第4話 出会い3
危険
今日、階段で大量の資料をぶちまけてしまった。
なんとか全部持って行けると思ったんだけどな。
ちょうど下から上がってきた子がいて、その子に当たる寸前だった。
危なかった。何事もなくて心底ホッとした。
その子が一緒に資料を拾ってくれた。感謝。
二度とそんなことがないよう、気をつけよう。
えっ?いや、……まさかね。
愛美は自分が経験したのと似たような出来事が書かれているその記事を見つけて、ドキッとしたが、同じようなことは日々いろんなところで起きているだろうし、たいして珍しくもないことだとも思ったが、それでも書かれた日付も確かその日だったような‥‥‥と、同じ日のことで、何かしら心に引っかかるところがあり、そのブログの管理人のプロフィールをクリックした。
ハンドルネームは『MASATO』
趣味『サーフィン・サッカー・祭り・時々読書』
まさと?サッカー……
自分が階段で拾い集めた書類、あれを手渡した先生は真崎先生で、真崎先生って、名前は確か……
愛美は、1年が終るので捨てるつもりでまとめてあった紙ゴミの中から4月に貰った教員一覧の用紙を探し出し、その中から真崎先生の名を探した。
真崎直人。
それが階段で資料を拾って渡した先生の名だった。
「直人、なんだよな。『まさと』じゃない。でも、サッカーが趣味って、確か真崎先生って、サッカー部の副顧問だったような……。直人っていう本名をハンドルネームにするわけないし、『まさと』って、真崎の『まさ』と、直人の『と』だったりして」
そんなわけないかと思いつつも、もしかしたらという気持ちで、愛美はそのMASATOのブログの記事を遡って読んでみた。
歴史
仕事柄、歴史の本を読むのは好きだ。
新しい発見があると、今まで知っていた歴史の一つが、
新しいものに塗り替えられることがある。
それ自体は、新しい発見によるもので、ゾクゾクする事柄なのだが、
一度覚えた歴史が新しく塗り替えられたことを知らないままだったり、
知っても記憶を塗り替えることに成功していないの大人もいる。
今日のクイズ番組で、
自分自身が塗り替えられる前の答えを画面に向かい答えてしまい、
正解を見て、「しまった」と、いかに学生の頃に何度も復唱し覚えた記憶が
脳内に刷り込まれていたのかを思い知らされ、愕然とした。
「ええ~っ、そんな大袈裟な」
愛美は思わず口にして、のけぞって笑った。
それにしても、仕事柄、歴史、……まさかね。と思いながらも、もしかしたらこのMASATOって、本当にもしかしたら、真崎先生??
「おねーちゃーん、お昼の支度まだ~?」
階段の下で、美菜が大きな声で呼んでいる。
ふと時計を見ると、もう12時近かった。
愛美は急いでパソコン画面を閉じ、階下に向かった。
午後になると、美菜は里奈ちゃんと約束があると言って、出かけてしまった。これ幸いと、愛美は検索の続きをはじめ、その日のほとんどを、真崎先生かもしれないMASATOのブログを読むことに費やした。
夏の頃の合宿のこと、一緒に合宿に行った顧問とのやり取り、秋の大祭りの話などを読み、そのコメントのやり取りを目にしていると、やはりこれは真崎先生なんじゃないかという気持ちにかなり傾いていた。
その頃になると、愛美の気持ちはブログをやってみようにだいぶ傾いていて、開設するためにはという、操作のやり方を何度も読み込んで、その日のうちにブログを開設してしまっていた。
なんでもめんどくさがる愛美にとって、ネットに入り込むことに対して、慎重に慎重を重ねる愛美にとって、それは自分でも驚くほどの行動力だった。
いざ自分が管理人となると、画面には自分にしか見ることができないいくつもの設定画面があり、その一つ一つに目を通し、自分が誰なのか、個人が特定されないために気をつけることを確認しつつ、ブログをはじめるにあたって一つ一つ必要だと思われることを自分で創り書き込んでいくと、他人のブログを読んでいるだけではわからなかったことがいくつもあることに気付き、この日は記事を書くというところまでいかず、ひたすら自分のブログ作りに時間を費やした。
もちろん、その合間にちゃんと言いつけられていた家事も済ませた。
それが、父のお下がりのパソコンをもらい受けるときの約束でもあったからだった。
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