第11話 出会い10

     海


   今朝は自分がサーフィンをはじめてから5本の指に入るようないい波で、


   偶然にもそんな今日、有休をとっていたので、


   時間を気にすることなく、思う存分、波に乗ってきた。


   一緒に行ったM先生は仕事のため早々に引き上げなければならなく


   随分と悔しそうな顔をして帰って行った。


   一緒にと書いたが、海へは別々に行ったので、


   一緒にというより、海で待ち合わせたというべきか。


   と、そんなことはどうでもいいか(笑)


   ボードの手入れも終わったし、


   海の帰りに寄った、話題のラーメン屋でお腹はいっぱいだし、


   昼寝でもしようと思う。


   海に行くための5時前起きだったのでね。


   有休バンザイ(笑)



 有休か。そうか、春休みで先生たち大して忙しくもないのかな。


「おねーちゃ~ん」


「あっ、やばっ」


 階下から美菜の声がして時計を見ると、もう12時まで数分だ。今日の昼食はサンドイッチをと思っていたけれど、そうだフレンチトーストにしよう。先程、ネコさんのブログを見たときにそう思った愛美がキッチンに行くと、既に美菜が水を入れた鍋に卵を入れて、火をつけるだけにしていてくれた。


「ごめんごめん、宿題に集中してた」


 進学校でもない高校の春休み、宿題などほとんどないのだが、この言い訳は有効利用できる。


 頭の中でサンドイッチがフレンチトーストだった愛美は、またもや頭の中を修正し、サンドイッチに切り替えると、美菜に「ありがとう」と言い、鍋に火をつけて、これまた冷蔵庫から取り出してくれてあるキュウリを薄く切り始めた。


「ねえねえ、お昼食べたら昨日のパンナコッタ食べていい?」


 なるほど、準備をしてくれておいたのにはそんな思惑があったのか。ちゃっかりしてる。昨日、あげるといったではないか。愛美は思わずクスリとし、「いいよ」と返事をした。


「サンドイッチだからココアでいい?お姉ちゃんはあったかいのいいやつで入れるんでしょ?」


「うん、準備してくれる?」


 そう言葉をかけるよりも早く、美菜はドリップの準備を始めていた。

美菜の言う、『お姉ちゃんのいいやつ』はドリップしたコーヒーだとわかっているところがにくいところだ。


 卵とハムにキュウリのサンドイッチを食べ終わると、美菜はパンナコッタを冷蔵庫から取り出して、「お姉ちゃん、あげる」と、上に乗せた桃をスプーンに乗せると愛美に向かって差し出してきた。こんなことをされると、「いいよ、美菜が食べな」と言ってやりたくなるものだ。優しさには優しさで返す。いつも母が言っている言葉だ。


「いいよ、美菜、桃も好きでしょ」


 ニコリとして桃を口に入れると、「美味し~い」と、あっという間にパンナコッタを平らげた。


「美菜、午後は本屋さんに行くとかって言ってたよね?」


「違うよ、図書館だよ。里奈ちゃんと亜弥ちゃんと2時に学校で待ち合わせ。里奈ちゃんが1時45分ごろに来て、一緒に学校まで行く」


「そう、じゃあ気をつけて行きなね。5時半までには帰ってきてよ。それとお姉ちゃんは上にいるから一応行くときに声を掛けてよ」


「うん。だから里奈ちゃんは5時までだから5時にはくるよ」


 あ、そうだったと頷きながら昼食の片付けを終え、愛美はまたパソコンに向かおうと2階へと向かった。気持ちはとっくに、MASATOのブログへと飛んでいた。


 再びパソコンを立ち上げると、早速MASATOのブログへと飛んだ。先程見てから1時間半ほどしか経っていないので、コメントも入ってないだろうと思っていいたけれど、既にコメントが書かれていて返事まで入れてあった。


 コメントの主は、『MASATOどの』のさつきさんだ。


『MASATOどの、今朝はサーフィンでしたか。波の具合もよさそうで、よかったです。ところで美味しいラーメン屋とは気になります。教えていただけると嬉しく存じます』


「存じます……だって」


 その言い回しがすごく年上に思えた。そもそも『どの』なんて付けちゃうんだから、かなりの年上かも。前の記事でも、『懐かしく』なんて書いてあったし。それにしても『教えていただけると』なんて、……もしかしたら案外近くに住んでるのかな?


『さつきさん、ありがとうございます。気持ちいい波でした。ラーメンお好きですか?もちろんお教えしますよ。ではそちらへ……』


 愛美はこのMASATOの返事にも引っ掛かりを覚えた。

『そちらへ』って、どういうことだろう?


 そうか、ゲストページを使えば、誰にも知られずにやり取りできるんだ。そう思うと、それが知りたくもなるもので、愛美はMASATOのページのまま一度ログアウトし、その状態でさつきのブログへと飛んだ。それはもちろん自分の履歴を残さないためでもあった。


 さつきのブログへ飛んで、まず目に入ったのはゲストページにつく『NEW』の文字で、それは新たに何かの書き込みがあったことを示すものだった。


 やはりこれはと、さつきのゲストページを開くと、そこは真っ白で、たった一つ『投稿がありません』と書かれた文字だけが表示されているだけだった。ゲストページには最大で5件が表示される。それが一つも見られないということは、その5件とも全て鍵付きの『内緒』で書かれたものだということがわかる。


「なんか、嫌な感じ。まさか全部MASATOじゃないよね……」


 愛美はMASATOが自分の知らないところで知らない人と交流しているかもと思うと、胸にざわざわとした感情が湧き上がり、早くMASATOと知り合わなければと、焦りの気持ちが強くなり、ログインし直して自分のページを開くと、先程書いたアボカドの記事を編集し直して、全公開とした。

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