第10話 出会い9

 愛美はその高揚した気持ちもあって、どんな成長ぶりをするのか想像もつかないけれど、とりあえずアボカドの写真をUPしてみようと思いパソコンに向かった。



     アボカド


   私の家では、サラダにアボカドを使うことがあり、


   ある時、いつもは捨てていたその種を手に取ると、


   ふと、これはもしかしたら芽が出るものかなと思い検索してみたところ、


   水耕栽培で観賞用によいと書いてあったので、


   そのサイトを参考にして、アボカドの水耕栽培をしてみることにしました。


   これはその水耕栽培を始めた翌日の写真です。


   ひと晩経っただけで、種は二つに割れ目が入って、


   水に浸けたところから根のようなものが出てきたようです。


   どこまで成長するのか楽しみです。



 愛美はその記事に、先程加工した写真を添付して、記事を公開しようとして一瞬、躊躇した。

 そうだ、これを公開記事にした場合、もし両親が目にしたら自分だってバレてしまうましかもしれない。数万、数十万もの人が集うブログの中で、そんな奇跡は万に一つのことかもしれないけれど、でも実際、自分はMASATOを見つけた。もし……ということを考えた場合、それは怖いし、自分が書いた記事を読まれることも恥ずかしい。けれど、MASATOの目を引く、興味を引く記事を書かなければ、MASATOが訪問してくれることなど、それこそ奇跡でも起きなければ実現しないことになってしまう。それならば自分から訪問して交流を持つようにすればいいのだけれど、それはやはり躊躇う気持ちがあった。やはりここはMASATOに自分を見つけて欲しい。


「どうしよう……」


 でもせっかく書いたし……とりあえず、この記事はファンだけが読める限定の記事にしよう。どうせMASATOは今、仕事中だろうし、夜まではブログなど見ないはずだ。MASATOがブログを目にするだろう頃に、限定を外すという手もある。その頃ならば、両親も家にいて食事やお風呂に入るし、両親の行動を見計らって、それをしてもいいだろう。悩んでいても仕方がない。愛美はとりあえず、限定記事にチェックを入れ更新ボタンを押した。


 更新ボタンを押すと、ブログのトップページにある新着一覧を開いた。昨日記事を更新した後に、そこに自分の記事が新着で載ったことに気付いたからだ。けれど、その新着記事一覧は、数秒ごとに更新され続けているらしく、画面を一度替え、また戻ると、自分の記事はあっという間にその一覧から消えていた。よくよく見てみると、同じ時間で新たに更新されたブログの数も多く、この新着に載った一瞬で目に留まった他人のブログに訪問し交流を持つようになるなんて、その出会いも奇跡みたいなものだなと愛美は思った。


 そう考えると、自分のブログが知り合いに見つけられるなどとは、両親の目に留まるなどとは、万が一どころか、億に一、それ以上の奇跡にも思えるが、ここは用心するにこしたことはない。今書いた記事も、その一覧に載るかと、開いて見ても、何度となくページを入れ替えても表示はされない。そうしているあっという間に、自分の更新時間をはるかに超えたブログたちが表示されていた。


「そうか、やっぱ限定記事だと新着には載らないんだ」


 ということは、新しく更新したかどうかは、ファンにならないとわからないんだな。愛美は先程ブログを開いたとき、自分のホームのページにファンの新着一覧というのがあることに気付き、そこにはネコさんの新着記事が載っており、新たにSUNさんのファンボタンを押した直後、自分のホームのページにSUNさんの新着記事も載った。ということは、たった今、愛美の新着記事は、この2人のブログのホームにも載ったはずだ。反応があるとすれば、この2人しかないということになる。これでは自分のブログに後でアボカドの記事を公開として載せたとしても、新たに訪問する人はいるのかどうか、MASATOがこの記事を見つけることも、MASATOが検索でもしない限り、やはり奇跡みたいなものだろう。

 

 愛美は大きく深い溜息と共に、自分のブログに戻った。


 ネコさんのゲストページにあったことを参考にと、愛美は訪問者履歴を見ようとスクロールすると、たった今更新した記事に、既にコメントが入っていることに気付いた。


「あっ、もうネコさんからコメントが入ってる」


 昨日見たのと大して変化のない訪問者履歴を見たあと、ネコさんのコメントに目を通した。


 『アボカドの種を水耕栽培ですか!面白いことしてるんですね。私もアボカドを使うことがあるので、真似してみたいです』


 『ネコさん、コメントありがとうございます。私もはじめてのことなので、どうなるのか手探りですけど、大きくなるといいなぁと思います』


 愛美はすぐにネコさんへの返事を入れると、そのブログへと飛んだ。


 ネコの新着記事は、今日のご飯という書庫にある日々の食事の中の更新で、今朝は最近の春休み用の朝食で、フレンチトーストとフルーツのヨーグルトが和えてあるものだった。


 そこに当たり障りのないコメントを入れると、そろそろお昼ご飯の準備をしないといけないなと思い、パソコンの電源を落とそうとして、何気なくパソコンの自分の履歴からMASATOのブログへと飛んだ。同日に訪問するときには、一度訪問していれば訪問者履歴に自分の名前が載らないことは、既に検証済みだ。


 すると、MASATOのブログには、つい先ほど自分が更新したのと同じ頃に更新した記事が表示された。


「あっ、更新してる。なんで?」


 今日は平日の木曜日だ。今日は仕事に行っているんじゃないか?だから昼間パソコンを開くことなどないと思っていたMASATOのブログに更新があり、何故かと首を傾げながら、記事に目を通した。

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