第9話 出会い8

 翌朝、洗顔をするために洗面所に行くと、そこに置いてあるアボカドの種に亀裂が入っているのが見え、ドキッとしてその瓶を持ち上げると、水に浸かった底の部分から、根らしきものが出ていることに気付いた。


「えっ?これで正解なのかな?」


 アボカドを種から育てるサイトを見てから水耕栽培を始めた愛美だったが、種に亀裂が入ると書いてあったか?発芽に2週間ほどかかるようなことが書いてあったのに、浸けた翌日に根が出るなんて書いてあったか不安になり、両親が出勤したら、すぐにパソコンをつけなきゃ、その前にこのアボカドの様子も写真に撮らなきゃと、朝から頭の中はブログのことでいっぱいだった。


「あれ?それよりなんでここにあるの?」


 愛美はアボカドの瓶を今あった場所に置くと、台所に向かった。


「ねえ、アボカド持ってきたの?」


「そうそう、それ亀裂が入ってるんだけど、大丈夫?これで育つの?割れちゃったらダメなんじゃない?」


「わかんない。これ、大丈夫かな?育つかな?でも根は出てきたみたい」


「あらホントだ。根がちょっと出てるね。じゃあそれでいいのかな?さっき見たら亀裂が入っててどうしようかと思ったけど、ちょっと持ってきたのよ。水も綺麗な水の方がいいかもと思ってね」


 愛美が持ち上げた瓶底から覗き込むように根を確認し、ホッとしたように微笑む母を目にし、なるほどそういうことかと母の気配りが嬉しい。


「これ、洗面所に置いたほうがいいかな?その方が水を変えやすいかな?」


「どうかな、綺麗な水にはその方が変えやすいけど、アボカドって、日光に当てなくていいのかな?」


 そこまで詳しく調べていなかった。

 水耕栽培が根を出しやすいという部分だけが頭に入ってきて、それ以外はまだなんにも知識に取り込んでいなかったのだ。何故なら、植物というものは外で育てるという固定観念があり、しかも芽が出るまで3ヶ月近くかかるようなことを書いていたサイトがいくつかあり、それまで玄関脇に置けばいいと、何の疑いもなく思ったのだった。


「後で調べてみるね」


「あ、マナ。今日も頼むわね」


 いつもの、平日学校が休みの日の家事や美菜のご飯のことを言っているのだと、春休みに入ってからの毎日のやり取りに頷くことで返事をし、とりあえず手に持ったままの小瓶を洗面所に置くためにリビングを出た。


 食事を済ませ、片付けと洗濯物を干し終えると、前日同様、愛美は大好きだったワイドショーを見ることもなく、テレビの前で前日の続きの問題集を広げた美菜に声を掛け、用意したアイスコーヒーを持ち2階の自室へと向かおうとし、「あっ、そうだ」と、あのアボカドをデジカメに撮ることを思いつき、美菜が背を向けている隙に引き出しからデジカメを取り出し、部屋へ向かった。


 昨日同様、パソコンを立ち上げている間に掃除機をかけ、デジカメに自分のSDカードを入れると、まずアボカドの写真をどこで撮ろうか頭の中を巡らせ、美菜がいる今日は、やはり部屋がいいだろうと、パソコンを床に置きアイスコーヒーを机に移すと、ウエットティシュでローテーブルを拭き、レースのカーテンを背景にしたほうが見た目が綺麗かなと、窓際にローテーブルを置くと、そっと足を忍ばせて階段を下り、洗面所からアボカドの小瓶をそっと持ち、そこに満たされた水に種で蓋がされたようになっている小瓶から水がこぼれ落ちないように、階段を上り部屋へ戻った。


 用意しておいたローテーブルに小瓶を置き、写真を撮ろうとしたところ、明るさを背景にしているため、光に反射されて種の色が綺麗に出ないことに気付き、白い壁と同じ壁紙が貼ってあるドアの前にローボードを移し、そこで数枚の写真を撮った。少しの根が見えるように撮ったつもりだが、写真で見るとほとんどわからず、小瓶にただひび割れた種が乗っているだけに見えた。


「まだこれじゃあ載せるほどじゃないかな」


 愛美は小瓶を机に置き、ローテーブルを元に戻してパソコンを乗せると、まずトップ画面に素材というファイルを作ると、早速SDカードを差し込んで、昨日撮ったパンナコッタの写真とともに取り込んで、その数枚の中からそれぞれ一番よく撮れた写真をペイントを使い、ブログ用に小さく加工した。


「うん、これで載せる準備はできた」


 愛美はまず昨日と同様に、ログインする前にMASATOのブログを訪問した。

 そこには昨夜目にした状態のままで変化はなく、あれからMASATOはブログを開けてないのかなと思い、自分のブログを開きログインした。


 するとまた自分のホームのページに新着ボタンが記事とゲストページの2つについており、まず記事のほうをクリックすると、昨日自分が書いた『ふわふわさん』の記事が現れ、そのコメント欄には昨夜にネコさんとリョウさんへコメントの返事を入れたその下に、SUNさんからのコメントが入っていた。


『こんばんは。コメントありがとうございました。ホラージャンルの本ということで手に取りましたが、読んでいるときにはそれほど怖くないと思いましたが、そう思ってしまうことが怖いとも思いました。結局のところ、志保は誰に連れて逝かれてしまったのでしょう?正樹でしょうか、桑田でしょうか、それとも健太?健太は助けようとしたように読めますが、そもそも志保はその健太を探すために逝ってしまったようにも思えます。心を健太に操作された。そう思えるのは私だけでしょうか?』


「えっ?そう読み取る?心を操作された?そんなふうに読む人もいるんだ……」


 SUNさんが記事にコメントを入れてくれたということは、ゲストページもSUNさんかなと思い開くと、やはりそこにはSUNの書き込みが入っていた。


 昨日のネコさんと同じく、ファンボタンを押していくという書き込みだった。

愛美はその両方に返事を書き込むと、SUNのページへと飛んだ。


 SUNという人物は、その名の通り太陽というか、主に夕焼けの空の写真が多く、記事でも言葉よりも写真をUPしていることが多く、読書関連で訪問してみたけれど、比重は圧倒的に空画像が多く、こういう人は交流が楽そうだなと思っていたので、返事がもらえてファンボタンも押してもらえ、押し返すことができ、いよいよブログ生活の入り口に入れたような気がして、愛美の心は高揚していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る