第20話 交流2

 愛美は、まだ目にしていなかったMASATOのファン限定記事の残りに目を通すと、自分のアボカドの記事にコメントをもらっていたので、お返しにMASATOのアボカドを育てることに失敗した記事に、『次は上手く育つといいですね』というようなコメントを残すと、もう一度、MASATOのゲストページを覗き、先程投稿したばかりのゲストページに返事がないことを確認し、明日は朝が早いと書いていたMASATOは、もう今夜はブログをやらないだろうと見当をつけ、自分のパソコンも消した。


 旅行から帰った時、何かしらの言葉が入れられるだろうと思うと、先程の寂しい感情と綯い交ぜにある期待感で、しばらくぼんやりしてからベットに入った。


 翌朝の早朝4時半、まだ暗い夜の中で愛美は目を覚ました。


 今朝は6時に出発する、朝食は車の中でということで、朝は身支度だけですぐに出発できるよう支度をするようにと言われ、それは5時過ぎに起きても余裕で間に合うので、目覚ましは5時15分に合わせてあったのだが、眠りが浅いのか目が覚めてしまったのだ。


 昨夜はベットに入ってからも、胸が高揚していたためかなかなか眠りにつけず、かといって、寝不足という感覚はすぐには出ず、ただ気になるのはそこにあるパソコンの中にあった。もしかしたら、もしかしたら……そんな微かな期待感がどうしても拭えず、出発の前にブログを見ようと、ベットの中で考えていたこともあって、眠りが浅かったのかもしれない。


 愛美はパソコンを立ち上げると、自分のホームに書き込みがないことを確認した。


「やっぱそうだよね」


 そしてその少しの寂しさと共にMASATOのブログへと飛んだ。


 MASATOのページを開くと、自分への書き込みがないことを確認した。夜に書き込みがないんだから、早朝出かけるはずのMASATOはブログなど開かないだろうとは思っていたが、愛美は確認せずにはいられなかったのだ。


 これで心置きなく出かけられる。


 MASATOから何かしらのアクションがあった場合、それに対する返事が遅れる心配はこれでなくなった。それはそれで、愛美にとっては安心でもあったのだった。



 ディズニーに旅行中は、どこにいてもMASATOがどこかにいるのではないかと、ついその姿を探している自分がいた。


 列に並んでいる間も、通り過ぎる人たちを目で追い、食事中も、どこかの席にいるのではないかと目を凝らし、外を歩くかもしれないと窓に目を向け、買い物をしているときにもそこら中に目を向けてみたりしていたが、どこにもMASATOの姿も、もしかしたらの知っている先生の姿も見つけることができず、あれだけ広大な中でそれは奇跡だろうと、もともと自分でもそう思っていたので、やはり見つけることはできないんだなと、そう思いながら楽しむことも忘れず、ブログ用に家族や他人が映り込まないように注意しながらの、そこがディズニーだとわかるような数枚を撮ることもできた。


 翌日も、MASATOたちは今日はそこにいないと予想は出来ていたが、愛美は海を模した隣のディズニーでも、目はMASATOを探していたのだった。


 夜遅くに帰宅した愛美は、ブログ用に撮れた写真をパソコンに取り込むことももちろんだが、それよりMASATOのことが気になり、早々に入浴を済ませると、まだお土産を広げてあーだこーだと両親と話す美菜を横目に、「おやすみなさい」と声を掛け自室に向かうと、すぐにパソコンを立ち上げた。前日の朝、それを開けたばかりだったが、もう何日もブログを開いていなかったような不思議な感覚を味わいながら自分のブログ画面を見るも、それは昨日の朝に目にしたのと同じ、変化のない画面がそこに現れた。


「そりゃそうだよな。昨日の今日で、書き込みなんてそんなにあるわけないか」


考えてみたら、新たな記事の更新もしていないから、AIのブログへの書き込みなんてあるはずがない。愛美は、逸る気持ちを抑え、まず自分のホームを開いた。そこにゲストたちが新たに更新した記事の案内が載るからだ。


 すると、MASATOが新たな記事を更新した案内があり、そこにはファンだけが読める限定のFを模したアイコンと共に、ネズミというタイトルがあった。ついでに、ネコやSUNの新たな更新記事も載っていたが、それらには目もくれず、愛美はMASATOの新着記事へと飛んだ。



     ネズミ(F)


   ここに来るのは1年ぶりになるだろうか。


   いくつになっても、ここは夢を見させてくれる場所だ。


   気の置けない仲間たちとの遊びは、いいねぇ。


   全員の行きたいところを順番に回ったりして、


   時間の許すかぎり、めいっぱい楽しんだ。


   そんな楽しい時間をここで過ごしているのに、


   やはり、思い出してしまうねぇ……


   あの時は……この時は……


   目頭が多少熱さを覚えたけれど、それでもこの仲間はいい。


   ちゃんと楽しめた。よかった。



   そういえば、知っている子を見かけたような気がする。


   2年の担任を持つKさんに聞いてみたけど、Kさんも似てるけど……と、


   私服姿ということもあり、ハッキリそうだとはわからないようだった。


   でも、考えてみたらネズミの遊園地にはものすごい人がいるんだから


   似てる人の一人や二人はいるんだろうな(笑)



 そんな記事と共に、グーをした6つの手が円を描くようにくっついている、いかにもSNS向きと思われる、その場所だとわかる案内のある前で撮られた写真がUPされていた。


「知っている子……って、まさかね」


 2年のK先生という言葉が引っかかった。Kというイニシャルがつき、若い先生といえば、2-4を担任していた家庭科を教える久保田先生しか思い浮かばない。その先生に聞いてみたということは、2年生なんだろう。


 愛美はもしかしたら自分のことかなと思いつつも、あれほどまで目を凝らしても見つからなかったMASATOたちが、自分を見かけるはずなどないとも思っていた。


 ふと、その記事のコメント欄が目に入った。記事に気を取られ、そこに目をやるのが一瞬、遅れたのだ。愛美はそこに書かれた、さつきからのコメントの下のMASATOの返事に、目が釘付けになった。


 『さつきさん、そうなんですよ。知っている子というか、以前ここに書いた、階段で手に持っていた教本や資料をぶちまけたとき、それが下にいた生徒にあたらなくてよかった、あの子に似てると思ってね。危なかったからヒヤッとしたからか、あの子の顔が頭にインプットされててね(笑)』


……えっ?……


……えっ?……


「えぇっ……それって、あたしじゃん……」

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