第8話 出会い7
「お母さん、知ってた?アボカドの種って、自分で木に育てることができるんだってよ!今日テレビでやってた。ちょっとやってみたいからさ、そのアボカドの種もらっていい?」
「いいけど、珍しいわね、マナが植物に興味示すなんて」
「なんかテレビ観てたら簡単に育ちそうな気がしてさ。お母さんだって多肉とかモフモフとかやってるじゃん。面白そうでしょ?アボカドの種なんてわざわざ買ってこなくてもしょっちゅう出るんだし」
「まあそうね、捨てちゃうこれから緑が育てばそれも面白いかもね。はい」
母がアボカドから出た種を洗い、愛美は手渡してくれたその種をティッシュで拭くと、食器棚の一番隅っこにいくつもとってある空き瓶のちょうどアボカドの種がハマりそうな瓶を5つほど出すと、どの空き瓶がいいか全部にはめてみた。
以前、何かのお土産でもらったジャムが入っていた高さが10cmもない小さな小瓶が、アボカドが途中で止まる大きさだったので、それを洗面所に持って行き水を溢れるほど満たすと、アボカドの広く丸みのある根の出るほうをその水にちゃんと浸かるか確かめて、そこに乗せた。
「うん、ちょうどいいじゃん。どこに置こうかな……」
アボカドの種は、こんなふうに常に水に浸かるようにしておく必要があるということなので、水の近くがいいかと思い、しかもやっぱり日が当たるほうがいいのかなと、玄関の横にあるプランターの上がいいかなと決め、母がプランターで増やし育てている多肉の横にそれを置いた。
ここなら庭の隅にあるバケツから水が入れやすい。
これは母が植物にやる水の節約のため、雨水が溜まるようにしてあるのだ。
リビングに戻ると、ダイニングテーブルにアボカドサラダを置いた母が、
「マナ、あのパンナコッタ夕は食後のデザートにもらっていいんでしょ?」
「うん、ちゃんと4つ残ってるでしょ。あ、私が昼間食べるの忘れちゃったから5つ残ってるか」
「お姉ちゃん、自分の分食べなかったの?」
5つ残っていると耳に入った美菜が目を輝かせてこちらを向いた。美菜はすでにテーブルについて、今日のことを話しながら夕食が並ぶのを待っていたのだ。
「あんた今日一つ食べたでしょ。このあとのデザートで二つも食べる気?食べ過ぎ!私が食べなかった分もあげるから一つは明日にしな」
「やったぁ。明日食べるぅ」
全くもう。私だってパンナコッタ好きなのに。そう思っても、4歳も歳が離れている美菜が食べたいようであれば、愛美は譲る。もう、そのくらいの分別は持ち合わせているし、仕事で家にいない母親の代わりに面倒を見ることが多かったため、既に保護者のような感情も間違いなくある。
食事を終えると、愛美はまた2階へと引っ込み、またパソコンを立ち上げた。
まず最初に先程のパンナコッタの写真を取り込むと、自分のブログにログインする前に、お気に入りにあるMASATOのブログを開いた。
「あ、投稿してる」
タイトル 『海』
今朝、久しぶりに海に出た。
顔や手に触れる水はまだ冷たいが、
人の少ない朝の海は、やはり気持ちがいい。
新学期が始まると、またしばらくは海に来られそうもないので、
有休消化で休む日の朝にはまた来ようと思う。
海は気持ちがいい。
海の近くに生まれ、子供の頃からしょっちゅう海に来ていた自分には
海は庭のようなもので、懐かしい匂いが心地いい。
今朝、海に行ってたんだ。
海の近くに生まれっていうと、あの辺かな?……愛美の住む市内には海がなく、一番近い海のあるところは、隣市の海岸沿いになる。中学校の遠足で行った海を思い浮かべ、あの辺で遊んでいたのかな、今朝もそこでサーフィンしてたのかな、あの辺なら自転車でもなんとか行けるかな?いや、やっぱりちょっと遠いかな。
愛美は、行こうと思えば自転車でもいけるだろう思い浮かべているその海はやはり遠く、めんどくさがりの愛美にとっては、その距離は早朝に行くにはどんな理由づけでもそれを知る両親に不審がられること間違いなく、現実的ではないなと行くことは早々に諦めることにした。
すると愛美はそのMASATOの記事のコメント欄にコメントが入っていることに気付きそれを開いた。
『MASATOどの、海の近くに住んでるのですか?私も海の近くです。海はいいですよね。私もずっと海の近くで、家にいても海風を感じることもあるのですが、海に行くと何故か懐かしい感じがします』
MASATOどのか。
その慣れた感が愛美の胸をざわつかせた。
『さつきさん、ずっと海の近くですか?いいなあ。自分、実家を出て独り暮らしをしているので、今は職場の近くで海から少し離れてしまいました』
あ、そうなんだ。
海の近くに住んでいると、ついさっきまで思っていたMASATOが職場の近くに住んでいると知り、じゃあ今は同じ市内にいるんだなと思い、その周辺に思いめぐらせ、いくつかの見覚えのあるアパートを思い浮かべた。
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