第5話 出会い4
翌日も、朝食の支度だけした母が仕事に出かけると、愛美は朝食の片付けから洗濯、掃除を済ませると、平日が休日のいつものように、ワイドショーをつけそれを見始めた。
美菜も昨日と同じように、横の和室で問題集を広げている。
それを横目にワイドショーを見ていたけれど、愛美の気持ちは上の空で、あれだけ好奇心のまま見ていたワイドショーが、ひどく薄っぺらいものに思え、気持ちは早くパソコンをしたいに傾いて、それが気になって仕方なくなっていた。
「美菜、お姉ちゃん2階に行くけど一人でいい?」
「いいけど、テレビ見なくていいの?」
「うん、今日はね、面白い話題もないみたいだしね。ココア入れてく?」
「まだいい。飲むときは自分でやるからいいよ。ねえねえ、今日は2時に里奈ちゃんがくるけど、お姉ちゃんなんか作ってくれる?昨日クッキーもらったし」
「う~ん。じゃあ、お昼にパンナコッタ作るよ。3時頃には食べごろになってると思うし」
「わ~っ、ありがとう。いっぱい作ってくれる?夜も食べたい!」
「はいはい。その代りお昼はナポリタンだよ。生クリームをパンナコッタに使うからね」
「いいよいいよ。なんでもいい」
そもそもは美菜のリクエストで今日のお昼はカルボナーラだったのに、ナポリタンになった。愛美もパスタならカルボナーラの方がいいなと思ったけれど、仕方ない。
お菓子作りをする愛美にとっても、パンナコッタは好きなお菓子なので、どちらか選ぶとすれば、やはりパンナコッタだ。冷蔵庫を開け、材料を確認して、自分のためにアイスコーヒーを入れると、それを持ち2階へと上がった。
愛美はすぐにでもパソコンの前に座りたかったが、はやる気持ちを抑え、まず2階の両親の寝室、美菜の部屋、自分の部屋と掃除機をかけた。2階は1日おきに掃除機をかける。これも約束事の一つだ。自分の部屋を掃除するついでに、先にパソコンの電源を入れた。立ち上げに多少の時間がかかるので、こうしておけば掃除終わりですぐにパソコンに取り掛かれるからだった。
掃除を終え、勉強机の上に置いたアイスコーヒーをひと口飲み、ローテーブルに置くと、昨日お気に入りに入れておいた、MASATOのブログを開いた。なぜログインして自分のブログを先に開かないのかというと、訪問先に自分の履歴が残るからだ。ログインしたブログ画面からも履歴を消す方法もあるがひと手間が面倒だし、愛美にはささやかな思惑があり、履歴を残したくないときは、ログインする前に、訪問してしまうことにした。
すると、『アボ』というMASATOのブログの最新の記事のタイトルが目に入った。
え?アボ?アボって、なんのことだろう?そのタイトルを先に目にし、全くの意味不明だった愛美は、興味津々でそれを読みはじめた。
新しいアボの種を水耕栽培で育ててみようと思う。
この前のアボは、全く芽を出さない。
仕事が忙しく、水を足し忘れたりしてしまうのがいけないのだろう。
というのは言い訳かもしれないけど。
しかし笑える。
水の中が好きなのに、アボに水やりを忘れるとは……
なんだ、アボカドか。っていうか、アボカドなんか育ててるんだ。でもアボカドって、あの種で自分で育てられるのかな?
愛美の母はアボカドが好きで、よくサラダに使っているが、あの種、いつもそのまま捨てちゃうと思うけど、あれで水耕栽培できるんだ。愛美は、あのまあるくて固いアボカドの種を思い浮かべ、そこでハタと思いついた。
そうだ、私もアボカドの種、育ててみよう。
それにしても、水の中が好きなのに水を忘れるって、真崎先生笑える。
愛美はアイスコーヒーをひと口飲み、チョコを一つ口に入れると、MASATOのブログを閉じ、今度は自分のブログにログインして入った。
愛美の中では、もう間違いなくMASATOは真崎先生だった。
自分のブログを開いた愛美は、昨日いくつかのブログを読んで気付いた、ファン機能を今日は使ってみようと思っていた。どうやらファンにしか読むことができない記事というものがあるようで、その仕組みを知るためにはまず自分が誰かのファンになることが手っ取り早いと思ったのだ。
昨日、愛美は自分が読んでいる、或いは最近読んだ本のタイトルで検索していた。
そこで自分と同じ本を最近読んだ人を探し、2人に目星をつけた。それはそれぞれがブログ歴が長めで、既に何人かの人たちと交流を持つ人たちだ。まず、この人たちのブログで書かれている自分が読んだ同じ本の記事にコメントをしてみよう。そのためには、自分もこのタイトルで記事を書く必要がある。
愛美は自分のブログにログインして入ると、記事を書く操作に入った。
ふわふわさん
逝ってしまった人の想いの行方は……その言葉に惹かれて読んでみました。
読み進み、終盤に行くほど、切なさは増し、
想像していなかった展開になり、杉田先生の想いはどうなってしまうんだろう?
結果の見えない感情の塊りが、その辺にふわふわしてるんじゃないかと思うと
どこでも迂闊に歩くことさえできなくなりそうで、少し怖い。
けれど、私には何も見えないので、
迂闊さもそのうち薄れ、消えていくでしょう。
ただ、こうした想いを重く残すことがないよう、
その時々で、伝えたいことは伝えることができるような、そんな人になりたい。
そこまで書くと、愛美は更新ボタンを押した。
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