第2話 出会い1
春休み中のその日も、朝食後に朝のワイドショーを見ていた。
愛美は小学生の、思い出せるのは高学年の頃からワイドショーが好きで、夏休みや冬休みなどは朝からワイドショーに釘漬け状態だった。
今、世の中で起きている事件事故、芸能人のあれこれ、今流行っているもの等々、いろんな話題を見て、こういう時はどう危険から回避するのか、こういう場所は危険だから行かないようにしよう、こういう話は詐欺だとか、自分としては社会勉強のつもりもあって、見ているつもりだった。
もちろんそれだけではなく、野次馬のような気持ちがどこかしらにあることも否定はしない。
そんな、いつも通りのワイドショーを見ていると、最近流行っていることを話題にしていた。
「ブログ?それって、なんですか?新種の食べ物?」
その日、ワイドショーで取り上げられた話題に、目が釘付けになった。司会をしているアナウンサーも、その存在を知らなかったようで、「ネットで噂の」というキーワードで、若者の間で新しく流行っている食べ物だと思うさまが、なんだか可笑しくもあった。
愛美は、すでにネットの掲示板や悩み相談のようなサイトを覗いて、ネットの中の人々の交流を横目で流して、ごくたまに、読書の話題で自分が読んだ本の内容が取り上げられていたりするときに、数回書き込んだことがあった。
ブログか。そんなサイトがあるのは知らなかったな。ちょっと覗いてみよう
春休み中でも、出歩くことがあまり好きではない愛美は特に予定もなく、共働きの母に頼まれた朝の家事を済ませると、休み明けには中学生になる妹と自分の昼食の支度まで暇な時間になる。
ワイドショーも終盤となり、天気予報を見終えたところで消した。
「美菜、お姉ちゃん部屋に行くよ。あんた午前中は家にいるんでしょ?」
リビング横の和室にあるテーブルの上に、母が用意した「小学校の復讐」という問題集を広げやっていた妹に声を掛けると、美菜はそれに頷いた。
「早くこれやっちゃう。できないとディズニーランドは中止だって」
そんなわけないでしょ。そう思ったけれど、それは言わないことにした。今週末、中学生になると部活があったりして思うように行けなくなるからと、その前に一度行ってこようと、仲良しの里奈ちゃんがこれまたディズニーに行くとかで、どこかに行きたいという美菜の訴えで、行くことになったのだ。
「じゃあさっさとそれやっちゃわないとね。あたしも楽しみにしてるし。じゃあ、お姉ちゃんは上にいるから何かあったら呼んで」
ぶぅ、といった顔をした美菜を無視して、台所で自分のためにコーヒーを入れ、美奈にはココアを入れ「はい」と渡すと、自分のコーヒーを持ち2階の自分の部屋に向かった。
部屋に入ると、ローテーブルにあるパソコンの電源を入れ、立ち上がるのを待つ間にコーヒーをひと口飲み、机の一番下の引き出しに入れてあるアーモンドの入ったチョコを3つ取り出すと、ひとつを口に入れた。
父が新しいパソコンを買ったため、お下がりでもらったパソコンだが、まだまだ全然普通に使える。これをもらえることになったのも、テストでいい順位を続けて取れていたからで、入れたのはそれなりの高校だけれど、上位の成績が取れるようになって、本当によかったと、この時ばかりは心からそう思った。
「ブログブログ、ああ、ここだな」
それはいつも見ている掲示板のずっと下にあって、今までそれを開いてみようとすらしたことがなかった。
そもそも掲示板を見始めたのも、クラスでそんな話題があったためで、愛美は慎重の上に慎重を重ねたような性格で、わからないもの、知らないものへの入り口はとても狭いのだった。
愛美は早速、ブログのサイトを開いた。
まず、ワイドショーで紹介されていた料理のブログを覗いてみた。そこは番組で目にしたのと同じ記事があり、スクロールして行くと、一番下にコメント欄があり、そこには人気ブログだけあって、200を超えるコメントが書かれており、その半数近くは管理人が返事を書いているので、ゲストの実際のコメントは100ほどだった。
そのやり取りを見て、こういう趣味みたいなことで集まった人たちとの交流も面白いかもと思い、愛美は、自分の趣味でもある読書のブログを検索してみることにした。
『読書』のキーワードでまず開いてみると、その感想を書いているブログが紹介されていて、ちょうど目に入った記事のタイトルに、その頃に読み終えた本と同じものを見つけ、それを開いてみた。
そこにも、管理人の感想と共に、コメント欄には同じ本を読んだ感想や、ミステリーの読み解けなかった部分の話など書かれており、それにも管理人が返事を書いて親しくやり取りしているさまが、そこに「生」を感じて、愛美は『やってみたいな』という気持ちに寄っていた。
そのページを見ていると、いくつかのカテゴリーに分かれていて、そこにその管理人の趣味の記事を見つけ開くと、そこには読書のページとは全然違う、自分で育てている植物のことで書かれていて、そこには先程の読書でコメントを書いたゲストや、また違う植物のことだけで繋がっていると思われるゲストもいて、ここでも同じブログの中でいくつもの、その管理人の「生」を感じ、同じくその管理人の別のカテゴリーも開いてみると、家族について書かれている記事だった。
「あ、子供いるんだ。小学生と幼稚園っていうと、うちのお母さんたちよりちょっと下かな」
特に年齢が書いてあるわけではなさそうだが、記事の中からだいたいの年齢が見えてくるな。
愛美は、この管理人は、その家族の記事を読むまでは、休日は読書や植物を育てることを趣味とした、30くらいの独身の男性かなと思って読んでいた。なぜ男性かと思ったのかは、ハンドルネームに『KUMA』とあったからだ。男性だったというところだけは、愛美の予想どうりではあった。
そういえば以前、ワイドショーで取り上げていた話題に、『なりすまし』という言葉があったな。ネットで知り合って、いざ会ってみると、見せてもらっていた写真とはまるで別人で、年齢も聞いていたのとは違って、騙されたと思った男性が女性に手をかけるという事件にまで発展したという話だった。
そういうこともあって、愛美はインターネットを使うときには、慎重の上に慎重を重ねて書き込みをするようにしていたのだった。
やはり記事だけで相手を全て知るというのには無理があるな。
これを始めるにしても、気をつけなければいけないことはたくさんあるなと、やってみようという気持ちになりかけてはいたものの、すぐに飛びつくことはせず、もうしばらく静観してみようと思い、そこでふと思いついた。
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