第12話 出会い11


 2階に上がってきた美菜が自分の部屋でなにやらガサゴソと音を立てていたかと思うと、愛美の部屋のドアを開け「おねーちゃん、行ってくるねー」との声かけに、「はいよ、鍵してね」と返事をすると、これで誰にも邪魔されることなくブログができると思い、肩から力が抜ける気がした。


 美菜が家にいても邪魔されることなどほとんどないのだが、今のように自分の部屋にいた美菜が、急に愛美の部屋を覗くかもしれない、そんな不安が拭いきれないので、美菜がいなければその微かな不安が消えることには、やはりホッとする。


 このブログの存在は誰にも知られたくない。


 たとえブログの意味などまだよくわからない美菜からでさえ、どこからそれが漏れるかもしれない危険がある限り、注意するにこしたことはない。


 愛美は先程と変化のない自分のブログを覗いた後、MASATOのブログを覗き、そこにも変化がないことを確認し、そこからさつきのブログへと飛んだ。今までのさつきとのやり取りが気になったからだ。


 遡って公開されているさつきの記事のコメント欄からMASATOの名前を探してそのコメントを読んでいると、さつきという人が元教員だと思われることに気付いた。なるほど、同業者だったこともあり、親密な感じになっているのだろうと察しをつけ、子供がいるらしい、あきらかにMASATOより年齢がだいぶ上だと思われるさつきというブロガーに先程感じた嫉妬めいたものが、多少薄れていくように感じた。


 MASATOのブログへと戻り、一度ログアウトしてそれ以外にMASATOがファン登録をしている人たちのブログを覗いて見たが、やはり同業者が多く、中には主婦だと思われる人や学生のようなブロガーもいた。


 ただ、やはり公開されている記事からでは、全部はわからない。


 ネコさんのように、公開記事からは主婦だとわからない人がいたように、見えてない記事でMASATOがどんな人と交流をしているのか、全部はわからない。愛美は、そのことがもどかしくて仕方がなかったが、それは匿名のこんな場所なんだから仕方がない。それよりも、早くMASATOと交流を持ちたい。今はその一心だった。


 時計を見ると、既に3時を過ぎており、愛美はパソコンの電源を落とし、洗濯物を取り込んでたたみ、自分のためにアイスコーヒーを入れ部屋に戻ると、机の引き出しから大袋に入るアーモンドチョコを3粒取り出して、一昨日から読んでいなかった『その道化師の名は』の続きを読み始めた。


 それは、今までは単に内容を知りたい、ミステリ―を解きたいと、楽しむための読書だったが、今はブログネタが欲しいという気持ちに傾きつつあることに気付き、読み始めてから読むことに焦っていて、『あ、ここネタになりそう』『これ、ネタバレに繋がりそう』と、集中力が途切れていくことを感じ、大切にしていたものから魂の一部が抜けていくように感じ、気持ちを切り替えるために大きく息を吸い込んで吐くと、本と閉じてベランダに出て胸の前で両手の指を絡め、それを高―く上に伸ばして、大きく背伸びをして部屋に戻ると、アイスコーヒーを一気に飲み干して、一粒のチョコを口に放り込むと、また読書をするために、ベットに腹ばいに寝転んで、読書しやすい体勢を整えて読み始めた。


 その日の夕食を終え入浴も済ませると、部屋に戻った愛美はパソコンを立ち上げた。


 ブログを開いてみると、アボカドの記事にSUNからコメントが入っていた。


 『面白いですね。これで大きくなっていくのかな?アボカドって、自分で買って食べたことないんだけど、面白そうだからやってみようかな』


 『SUNさん、私も初めての試みなのでどうなっていくのかわかりませんが、アボカドの輪が広がっていくと嬉しいです』


 そんなコメントを書いてからSUNのブログへ飛び、『今日の空』という記事にコメントを残してからMASATOのブログへと飛んだ。


 MASATOの今朝の記事へ入っていた新たなコメントに目を通して、そこにMASATOからの返事がないところを見ると、MASATOはあれからブログを開いていないのかなと思い、自分のブログへと戻り、昨日写真に撮ったパンナコッタの記事を書こうとしたが、止めた。


 それは、パンナコッタの記事を最新にしてしまうと、MASATOがアボカドの記事を目に留めることがなくなるのかと思ったからだ。


 愛美はしばらく新しい記事を書かず、最新の記事をアボカドにしておくことにした。


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