第7話 初登校

4月 13日(木) 午前8時10分


 光と共に高校へ到着。

 ふむぅ、今日からここに女子として通うのか。

 なんか感慨深いでござるな。


「ぁ、職員室いこっか。先生に挨拶しないと……。タイツは昼休みにしか買えないけど……大丈夫?」


 うむ、問題ない。

 職員室にも別に一人でもいけるぞよ。


「まあ一応ついていくよ。私の妹だもんね?」


 うっ、そうだった……しかし妹では無い、妹分だ!


 そのまま正門から校舎へ。

 しかしこの高校……アホみたいにデカいな。校舎いくつあるんだ……。


「私もまだ詳しくは知らないけど……科ごとに校舎あるからね。っていうことは十棟以上……?」


 マジか……すげえマンモス高……。

 ちなみに俺は進学科。要は普通科だが、この高校の中ではエリートコースだ!

 つまり俺はエリート……。やればできるじゃないか。


 校舎の中で上履きに履き替える。

 むむ、下駄箱も中学の頃とはまるで違うな。ただの棚じゃなくて……ちょっとした金庫みたいだ。鍵まで掛けれるとは。


「ちょっと前に変な事件あったみたいで……靴が盗まれたり隠されたり……」


 むむ、それって虐めじゃ……。


「ほら、あそこ。前から監視カメラはあったらしいんだけど……。どうやら犯人は生徒じゃなかったみたいで……」


 え、なにそれ怖い。

 生徒じゃなかったら……部外者か教師って事か。監視カメラ付いてるなら犯人すぐに捕まりそうだが。


「学校側も下手に警察沙汰にしたくないって事で……靴箱に鍵付ける程度で済ませたみたい」


 ふむぅ、学校側も大変だな。

 俺の件でもかなり四苦八苦してそうだ。


 光と共に職員室に。

 失礼しますと入った瞬間、教師の目が一斉に俺へ向けられた。

 げげ、やっぱ目立つな、俺……。

 光の後ろに隠れるようにして職員室の中を通り、一人の教師の前へ……。

 むむ、外人?


「オヤ、君が噂ノ……。よろしくおねがいシマス。私クリスランデルンシェルスモラクサンといいマス。長いのでクリス先生と呼んでくださイ。一年Sクラスの担任をしていまス。ちなみに分かると思いますガ、担当教科は英語デス」


 おお、日本語ぺらぺら……そして何より……めっちゃ美人……。


「よ、よろしくお願いします……戸城 梢です……この度は……御迷惑をおかけして……」


 自己紹介しつつ、一応謝っとく俺。

 親父と同じく丸を打つ所を間違えた俺にも責任はある。

 というか周りの教師の視線が痛い。


「イエイエ、あれは学校側の責任でス。むしろ謝るのは我々のほうでショウ。何か困った事があれバ……花瀬さんは勿論の事、私の事も頼りにしてくださイ」


 おお、なんかいい先生っぽくて安心……。


「デハ……花瀬さん、教室にいくついでにコレも持って行ってくださイ」


 と、光にプリントの束を渡すクリス先生。

 ふむぅ、なんだろ。


「わかりました、失礼します」


 光と共に職員室から出て教室へと向かう。

 一年の教室は最上階にある。

 これから階段の上り降りがきつそうだな……。


「光、俺も半分手伝う」


 と、プリントの束を半分奪う。

 ついでにチラっと内容も見た。

 ん? なんか俺の名前が書いてあるような……まあ俺の事を説明する為の資料か。

 こういうの作ってくれるのは正直有り難いな。説明メンドくさいし。



 最上階の三階へと辿りつく。しかし階段はまだ続いていた。恐らく屋上へ続く階段か。


「お昼はよく屋上で食べてるよ。今日一緒に行こうね、天気がいい日は気持ちいから。ちょっと風が強いけど……」


 ふむぅ、いいな。ピクニック気分だな!

 ちなみに俺の弁当は母のお手製。

 デコ弁とか作ってないだろうな……。


 そのまま教室へと向かう俺と光。

 扉を開けつつ中に入ると、教室内がどよめいた。

 当然ながら全員の注目の的になる俺。


 うぅ、仕方ないが……緊張するな……。


「あーっら……花瀬さん? うふふっ、早速噂の生徒と登校かしら? いい御身分ね!」


 と、いきなり話しかけてくる女子が居た。

 なんかすっごいベタなお嬢様風の……


「貴方が戸城……えっと、下の名前なんだったかしら……」


「梢です……。貴方は……」


 名前を言いつつ、お前の名前も教えろと訴える俺。

 お嬢様風女子は、長いウェーブの掛かった髪を払いつつ腕を組み


「私は……花京院 雫かきょういん しずくよ! どうぞよろしく! 戸城 梢……えっと……」


 ん? なんだ、何悩んでるんだ?


「花瀬さん……君付けすべき? それともさん付けかしら……」


 ってー! そこで悩んでるのか! 分かった! こいつ如何にも嫌味なキャラしてるけど……結構いい奴だ!


 光もそれは分かってるようで、満面の笑みを浮かべつつ


「さんでいいんじゃないかな? 私はもう呼び捨てだけど……。ね? 梢」


 その瞬間、花京院 雫は何かショックだったらしく……たじろぐ。


「な、なんですって……私だって……まだ花瀬さんとそんな仲になってないのに! 酷いわ!」


 おい。


「まあまあ……雫が恥ずかしがって私の事、名字でしか呼ばないんだもん。ほら、言ってみて」


 ん? なんか妙に親し気だな。

 まさか……見舞いに来た時に言ってた楽しい友達って……


「え、えっと……ひ、ひ……ひか……ひかり……」


 モジモジしながら光の名前を呼ぶ花京院 雫。

 マジか、こいつ可愛い。なんか言動で損してる奴だ。


「はーい? なにかなー? 雫ーっ」


「な、なんでもないわよ!」


 そのまま席へと戻る花京院 雫。

 それと同時に担任のクリス先生が教室へとやって来た。

 ホームルームが始まろうとしている。


「ハーイ、皆席についテー。ホームルーム始めますヨ。ァ、戸城サンは前に」


 まるで転校生の扱いだ……。

 クリス先生も黒板へと……って! 黒板じゃねえ! これデカいタッチパネルだ!

 すげえ……流石高校……。チョークもいらんのか。


「ハイ、皆さん既に知ってると思いますガ……戸城 梢サンでス。これからは女子生徒として通ってもらいまス。デハ……戸城サン、何か言っておきたい事などアリマスカ?」


 言っておきたい事……。

 何か面白い事でも言ってクラスの心を鷲掴みにするべきだろうか……。

 それとも……無難に終わらせるべきだろうか……。


「戸城サン、緊張しなくてもイイデスヨ。皆、次の戸城サンの発する言葉に興味深々デス」


 ってー! 緊張しなくてもいいとか言いつつハードルバリ上げやん!

 っく! クリス先生……中々試練を与えてくる人だなっ!


 し、仕方ない……何か面白い事……いや、ここは俺しか言えん事を言うべきだ!


「え、えっと……戸城 梢です、よろしくおねがいします」


 ペコリと頭を下げつつ挨拶する。

 ここからが勝負だ。


「実は……先日……」


 ゴクリ……と教室内の意識が一気に俺に向けられるのが分かった。

 うぅ、緊張する……だが言わねばならぬ! 俺のこれからの高校生活のためにも!


「先日……初めてのブラを買いました……」


 …………ぁ、滑った?


 しかし男子生徒の一人が挙手し、発言権を求めてきた。許可するクリス先生。


「その……森泉 隆太もりいずみ こうたです。ど、どうですか、ブラの着け心地は……」


「へ? え、えっと……」


 その次の瞬間、女子全員から森泉にブーイング。

 何言ってんだと教室内は一気にヒートアップする!


「アー、静かにー。デハ……戸城サンの席ハ……香川クンの隣ですネ」


 ふむ、一個席が開いてるあそこか……。

 って……香川くん……あきらかに制服着崩して……しかも口になんか咥えてる!

 わかった! こいつ不良だ! なんでエリートコースの進学科に来たんだ!


 そのまま香川クンの隣の席に座り、一応挨拶しておく俺。


「よ、よろしく……」


 やべぇ……こいつマジで不良だよ……。

 なんか脚組んでポケット手に突っ込んでる……。


 そんな香川くんは俺をチラっとみると


「よ、よろしく……おねがいします……」


 …………?


 あれ? なんか……意外に丁寧な挨拶を返して頂いたんだが……。

 不良じゃないのか? いや、でも制服着崩してるし……。


【注意:制服着崩してる=不良ではありません。でも制服はちゃんと着ましょうネ】


 その後、俺と光で運んできたプリントが全員に配られる。

 ふむ、やはり俺の事か。

 しばらく休んでたのも学校からの指示ってなってるな。本当は俺の気分だったけど。


「エーット……皆さん。戸城サンは特殊なパターンデス。なので皆で守ってあげてクダサイ。嫌がらせや虐めなど言語道断デス。そのプリント見て貰えれば分かって貰えると思いますガ……」


 プリントの内容は俺の境遇が書かれていた。学校のミスで仕方無く女子生徒として通う事になったという内容。クラス全員でフォローしましょうという事だ。

 ふむぅ、心強いが……この中の何人が……俺の事を理解してくれるんだろうか。

 正直……そこまで信用できる自信が無い……。




 そんなこんなで一時限目が始まる。

 さて……一時限目は数学か。って……俺まだ教科書貰ってないんだが……。


「ん……」


 と、教科書を差し出してくる香川くん。

 まじか、優しい。いや、でも君はどうするんだ……ってー! 寝だした!

 こいつ本当に進学する気あんのか! 進学科なのに!


「いや、あの……香川くん……一緒にみようじゃないか」


 男同士の友情を感じた俺は、机を寄せつつ教科書を開く。


 そんな時、ボソっと……。


「きもちわりぃ……」


 何処からかそんな声が聞こえてきた。

 マジか……結構傷つく……




「ちょっと! 今の誰よ!」


 その時、勢いよく立ち上がり叫ぶ花京院 雫!

 ま、まじか! お前イイヤツだと思ってたけど……ここまでイイヤツだったのか!


 数学の教師もビビって引いてる……。

 花京院 雫は教室内を獣のような目で睨みつけつつ舌打ちする。


「今後……戸城さんの事を悪く言う奴は……私の派閥が制裁するわ。覚悟しておきなさい。先生、失礼しました。授業を続けてください」


 先生はコクコク頷きながら授業を再開する。

 教室内の空気が一変した。

 さっきまで俺に集まっていた視線が散った気がする。

 花京院 雫の御蔭か。

 感謝せねば……。


 っていうか派閥って……。




 その後の授業も香川君と共に教科書を見つつ進める。

 現在は三限目、歴史の授業。

 しかし……


「うぅ……ねみ……」


 起きろ! 寝たら死ぬぞ!

 香川君の肩を先生の目を盗みつつ突きながら授業を聞く俺。

 こいつ、そんなに眠いのか……。

 昨日夜中までゲームしてたのか?


「あー……では……この問題を香川くん」


 眠そうな香川くんを指名する教師。

 如何にも聞いてなかっただろ、と言わんばかりの表情だ。

 香川くんは立ち上がり


「ベディヴィア家です……」


 ってー! あっさり答え言いやがった! こいつ船漕いでたじゃないか!


 教師も驚いた様子で頷きつつ、香川くんを座らせ授業を進める。

 さすが進学科に来るだけはあるな。睡眠学習と言うヤツか。


【注意:授業中は起きてましょう】




 そのまま午前中の授業が終わり、昼休みに……。

 すると光と花京院 雫が俺の元へとやってきた。


「梢、お昼食べよ、屋上で」


 おおぅ、いいぞよ。


「まあ、私もご一緒してもよろしくてよ!」


 花京院 雫……そうだ、一時限目の礼を言わなくては……


「えっと、花京院さん、さっきありがとう。一時限目の時の……」


 花京院 雫は何が? という顔をしつつ、光に耳打ちされると


「ぁ、あぁ、別にいいわよ。あの程度。何か困ったら私の派閥に……っていうか、貴方も私の所にいらっしゃい! 歓迎するわ!」


 いや、派閥ってなんすか……?

 女子のグループみたいなもん?

 俺の疑問の視線に気づいた光は、ポリポリ頬を掻きつつ


「あー、ご飯食べながら説明するね。それからタイツ買いにいこっか」


 あ、タイツ忘れてた。




 屋上へとやって来た俺と光、そして花京院 雫。

 他にもチラホラ生徒居るな。


「梢、こっちこっち」


 光に手招きされつつ、柵の近くにあるベンチへ。

 三メートル程の柵が屋上を囲っている。

 柵の上には数台の監視カメラが。


「いつもこの辺りで食べてるんだ……って、雫……また菓子パン?」


 俺と光はお手製の弁当を取り出すが、花京院 雫が出した食料は菓子パンと牛乳のみ。

 それをモッシャモッシャ食べ始める花京院 雫。

 とてもお嬢様には見えぬ……。


「いいじゃない、菓子パン美味しいわ。もう早弁しちゃったし」


 もぅ食ったのか! っていうか早弁とか……香川くんなら分かるが……。

 そのまま弁当箱の蓋を開ける俺と光。

 むむ、やはりデコ弁作ってやがる……。

 なんだっけ、このキャラ……。


「あら。戸城さん可愛い。マンチカン仮面が好きなのね」


 そうだ、マンチカン仮面だ。

 マンチカンというのは猫の種類。あの脚が短い猫だが……。

 その猫が次々と難事件を解決していくというアニメのキャラだ。


 まあ俺が作ったわけではないが、一応頷いておく。

 マンチカン仮面好きだし。 (名前忘れてたけど)


 そんなこんなで卵焼きから食べてみる。

 うむ、中々でござる。

 それを羨ましそうな顔で見つめてくる花京院 雫。

 早弁したんだろ、お前……。


「花京院さん……なんか食べる?」


「あら、いいのかしら。じゃあミートボールを頂くわ!」


 指で摘まんで食べる花京院 雫。

 その代わりにと菓子パンを差し出してくる。


「はい、一口あげるわ。あーん」


 あ、あーんって……!

 い、いいのか? じゃあ……いただきまふ……


 菓子パンを一口齧る。

 ふむ、クリーム味……。


 そんな俺と花京院 雫のやり取りが羨ましかったのか、光も弁当を差し出してきた。


「梢、何か交換しよ?」


 うむ、いいぞよ。ならメインのハンバーグを一切れやろう。

 ハンバーグを摘まみ、一口で食べる光。


「あれ? もしかしてコレ……手作り? すごーい、てっきりレトルトかと思ったのに……」


 俺もそう思ってた……違うのか?

 自分も一口食べる。あきらかに手作り感がする。

 母親……早起きして作ったのか。しかし毎日こんなの作ってたら……寝不足になってしまうのでは……

 そのまま俺も光の弁当からから揚げを一個もらい、三人共に昼食を終えた。


「ぁ、それでね、梢。派閥についてなんだけど……」


 派閥についての説明を始める光。

 ふむぅ、聞こうではないか。


「えっとね、まあ仲良しグループみたいなもんなんだけど……この学校の生徒全員が何処かの派閥に所属してないとダメなの。ここまで言えば分かると思うけど……一応学校も認める組織だから。だから大きな……多人数が所属する派はもそれなりの恩恵があるんだけど……」


 ふむぅ、そうなんだ。

 ちなみに花京院 雫の派閥は?


「私と雫ちゃん……」


 二人じゃないか。


「まあ……大丈夫よ!」


 ピシィ! と膝を叩いて立ち上がる花京院 雫。


「私が……学校一の派閥にして貴方達を優越感で満たしてみせるわ!」


 いや、別にそれはいいんだけども……。

 まあ仲良しグループみたいなもんだったら別にいいか。


「分かった。俺も花京院 雫の派閥に入る」


 俺がそういうと、二人は満面の笑みで両側から肩を抱いてくる。

 うっ……花京院 雫……胸……胸当たってる!

 や、やわらか……っ


「か、花京院 雫……っ 胸が……あたってる……」


「あら、気にする必要ないわ。女の子同士だもの。別に貴方に揉まれたって私は平気よ!」


 うぅ、そうは言うけれど……


「わ、私も……梢に触られたって……」


 ってー! お前も押し付けてくんな! 困るわ!


「っていうか……貴方……大きいわね……ちょっと揉ませなさい」


「ぁ、私も……」


 そのまま両側から二人に胸を揉まれる俺。

 な、なんなんだ……派閥って……胸を揉み合う組織なのか?!


「ぁ、タイツ買いに行かないと……」


 俺の胸を揉んでいた光の発言で俺も思いだす。

 そうだ、タイツがないと寒いねん。


「あら。じゃあ私も付き合うわ。購買よね?」


 うむ、俺知らんけど……と、そんな俺達三人の前に立つ人物が居た。

 むむ、こいつは……誰だ。


 男子生徒。ネクタイの色を見る限り三年か。メガネをかけた……真面目キャラだ。


「君達か。新しい派閥を立ち上げようとしているのは。悪い事は言わん、とっとと解散して上級生の派閥に入りたまえ」


 ふむ……まあ普通はそうするんだろうな……というかお前誰?


「申し遅れた……。俺は三年Sクラス 鴻江 司こうのえ つかさだ。生徒会の副会長をしている」


 生徒会……やっぱり生徒会もあるのか、この学校。


 その時、横から耳打ちしてくる光。


「生徒会っていうのは……最大の派閥だよ。毎年一番大きな派閥が生徒会に指名されるの」


 なるほど、そうやって決めてるのか……ん? じゃあ花京院 雫が派閥を立ち上げた理由は……


「もちろん、生徒会長になる為よ!」


 な、なるほど……。

 しかし鴻江先輩はメガネを直しつつ首を振る。


「やめておけ。潰されるのがオチだ。というかそもそも……君達三人だけの派閥など認めるつもりは無い。どうしてもというなら……覚悟を見せて貰おうか」


 ふむぅ。つまりは……派閥を立ち上げるには生徒会の許可が必要なのか。

 いきなり前途多難だな。しかし覚悟を見せろって……。


「そうだな。ならばメンバーを五十人以上集めたまえ。期限は……四月一杯としよう。それまでに出来なかったら……君達三人は生徒会に入ってもらう」


 なにぃ……五十人は無理だろ。でも生徒会に入ったら入ったでメンドそうだな……。

 と、後ろで何やら二人がヒソヒソ声で話しだした。


「どうする? 生徒会からのお誘いだよ……入るって言って入れるもんじゃないし……」


「そ、そうね……素直に受け入れようかしら……」


 ってー! 入るの?! 生徒会!


「でも……生徒会って全員寮に入らないとダメだし……」


「そこよね……私なんて家すぐそこだから……寮から通う必要性すらないし……」


 良くわからんが……俺の目の前で鴻江先輩が寂しそうに立ち尽くしてるぞ。

 なんか声掛けるべきだろうか……。


 あぁ、そうだ。タイツ買いにいかないと……。


「ぁ、そうだったね。じゃあ先輩、私達ちょっと購買に行くんで……」


 と、ベンチから立ち上がる三人。その時強い風が吹く。

 両隣の二人は咄嗟にスカートを抑えるが……。


 俺は即座に反応出来ず……


「うわわわ!」


 もろ捲れてしまう! 鴻江先輩目の前に居るのに!

 っく、こんなサービスしてしまうとは……ま、まあこの人も俺の事……元男だって分かってる筈だし……別にパンチラなんて見たって……


「白……か」


 ってー! 鴻江先輩! 血! 鼻血が!


「ハニートラップで俺を落とすつもりかもしれんが……俺はそんな事では屈しない」


 いや、それはいいから! 鼻血拭け! 垂れてるぞ!


「戸城 梢」


 いきなり鼻血を垂らす鴻江先輩にフルネームで呼ばれる俺。


「は、はい……」


「今夜のオカズをありがとう」


 俺はその時心に決めた。


 生徒会には何があっても入らないと。



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