第5話 丸を付けるときは慎重に

 4月 12日 (水)午後5時


 携帯のGPSを頼りに助けに来た俺と美奈。


 倉庫を開けはなち、驚きを隠せない俺と美奈。

 正宗は……


「ひぃ! み、みないでぇ!」


 女装させられていた。

 某アイドルグループの制服らしきものを着せられている。


 しかし……こんなゴツイ男にこんな服を着せるとは……。

 正宗痩せてるけど、結構肩幅広いからな……。


「あら。誰かと思ったらさっきの子達じゃない」


 そして正宗をコーディネートしていたのは、先程俺の服を繕ってくれた女店員、二十代後半だった。


「そのあだ名、なんとかならないのかしら。まあいいわ。それで? もしかして……この男の子は貴方のお兄さんかしら?」


 俺に尋ねてくる二十代後半。

 いや、まあ……めんどくさいから頷いておくか。


「そうですけど……」


 美奈も正宗の事を兄として扱う事にしたようだ。

 ぶっちゃけ美奈の方が年上なんだが。


 二十代後半は女装させた正宗を、後ろ手に縛って拘束していた。

 しかも逃げれないように柱に括りつけている。これは……犯罪ではないのか!


【注意:犯罪です。お互いの同意無しでの拘束プレイは控えましょう】


 美奈も流石にドン引きしている。

 しかし……なぜに正宗を女装させて縛って拘束して監禁していたのだ、非常に気になる。


「私……こういう可愛い顔した男の子みると……許せないのよね。男なら男らしく……もっとワイルドになさい! ってことで女装させてたの」


 ふむぅ、さっぱり分からん。


「つまり……お姉さんは可愛い男の子が大好きって事で?」


 美奈も理解出来ていないのか二十代後半に質問する。

 二十代後半はサングラスを直しつつ、鞭を取り出した!


「貴方達……例の事件知ってるかしら?」


 例の事件? ってなんだ、と美奈と顔を合わせる。


「どっかの高校が誤って女性用ナノマシンを注入して……男子生徒が女子になっちゃったって言う……あれよ」


 な、なにぃ! それってもしかして……俺の事か! まさかとは思うがニュースで流れてんのか?!

 美奈と俺は慌てて携帯を出して確認。

 ニュースサイトで高校名を検索すると一発で出てきた。


『大問題! 高校側のミスで男子生徒が女子生徒に! 強制性転換!』


 と書かれている。

 マジか……こんなニュースになってたなんて……高校側は意地でも隠すつもりだと思ってたけど……。

 うわ! しかも俺が男だった頃の顔写真と名前まで出てるぞ! うわぁーん! プライバシーもクソもねえ……。


「その事件みて……私思ったの。そんな可哀想な子が居るのに……なんでこんな綺麗な顔した男が男なの! って……」


 いやぁ、説明聞いても良くわからんが止めてあげて!


「み、美奈ぁ、助けて……」


 正宗は女装姿で涙ながらに助けを求めている。

 美奈はため息を履きつつ、携帯を仕舞い


「梢、あんた自分の事可哀想って思ってる?」


 そんな事を聞いてきた。

 い、いや、可哀想だろ、どう考えても。

 強制的に性転換させられるなんて……ハッキリいって悪夢だ。


 しかし……


 なんだろう、ちょっと楽しかったりも……しないでもない……。


「まあ……ぶっちゃけ楽しんでる気もする」


 素直に美奈へと言い放つ俺。

 美奈は頷きつつ、二十代後半へと


「この子がその男子生徒です。お姉さん。貴方が服を選んでくれたから……梢は女の子として人生を楽しむ余裕が生まれたんです」


 って、おい! バラすんかい!

 ま、まあ穏便に済ますにはそれが一番なのか……?


 二十代後半は驚いた顔で俺を見つめる。

 しかしまだ信じられないようで……


「しょ……証拠は……あるの?」


 おう、あるともさ。

 俺の体の中には高校のIDナノマシンが入っている。

 そのIDを携帯で読み取り、二十代後半へと見せた。

 携帯の画面には俺が男だったころの顔と名前がしっかりと書かれている。

 しかし性別は女となっていた。


 あぁ……俺あの時……女の方に丸打っちゃったしな……。

 自分に責任が無いとも言えぬ……。


 二十代後半は納得したようで、サングラスを取り俺の頭を撫でてくる。


「本当に……貴方、高校や世の中を憎んでないの……?」


 そんな大げさな……。

 仕方ない、俺は今の人生を楽しんでると証明せねば。


 ジージャンを脱ぎ美奈にあずけ、セーターを捲りあげて……

 俺は先程買ったブラを見せつけた!


「か、買って貰いました……俺、結構楽しんでます……へ、変態ですかね……」


 やばい……恥ずかしいが仕方ない……。

 正宗を助ける為なのだ……!


「ぐああぁぁぁ!」


 と、その時正宗が何やら叫ぶ。なんだ、どうしたんだ。


「ひ、ひぃぃ! 見ないで!」


 しゃがみこんで震える正宗……まさかお前……


「ふふ、所詮女装しようが何しようが男ってわけね。貴方も女体化して……それなりに人生楽しんでるって思っていいのかしら?」


 まあ、構わなくてよ。

 セーターを直しながら再びジージャンを着る俺。

 美奈は再び大きく溜息吐きつつ、正宗の縛られた縄を解く。


「はぁ……ぁ……す、すまん美奈……わ、悪いけど……しばらく一人に……」


「却下」


 ボキボキっと手を鳴らしながら殺気を露にする美奈!

 え、ど、どうしたんすか! 美奈さん!


「あんた……何自分の元弟(幼馴染)に興奮してんだ! このド変態がぁ!」


 そのまま美奈は正宗に四の字固めを極める!

 えぇ、正宗可哀想……。

 って、俺で興奮したのか? ブラみたくらいで……。


「……えっと、梢君だったかしら。貴方……体は大丈夫なの?」


 突然そんな事を聞いてくる二十代後半。

 大丈夫なのって……別に女体化した以外は何も……。


「実は私、大学に居た頃はナノマシンの研究してたのよ。だから……今回のケースは有り得ないっていうのも理解できるわ。体を丸々作り変えるなんてナノマシンは存在しないし、ましてやIDナノマシンにそんな機能があるわけない……ということは……元々君の体が……」


「いだぃ! いだい美奈! あとお前パンツ丸見え!」


 と、二十代後半の言葉は正宗の叫びで途切れる。

 美奈もパンツ丸見えと言われて慌てて技を解き、俺の手を引いて倉庫の外へと出た。


「お姉さん……そいつ着替えさせてあげてください。正宗、車で待ってるから」


 そのまま倉庫の扉を締める美奈。

 えぇ! 正宗大丈夫かしら……。


「大丈夫よ。全く……男なんて皆一緒ね……バカとスケベばっかり……って、梢は違うからね! 梢は女の子だし……その……」


「分かってるよ。俺は今女だ。その証拠にお前のパンチラ見てもなんとも思わんし……」


 さっきもバッチリ見えてたが興奮すら覚えなかった。

 俺は完全に女なんだ。

 目の保養にはなったけども。


「あ、そう……って、見てたの?」


 ぁ、やべ……。

 軽く美奈に後ろからチョークスリーパーされる。

 でも全然苦しくない……むしろ抱かれてるような感じ。


「梢……やっぱり……ちゃんと叔父さんと叔母さんから……」


 ん? 親父と母親から……なんだ?


「話……してもらったほうが……」


 何の話だ。


 と、その時……倉庫から男の格好で飛び出してくる正宗。

 おい、ベルト締めよ。


「はぁ……はぁ……酷い目にあった……逃げるぞ!」


 いや、もうあの二十代後半は敵ではない!

 むしろさっきの話の続きが聞きたいんだが……なんで俺はナノマシンを注入されただけで完全に女体化してしまったのか……。

 原因が分かれば男に戻れるかもしれない。




 ※





 結局正宗に引っ張られ車まで逃げてくる俺達。

 そのまま帰路へと着き、家に帰った頃には既に午後八時を回っていた。


 家に帰った俺は、とりあえず夕食を取る。

 その場には美奈も同席していた。

 あの時、美奈から聞いた言葉が頭から離れない。


『やっぱり……叔父さんと叔母さんから話してもらったほうが……』


 どういう意味なのか。

 気になるでござる……。

 そんな俺の表情を見て察したのか、美奈は「ごちそうさま」と手を合わせる。

 そして親父へと


「叔父さん。梢が生まれた時の話……ちゃんとしたほうがいいと思う」


 その瞬間、親父の顔がかすかに曇る。

 それまで笑っていた母親からも笑顔が消えた。

 なんだ? 俺が生まれた時の話?


「み、美奈ちゃん……それは……」


 親父は明らかに焦っている。

 しかし美奈は続ける。


「梢もこのままじゃ悩み続けるよ。お願い、叔父さん……」


 親父と母親は顔を見合わせつつ箸を置き、俺の顔を見ると頭を下げてくる。


「すまん……梢……俺達を許してくれ……」


 な、なんだ? いきなり……


「お前にも……少し話したよな。お前の名前の事……」


 名前? あぁ、梢って名前は元々女の子が産まれて来るって医師から聞かされてたから……っていうあれか。


 なんだ、今更その事を謝るつもりか? 別に両親が悪いわけじゃ……


「実はな……母さんに陣痛が来た時……つまりは梢が生まれる時、母体の体調を管理するナノマシンを母さんに打ち込んだんだ……」


 ふむ、またナノマシンか、流石西暦2180年だな。


「でもな……父さん……間違えて……母さんの性別……男の方に丸打っちゃったんだ……」


 ……はい?


 ちょ、ちょっと待て! 俺と同じ間違いを犯したヤツがこんな身近に居たなんて!

 なんてこった! で、それが……どうしたんだ。


「その後……赤ん坊が生まれた。でもその子は……」


 俺だよな?

 俺の事だよな、それ


「母さんに打ち込んだ男性用のナノマシンの影響を受けて……男の子になってしまったんだ……」


 ……ん?

 え、ちょっとまて……


「それが梢だったんだ。つまり……お前は本来、女の子として生まれる筈だったんだ。医者が母体の中にいる梢の性別を見間違えたんじゃない、俺が……取返しの付かない間違いを犯したんだ……」


 な、なんだって!


「それでな、梢……落ち着いて聞いて欲しい。この話をお前が入院している時に担当の先生に話したんだ。そしたら……今回の梢に起きた現象は……本来の性別に戻っただけの話なんだそうだ。だから……男に戻す事も……出来ないんだ」


 …………


「梢……?」


 一瞬頭が真っ白になった。

 美奈に肩を揺すられ、我に戻る。


「そ、そうなんだ……俺は……本当に女なのか……」


 あぁ、それでか。

 美奈はこの事を知っている。

 だから俺が女になった時も、引く所か色々教えてくれた。


 なんでそこまで順応できるんだと思っていたが……そうか、俺は本来の性別に戻っただけだったのか。


「皆……知ってのか……?」


 美奈は目を反らして頷く。

 この調子で行くと正宗も知っているんだろう。

 だからあいつは俺に優しくしてくれたのか。

 俺は本来女だから……。


「梢……?」


 美奈が心配そうに見つめてくる。

 両親も申し訳なさそうに俯いている。


 本来なら怒り散らすところだろうか、ここは。

 でも怒りなんて沸いてこない。


「親父……知ってるか……」


 俺は俯いている親父の手を取り


 思いっきり胸に押し付けた。


「は……え……えぇ!」


「ちょ、お、オジサンのスケベ!」


 美奈は慌てて剥がそうとする。

 だが俺は押し当て続けた。


「どうだ……親父……柔らかいだろ! 女体化なんて男のロマンだ! 俺はぶっちゃけ楽しんでる! こんな経験が出来たのも親父が間違えてくれたからだ。だから……なんだ、その……別に俺は怒ってないし……逆に感謝してるくらいなんだ。美奈も色々教えてくれるし……本当に感謝してる……だから……」


 ゴクっと息を飲みこみつつ


「俺……女子高生始めます」


 明日から高校に行くことを決意した。





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