗さが際立っていた。


「今日は火曜日だから美弥ちゃんいるよね」


「そうだね、美弥ちゃん……あ、お土産持ってくればよかった」


 母の妹の野々山美弥は、週に四日ほど図書館で働いている。美弥の娘の桃香は4月から中学3年になる。その桃香が中学生に上がった2年前からパートに出ることにしたようだ。司書の資格も持つ美弥は、上手いこと図書館のパートの口を見つけたのだった。というより、その空きを待っていたようだと母が言っていた。


「美弥ちゃんがいると本のリクエストしやすくていいね」


「そうだね、私も仙田さんの新刊のリクエストもしていこうかな」


 図書館では人気の作家の著書は毎回並ぶが、そうでない作家の本はリクエストがいくつかないと、購入されない場合がある。そうしたものでも、県内の図書館から取り寄せができることもあるが、その数が少ないこともあるので、できるだけ市内の図書館に置いてもらえると読み返しもしやすくなるので、愛美はリクエストをもう何度もしていた。

 

 その仙田という作家は愛美のお気に入りで、読みやすいミステリーなのだが、今一つ人気がないのか、毎回新刊が並ぶわけではない。そんなわけで、愛美はよくリクエストを入れていた。それもネットでできればいいのに、借りたい本の予約は図書館のHPからできるのに、リクエストだけは図書館に足を運び、リクエスト用紙に本のタイトルと作家名、発売日と出版社を書き込まなければならない。しかもリクエストした本が図書館に並んでも、リクエストした本人にはその連絡はないので、HPで時々チェックしている。


 そんなわけで、リクエストするときに叔母の美弥がいるのは有り難い。リクエスト用紙を美弥に渡すことができれば、それを覚えていた美弥が、リクエストした本が並んだことに気付くと、連絡をくれるときがあるのだ。


 図書館に着き、すぐ目の前にある自転車置き場に自転車を置くと、ちょうど移動図書館の車がその脇の駐車場に入ってきたところだった。


「こんにちは」


 車から降りてきてにこやかな挨拶をくれたのは坂本拓也で、その図書館で働く市の職員だ。その年齢はハッキリは知らないが、愛美の目にはまだ若く見えた。その坂本は叔母の美弥とも当然交流があるので、愛美と美菜が美弥の姪だという認識があり、会えば声を掛けてくれる。


「こんにちは」


 挨拶を返しながら2人で図書館の入り口へ向かった。

 

 今日もまた、坂本拓也の視線が自分からすぐには離れないことを愛美は感じ、その感情の流れを気にしながらも、気付かぬ振りをして背を向け、図書館へと入って行った。


 

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