第21話 交流3

 愛美は昨日、自分たちがどう行動したのか、どこでMASATOが自分を見かけたのかと、あれこれと思いを巡らしてみても、それがどこだったのか愛美にわかるはずもなく、せっかく同じ場所にいたのに、MASATOを見つけることができなかったことを悔やみながらも、昨日自分もそこにいたことをコメントに書くことで、AIの印象をMASATOに強く植え付けることができるかもしれないと思った。


 ちょうどいいことに、MASATOのこの記事は、ファンしか見ることができない記事なので、愛美が昨日そこにいたことを他人に知られることもなく済む。


 愛美はMASATOのその記事にコメントを書こうとして、ふと、そういえばと思い、まずMASATOのゲストページを覗いてみた。自分への返事があるかもしれないと思ったからだ。


 すると、案の定昨日自分が書き込んだゲストページに返事が入っていた。


 『AIさん、こんにちは。書き込みありがとうございました。登録もありがとうございました。これから一緒にブログ生活を楽しみましょう。これからよろしくお願いします』


 そう返事があり、一緒にと書かれたその部分がなんだか嬉しく、愛美は自分の顔がほころぶのを感じた。


 『こんばんは。MASATOさん、昨日ディズニーにいたんですか?奇遇ですね。実は私も昨日、ディズニーにいたんです!近いうちに記事にしようと思っています』


 記事の方にそうコメントを残すと、愛美は自分のホームに戻って、昨日の写真をパソコンに取り込むと、明日、いつでも記事をあげられるように写真の加工をしてパソコンを閉じようと思い、ふと、もう一度だけとMASATOのページを覗いてみたところ、書き込んだばかりのコメントに返事が入っていた。


 『AIさん、こんばんは。昨日、いたんですか!?すごい偶然ですね!わぁ、なんか嬉しいなぁ。記事、楽しみにしていますね!』


「うそっ、はやっ……って、これって今、同時にパソコンの画面に向かっていて、ブログをやっていたってことだよね」


 そう思ったら、なんだかMASATOの存在がものすごく身近なものに感じ、しかもコメントの返事に嬉しいって書いてあるし、記事も楽しみにしてくれていると思ったら、嬉しくて嬉しくて、ほころんでいた顔がさらにほころび、どんな記事を書こう、どうしたらMASATOの気を引くことができるか思いあぐね、消そうと思っていたパソコンをなかなか消すことができず、じゃあいっそ記事を書いてしまおうかと思っているところに、いきなりドアが開いた。


「ちょっと愛美、まだ起きてたの?いくら明日も休みだからって、もう寝なさい。明日はお母さん仕事なんだから、家のことも頼みたいんだからね、いつも通りに起きてもらうよ」


「はいはい、もう寝るから。ちょっと写真見てただけじゃん」


 そう答えながら見たパソコンに表示された時刻は、すでに翌日を迎えていた。


 母親が覗いた瞬間、咄嗟に画面の右上×をクリックし、見られてもいい画面にしたが、母はそのままドアを閉めて自分たちの寝室に行ってしまった。


 愛美は後ろ髪を引かれる思いがしたが、母に声を掛けられて気が抜けたのか、部屋で温まった遊び疲れた身体は、目を閉じた瞬間に眠ってしまいそうなくらいの眠気を感じていた。


 明日、記事を更新したら、きっとMASATOは読みに来てくれるはずだ。


 そう、ゆっくり進めよう。


 焦り過ぎて失敗しないように。


 自分が誰なのか、MASATOが真崎先生だと知っていることを気付かれないように、学生だともバレないように。


 愛美は思いがけず知ったMASATOという、先生じゃない人の部分としてのMASATOと交流してみたい気持ちが強くなっていた。


 それは、知った人というだけで、ちょっとした安心感があるから交流を持ちたかったというだけでなく、芽生えたものは恋に似た何かのようにも思えたし、そんな『人』としての部分と思いつつも、自分が生徒の立場では知ることができない、先生としてMASATOが知る学校内の話を知りたいという下心も、そこには確かにあるのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る