第3話 出会い2
誰か知っている人でブログをやってる人はいないかな?
春休み中に観たテレビの情報番組で『ブログ』が取り上げられていたのを見聞きし、愛美は興味本位で、ブログ検索に何人かの友人の名前を検索してみた。が、見知った名前は見つからない。
考えてみたら当たり前だ。
こうしたネットの中では、ほとんどの人がハンドルネームを使っている。
「さすがに本名じゃあいるわけないか」
愛美はそこで、ふと、思いつくあだ名や、友人の呼び名も検索してみたが、いくつかヒットはするものの、たまたま同じあだ名の別人ばかりだ。こういった場所で、自分が誰なのか特定されるようなハンドルネームなんか使わないかと、友人の検索は諦め、最後まで検索していなかった、その人の呼び名を入れた。
それは、愛美の初恋の相手で、ほんの1年ほどではあったが、交際のようなことをした相手だった。
交際のような、というのは、中学3年生の頃の話で、周りに冷やかされることを避けるため、学校の中でも誰にも知られないようにと、密やかに交際をしていたため、デートなどというものも数えるほどしかなく、それも互いの家でお喋りをしたり、別々の塾に通っていて、同じ曜日の塾帰りに待ち合わせて、数分だけでもと公園でお喋りしたり、自転車で並んで一緒に帰ったり、クラスの違う2人は、偶然廊下ですれ違う時、互いの視線を絡め合い、その時の高揚感は、今思い出しても胸が鼓動し始めるほどだった。
高校受験が近づくと、県内トップの進学校を目指す彼は、どっぷりと受験モードに入り、入れるところでいいやという愛美とでは、時間の使い方が真逆といってもいいほど彼は勉学に励み、ただでさえ少ない2人の時間は、日を追うごとにさらに減り、このまま自然消滅なんてことになったらと怖くなり、塾帰りの夜、いつもの公園で愛美は彼に言ったのだ。
「今は受験に集中したほうがいいよ。志望校に受かるように頑張ってね。私も頑張るから。受験が終わったら、またお喋りしようね」
それは自分に対する保険のようなつもりだった。こうしておけば、連絡が来ないことも不自然なことではなくなるような気がしたのだ。
受験が終わり、彼はトップ高へ進むことになり、そのすぐ後には卒業となり、その喧騒の中、愛美は、『今はまだ忙しいんだよね。勉強は大変みたいだし、きっと落ち着いたら連絡をくれるはずだから、私はそれを待っていればいいよね』自分にそういい聞かせた。
受験が終わったのになぜ彼の勉強が大変なのかというと、同じトップ高へ進学が決まったクラスの子が友人に話していたことを耳にしたからだった。
「信じられない。高校に入学手続しに行ったら、大きい厚い封筒をもらって、それ、入学式に提出っていう宿題だった。春休みどころじゃないかも」
そんな話を聞き、彼から連絡がないことも仕方がないと思い、愛美は自分から連絡することをせず、連絡を待つことにしたのだった。
そんな彼から連絡が入ったのは、既に4月に入り、愛美が自分の入学式を明日に控えたときだった。
勉強が忙しくて連絡できなかったことの詫びと、高校は勉強が大変そうで、また連絡できないことが続くかもしれない。マナも高校で新しい友だちができるといいね。勉強も頑張ってねという、連絡事項のような電話だった。
その後、4月末に一度連絡があり、GWといっても遊んでる暇はなさそうという話と、その後、6月に入って連絡が来た時には、電話ではなく手紙だった。
『マナ、ずっと連絡できなくてごめんね。これじゃあ付き合ってるっていえないね。でも本当に精一杯なんだ。中学では上位だった自分が、今は下から数えたほうが早いくらいなんだ。こんなに大変だと思わなかったよ。こんなはずじゃなかった。ごめんね、もう自分には今、マナのこと考えている余裕がないから』
これは、別れの手紙だ。
「別れよう」そんな言葉はどこにもなかったけれど、彼の意図くらいはしっかりと読み解けた。
それでも愛美は、別れの言葉がないのだから、もう少し時間が経てば、彼が学校に慣れてさえくれれば、と、淡い期待をほんの少しの希望に変えて、
『連絡してくれて、ありがとう。そうして気にかけてくれてたこと、嬉しく思うよ。勉強、大変だね。今は余計なこと考えず、自分のやることに集中したほうがいいよ。頑張ってね、ずっと、応援しているから』
私も、「別れましょう」とは書かなかった。
それから1年以上、何の連絡もない。覚悟はしていたけれど、彼の中では終わったことなんだろう。私の中では、終わったどころか、そもそも始まっていたのかさえあやふやなのに。
心の中で、今でもずっと生き続けているその人の名を、検索した。
―増井真人
HITなし。
―まーくん
―まっくん
―まさと
検索ワードにいくつか同じ呼び名が現れた。その中で、ブログのページを拾って、いくつか開いて見てみた。が、どれも彼を思い起こさせるブログではない。考えてみれば、そんなことしている暇があるわけがない。
それに気づいたのは、そんなことをしていたときだった。
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