第8話 不穏な空気

4月13日(木) 午後12時45分


 というわけで購買へとやって来た俺と光と花京院 雫。

 ふむぅ、色々あるな。文房具から制服から……ん? 下着まで売ってる……。


 光はタイツが売られているコーナーを見つけると、どれがいいかと選び始めた。


「んー……とりあえず110デニールは買っておくとして……もう一着くらい……」


 いや、金そんなに持ってないぞ……俺。


「大丈夫、足りなかったらまた後日でもいいし……。ぁ、ニーソとかどう?」


 に、にーそって……いや、ダメダ! 元男の俺からすると……え、エロすぎる!


「あはは、気持ちは分かるけどね……でも可愛いよね、雫」


 話を振られた花京院 雫。だが何か考え込むようにニーソを見つめていた。


「そう……男はニーソに弱いのね、戸城さん」


 え? ま、まあ……弱いというか……つい見てしまうというか……太ももの部分とかを……。


「よし、光。私達全員ニーソで出撃よ!」


 ……ん?!

 な、何をおっしゃって……いらっしゃるのですか!


「忘れたの? 四月一杯までに派閥メンバー五十人以上……つまりはあと四十七人必要なのよ。あの副会長も戸城さんのパンチラ見て鼻血垂らしてたじゃない」


 いや、それはそうですが……まあ、俺は別に構わんけど……ニーソ。

 チラっと光を見てみる。


 なんか凄い、名前通りに輝かしい顔をしていた。

 ぁ、なんかメッチャ喜んでるわ。


「それいい! 三人で一緒って……いいね!」


 ビシっと親指を立てて称賛する光。

 そのまま三人ともに黒のニーソを購入。俺はタイツも購入。

 足りない分は花京院 雫が出してくれた。

 明日返さねば……。


「別にいいわ、そのくらい。むしろ帰りに寄り道しましょ。私が奢るわ!」


 お、おおぅ、登校初日から買い食いするのか、俺。

 まあ中学の頃からやってたけども。


 そのまま三人で一緒にトイレに。

 むむ、ここの学校の個室めっちゃ広いな。

 トイレにはウォッシュレットも着いてるし……。


「元々は女子高だったのよ。男子の方はもっと綺麗よ。新しく作られた物だから」


 ふむぅ、花京院 雫。君なんで知ってんだね……? という言葉は飲みこんでおく。

 三人でニーソを袋から取り出しつつ……って、こんな長い靴下……履きにくい……!


 と思ってたら二人とも既に履き終えてる! はええ!


「まあ慣れよね。戸城さん便座に座って。履かせてあげるわ」


 うぅ、何から何まで……すんません……。

 そのまま二人にニーソを履かせて頂き……って、う、うわ! な、エロイ……!

 やばいコレ! 自分の太もも見ただけでなんか……興奮しないけど興奮する!


「あら、この中ではやっぱり戸城さんが一番似合うわね。一番小柄だからかしら」


「脚細くて綺麗だもんね。なんか私も頬ずりしたくなっちゃうよー」


 それは止めておけ……と、便座から立ち上がる俺。

 二人は当然のように携帯を出し、俺を撮影。

 な、なにをするつもりかね?


「大丈夫よ、ネットにUPしたりしないわ。ただ鑑賞用に……」


 へ、へんたい!


「まあまあ……梢だって……その……もってたでしょ? 男の子の頃に……エッチぃ本……」


 咄嗟に目を反らす俺。

 二人は興味深々と顔を近づけてくる。


「興味あるわ。貴方……どこの部位が好きだったの?」


 ぶ、部位って……


「胸? 脚? それとも……お尻かしら」


 うぅ、なんか拷問受けてるみたいだ……。

 こ、答えないとダメ?


 光は一瞬悩みつつも……


「聞きたいかも……」


 うおい! 俺の性癖を……し、しかし……まあ別にいいか。

 俺は今女だし。


「俺は……」


 うんうん、と相槌を打ってくる女子二人。


「……が好きだ……」


 俺の発言と同時に授業開始五分前の予鈴が鳴る。

 二人は聞き逃したようで、何? と再び聞き返してくるが……


 言えるか! そう何度も!


 そのままトイレの個室から出て、一応手を洗いつつ教室へと向かう。

 二人も追いかけてきて共に教室へ。

 そして三人で入った瞬間……男子達の目が……こちらに……


「フフ、思った通りね。破壊力抜群よ」


 小声で囁いてくる花京院 雫。

 たしかに抜群のようだが……なんか同時に女子の目が痛い……。


「ちょっと……なにあれ」


「ふざけてんの?」


「調子のんなよ……」


 と、呟くのが聞こえてくる。

 ま、まじか……女子こえぇ……


 中学時代にカッコつけて短ランを着てきた男子が居た。

 男子達は別に、悪口など言わなかった。


 ただ……


『マジかよ! お前バカじゃねーの!』


『ぎゃはは! 進路指導室にご案内~』


『今日は俺の奢りだ、飲めよ。ポ○リ』


 と言っていたくらいだ。

 聞こえるか聞こえないかの声で影口叩かれるよりも、よっぽど気が楽だ。

 あぁ、男子って……単純だったんだな……。

 あの頃は気が楽だったが……。


 そんなこんなで午後の授業、五時限目はクリス先生の英語の授業。

 俺は変わらず香川くんと共に教科書を見ていた。


 しかし……香川くん……別の意味で授業に集中できてねえ……


 チラチラと俺の太ももを見てくるのが分かる。

 あぁ、気持ちスッゴイ分かる!

 俺もこんな女子が隣に居たら間違いなく見るわ!


 うぅ、ごめんよ、香川くん……。


「ハイ、デハ……香川クン。今のを英訳してクダサイ」


 そして再び香川くんが指名される。

 だが大丈夫だ、香川くんは寝ていても答える事が出来る優秀な男だ。

 そんな太ももチラ見してたくらいで……


「す、すんません……聞いてませんでした……」


 ってー! おい! 

 ごめん……マジでごめんよ! 香川くん!


「そうですカ。素直で宜しいデス。デハ……戸城サン。代わりにお願いシマス」


「あ、はぃ……」


 椅子から立つ俺。

 その瞬間、背後から背筋がゾクっとするほどの視線が……。

 っく……す、すげえ見られてる……。

 なんか新しい何かに目覚めてしまいそうだ……。


「え、えっと……Mr. Tanaka threw Mr. Sato and beat it on Matt」


【注意:作者の英語の成績はお察しレベルです。許してください。】


 クリス先生は頷きつつ、座ってと促してくる。

 ふぅ、嫌な汗掻いたぜ……。


 そのまま何事も無く五時限目も終了。

 そして本日は次の六時限目で終わりだ。

 それが終われば……今日は帰れる……なんか疲れたな……。


 十分間の休憩の後、六時限目、語学。

 担当教諭は……いわゆるイケメン。

 先生が入ってくるなり黄色い声援を送っていた。


「はーいはいはいーっ、皆お待たせ―っ。では授業始めるよー、日直、礼を」


 起立、礼、着席、を号令と共に。

 しかし……


「ん? あ、君ーっ、戸城君だな? 可愛くなったなぁー! 先生ぶっちゃけストライクゾーンだぞ?」


 え、え?! な、なにこの先生……。

 堂々と生徒にストライクゾーンって……止めて頂きたい!


「ホントに可愛くなって……フフ……」


 なんか意味深な笑いが……。背筋がゾクっとするわ……。

 しかし……それは序の口だった。

 授業が始まるや否や、指名されるのは俺ばかり。

 ことある毎に俺が指名されて椅子から立ち……質問に答えを繰り返す。


 な、なんだコレは……嫌がらせか!?


「すごいなぁ、戸城君。可愛い上に優秀とは。うんうん、先生も嬉しいぞっ」


 うわぁ、やめてほしぃーっ!

 そのニヤついた顔で俺を見るな! 

 うぅ、変な汗掻きすぎた……。


「じゃあ次……ん?」


 その時、一人の男子生徒が挙手する。

 あれ……?

 あいつ……どっかで見た事あるような……。


「なんだ、日下部くさかべ


 日下部と言われた男子生徒は立ち上がり、男性教諭へと……。


「先生……僕……知ってます、戸城さん……自宅謹慎中に……遊園地で遊んでました……」


 あ?! な、なにぃ! 何故それを……

 って、あ! 思いだした! こいつ……あの時のナンパ男……っ


「はぁー? だからどうした。なんか授業に関係あるのか?」


 先生は、あっけらかんと言い放つ。それを聞いて男子生徒は固まってしまう。


「え、ど、どうしたって……だ、だから……その……」


 相変わらず元気ないな、こいつ。

 もっとハキハキと喋りなさい!


「日下部、もういい。座れ。授業に関係ない事でジャマするな。放課後反省文書いて提出しろ」


 え、えーっ! き、厳しい! 

 こんくらいの事で反省文って……。

 いや、待て……日下部君……何故君は今、このタイミングでそんな発言を……。


 なにやらモヤモヤしつつ授業は終了。

 ダメ押しするように日下部君は呼び出され、進路指導室で反省文を書く事に……。

 なんか……申し訳ないな……俺が原因だし……。


 っていうか……そもそも彼もサボって遊園地に居たじゃない。

 あの時だってド平日だったんだ。自分からそれバラしてどうすんだ。


「梢、帰ろ?」


 荷物を纏めて帰ろうとする俺を誘ってくる光。

 うむ、今日はもう帰ろうぞ。


 ぁ、っていうか花京院 雫は?


「雫は生徒会に何か呼び出されて……先に帰ってって。駅の○ックで待ち合わせしてるけど……」


 ふむぅ、なんだろ。まあ十中八九……派閥の事だろうな。

 まあ待ち合わせしてるなら問題ないか。

 先に帰ろう。


 そのまま校舎から出て中庭に。

 今から部活が始まるのか、慌ただしく走る生徒も居た。

 その中の一人の女子生徒が、いかにもわざとらしく……


「ぁ、ごめーん!」


 俺に突っ込んで来た!

 って、おぐふ! 

 思いっきり突き飛ばされ、中庭にある噴水に突っ込む俺。

 ぎょあー! つめてえ!


「こ、梢! だ、大丈夫?!」


 光に手を引っ張られてなんとか噴水から生還。

 うぅ、当たり前だが……全身ずぶ濡れ……。

 まだ噴水の水が綺麗だったから、まだ良かった物の……。


 と、光は慌てて俺のブレザーを脱がし、自分のブレザーを羽織らせてくる。

 さ、さぶい。凍え死にそう……。


「ちょ、ちょっと! 何するのよ!」


 流石の光もブチ切れ、突っ込んで来た女子に抗議する。

 だが女子はヘラヘラしながら


「だからゴメンって言ってるじゃーん。いいじゃない、どうせ男でしょ? 別に濡れても平気でしょー?」


 い、いや、今は女やねん……むっちゃ寒い……。


「ふざけないで! わざとぶつかってきて……何のつもりよ!」


 あぁ! 喧嘩するな! 光!

 女子の喧嘩ほど見てて怖い物は無いんだ!


「なーに? あんた、このオカマ庇ってんの? バッカじゃない? あんたも内心イラついてんでしょ? 男のくせに女子の格好して可愛い子ぶってるコイツの事」


 いや、可愛い子ぶってる事なんて一欠けらも無いが……。


 ぁ、やばい。光が本格的にキレた。

 拳を握りしめて殴りかかろうと……


 だがその時、騒ぎを聞きつけた上級生が駆けつけて来る。


「そこまでだ。君達一年だね。喧嘩をするなら我が校から出ていって貰えるかな」


 むむっ、なんかカッコイイ男子生徒が!

 ハーフなのか、髪の毛が綺麗な金髪……。

 心なしか中庭の花が咲き乱れているような気がする!


 いや、それは無いか。


「はぁ? なによアンタ。上級生だからって……」


「僕は生徒会長の花京院 千尋かきょういん ちひろ。生徒会長として、校内での暴力行為は見過ごせないな。君は即刻出て行ってくれ」


 むむ、ハキハキした男だな。

 あれ? っていうか……花京院って……


「で、でてけって……殴ろうとしたのは……この女よ! 私は何も……」


 生徒会長と聞いてビビる女生徒。

 だが出ていけと言われて素直に従えない。

 恐らく部活があるのだろうか。


「その前に……君は戸城さんを突き飛ばした上、彼女に対して暴言を吐いていた。言葉の暴力は何よりも凶悪だ。どうしてもというなら……生徒会で緊急会議を開こう。その上で君の意見を聞こうじゃないか」


 流石に分が悪いと悟ったのか、悔しそうに走って正門に逃げるように向かう女生徒。

 ふむぅ、ところで……ワシもう限界……さ、さむすぎる……。


 俺の様子に気づいたのか、生徒会長は慌てて自分のブレザーも脱いで被せて来る。


「花瀬さんだったよね。このままじゃ戸城さんが風邪をひいてしまう。僕の寮室へ連れて行こう」


「え? えっ、で、でも……」


 恐らく花瀬は男の部屋に連れ込まれる事に躊躇っているんだろうが……

 正直俺は生徒会長の申し出のほうが有り難い……。


 だ、だって……女子寮とか入れるわけないッス!


「光、お、おれ、生徒会長の部屋で……いい……」


 震える唇で言いつつ、生徒会長に着いて行く俺。

 光も着いて来ようとするが……。


「花瀬さん、男子寮は女子禁制だ。すまないが今日は大人しく帰ってほしい。喧嘩を買った君にも非はある」


 うぅ、生徒会長厳しい……光は俺を庇っただけなのに……。


「わ、わかりました……」


 何処か不安な表情を浮かべる光。

 大丈夫だ、俺は……さっきの女子が言ってた通り……男だ。


 そうだ、俺が悪いんだ。

 中途半端に外見だけ女子になって……一人称は未だに俺。

 周りの女子はイラついてたんだろう。今回の件は俺が原因だ。



 生徒会長に連れられ、男子寮の中に。

 途中IDチェックが……。しかし警告は鳴らず普通に通れた。


「生徒会の権限って奴でね……。緊急時にはID認証を解除できるんだ」


 マジか。権限凄いな。

 そのまま寮の中に……ってすげえ!

 なんだここ! 一流ホテルのようだ! めっちゃ綺麗……。


「僕の部屋は最上階にあるんだ。すまないが、今しばらく耐えてほしい」


 最上階……って、エレベーターまである……。

 本当にここ、学校の寮か?!


 エレベーターに乗り込み最上階へ。

 チーンと音を立てて開く扉。


 その先の光景に俺は絶句した。

 フロア全体が高級感溢れる大理石模様。

 しかも床にはフッカフカの赤い絨毯。

 なんか高級そうな壺まで……。


「まずはお風呂に入るといい。大浴場だが、生徒会の人間しか使わないし……この時間帯は誰も来ない。安心してゆっくり浸かるといい」


「は、はひ……」


 鼻水を垂らしながら頷く俺。

 うぅ、俺っていうのも直さないと……しかし……十五年間これだったんだ。

 いまさらどうしろって……。

 もう学校辞めるしか……光にも迷惑が……。


 脱衣所の中に入ると、またしても目を疑う光景が。

 何やらコーヒー牛乳が自由に飲めるようになっており、マッサージチェアまで有る。

 大きな鏡の前には整髪料や洗顔、化粧品やらが並んでいる。


 ここ、本当に学校の……男子寮の大浴場か?

 もっと汚いのを想像してたんだが……。


 ああ、そんな事はいい! 寒すぎりゅ!

 ブレザーを脱いで、花瀬と生徒会長のは綺麗に畳み、自分の脱ぎ捨てたシャツやらスカートは乱暴にカゴに投げ込む。ここに美奈が居たら怒られるだろうな……しかしそんな余裕はない。


「っく……ホックが……とれん……」


 この……ブラのホックなんとかならんのか!

 くそ、なかなか外れぬ……。


 あぁ、もう! 


 と、その時……カララ……と扉の開く音。


「ん? 誰か入ってるのか。千尋か?」


 こ、この声は……まさか……副会長?


「おーい、千尋。こんな時間から風呂に入るとは随分余裕ある……って……」


 バッタリ……ホックを外そうと格闘している俺と目が合う副会長。

 もちろん俺は上下ともに下着姿……。


 ま、まずい、パンチラ見ただけで鼻血垂らした副会長が……


「ぁっ」


 そのまま再び鼻血を垂らしながら卒倒する。

 マジか! っていうか出血量がハンパねえ!

 ど、どうすれば……ん?! なんか呼び鈴的な物がある!


 ひたすら連打して人を呼ぶ。

 すると生徒会長がやってきた。


「どうしたんだ……って……司?!」


 下着姿の俺から目を反らしつつ、大量の出血をする副会長に駆け寄る生徒会長。

 不味い、この出血量は不味い!

 すぐに救急車を!


「いや、大丈夫。いつもの事だ。それより戸城さん、早くお風呂に……って、あぁ、そういうことか」


 ブラのホックが外せない俺に気が付き、後ろを向かせると……いとも簡単にに外してくれる。

 うおぉ、イケメン……。


「あ、ありがとうございます……」


「いいから……すまん、早く入ってくれ。僕も男なんだ……」


 後ろを向きつつ言い放つ生徒会長。

 むむ、大丈夫だ。俺は別に気にしないぞよ。

 って、そういう問題じゃないか……。


 言われた通り、パンツも脱いで浴場へと向かう俺。

 副会長は生徒会長がおんぶして部屋へと連れ帰ったようだ。




 んで、当の俺は……


「やべえ……むっちゃ気持ちい……」


 貸し切り状態のバカ広い風呂を堪能していた。

 すげえ……しかもここから外が見れるな。どこのホテルだ。

 むむ、反対側の校舎は……なんだろう。あそこからこっち覗けそうだ。


 って、男風呂覗いてどうすんだ。


 そのまま窓から下を見下ろすと、部活動をしている生徒が走っていた。

 あのユニフォームは……バスケ部っぽいな。


 はぁ、俺……中学時代はスタメンだったけど……。

 もうこの体じゃバスケも出来んな……。

 筋力落ちてるし背ちっちゃいし……何より……胸がジャマすぎる。


「ふぁぁー……いい湯だ……」


 副会長大丈夫かな……。

 いや、それより光は……。


 あぁ、俺の濡れたブレザー……光が持ってるんだった。

 申し訳ないな……あんな濡れた物……。

 どこかに置いて帰ってくれてればいいが……。


 まさか気利かせてクリーニングとかに出してないよな。

 だとしたら申し訳なさすぎるんだが……。




 そのまま体と髪も洗う。

 ボディソープもシャンプーも美奈のよりいい匂いがする物だった。

 ふむぅ、これなら肌荒れも心配無さそうでござる。


 確か脱衣場に洗顔もあったな……あとで顔も洗わせてもらおう……。

 毎日欠かさずやらないと……美奈に怒られるし……。


 一通りの作業を終え脱衣場に。

 ん? あれ……俺の下着が無い……。

 ま、まさか……下着ドロボー!?


 と、その下の棚に何やらメモとバスローブが……。


『申し訳ない。勝手にクリーニングに出してしまった。部屋を暖かくしている。とりあえずそれを着て401号室へ来てくれ』


 ふむぅ、生徒会長の仕業か……。

 しかしバスローブって……着た事ないんだがな。

 羽織って……適当に……こうか?


 ウッ……丈長い……床に引きずるのも悪いな……適当なトコで結んで丈短くして……



 その後、洗顔をして化粧品も失敬する。

 ふむ、男子寮に乳液まで置いてあるとは。肌を大切にしてるんだな!


 さて、401号室だっけ。

 脱衣場から出て部屋を探す。

 むむ、ここか……中に生徒会長居るのかな……。


 まあいいか。

 女が居るより緊張しない……と思うし……。


 一応ノックしてみる。


「どうぞ」


 中から生徒会長の声。

 ゆっくりドアを開き……中へと入る。

 薄暗い照明。

 暖かい空気。

 なんかアロマっぽい……いい匂いもする。


 なんだ、この部屋は……。煙草臭い正宗の部屋とは大違いだ……。


「こっちだ。戸城さん」


 呼ばれて寝室らしき部屋に……。

 副会長は居ない。

 何処か別の部屋か。


「悪かったね。下着類は今クリーニングに出してるから……いいよ、座って」


 座ってと言われてベットに腰掛ける俺。


 ふぉ! なんだこのベット!

 むっちゃフッカフカや!


「今日はここで泊まっていってくれて構わない。明日の朝には制服も乾くだろう。代わりのブレザーも用意させる。家の人に連絡だけしておいてくれるかな」


 え、泊まってけって……

 いいのか?

 なんか凄い緊張する……。

 いや、待て……生徒会長は男なんだ。有り得ない。

 俺を襲う訳がないし……。


 と、携帯を探す。

 って、ぁ……しまった……。


 携帯……俺のブレザーの中だ。



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