第4話 ショッピング(2)

 4月12日(水)午後2時


 男性諸君なら分かるだろう、今の俺の気持ちが。


 とてつもない場違い感。

 普通のショッピングモールでも前を通る時、つい目を反らしてしまう……あの店。


 妹や姉、または恋人の買い物に付き合う為、渋々中へと入ると……

 店員や他の女性客に異様な目で見られた経験は無いだろうか。


 ちなみに俺はある。

 何を隠そう、今目の前でニヤニヤしながら商品を選んでいる女に無理やり引きずり込まれた。

 その時は何があっても離れないようにしていたが、どうしても試着する時は外で待っていなければならない。


 店の外に出ようにも、男一人でそこから出てきた所を見られたら……と思うと足が動かない。


 え? オーバーだって……?


 仕方ないじゃない! 俺は思春期真っ盛りなんだ!


 察しの良い人は気づいている筈……


 いや、前話からの流れで完全に分かってるとは思うが、今俺は女性下着ショップ「ピクシー」の中に居る……。


「ぁ、梢ーっ、これ可愛い! ほらほら!」


 や、やめぃ! そんなフリフリ付いた下着……!

 お、俺は無理でござる!


「っていうかサイズ測ってもらわないと……すいませーん」


 さ、サイズって……うぅ、もう拙者の心は砕けそうだ……。


「はい、お呼びですか?」


 と、来たのは男の店員。

 おおぅ、ちょっと安心……。


「ぁ、すいません、女の人がいいんですけど……」


 なにぃ! いや、男の方が良いだろ! 

 女の店員に裸見せろっていうのか! 恥ずかしいでござる!


「いや、どう考えても逆でしょ……」


「申し訳ありません……只今は私しか対応できないので……」


 うむ、仕方ないな。俺は男で構わんぞ。

 美奈は何やら心配そうに見つめてくる。何がそんなに不満なんだ。

 男が男のサイズ測るのがそんなにおかしいか?


「いや、あんた女だし……まあ仕方ないか……この子のサイズ測ってもらいたいんですけど……」


 と、男性店員は俺を見るなり愛想笑いしつつ


「す、すみません、すぐに女性店員呼びますので……」


 って、おいちょっと待て!

 結局お前測らんのかい!


【注意:女性用下着ショップに男性が働いている事は普通にありますが、店によっては男性店員が女性のサイズを図るのを禁じている所もありまス(友人談)】


 襟元のマイクで女性店員を呼ぶ男性店員。

 だがすぐには来れないらしく、仕方なく一緒に下着を選び始めりゅ。


「初めての下着(ブラ)なんですか?」


「そうなんですよー……今どんなの流行ってます?」


 流行りって……下着に流行とかあるのか?

 別に見せびらかす様なもんでも……。


 いや、まぁ……ラッキースケベ的なのは今まであったけども……


「そうですね。最近は……というより昔からフリルやレースとかの可愛い系が人気ですかね……。OLの方はまた違ってきますけど……中高生のお客様は……って私が言うとセクハラになりませんか?」


「いやいやーっ、そんな事ないですよーっ」


 なんだろう、二人で笑いながら凄い盛り上がってる。

 ワシ寂しい。


「ほら、梢。あんたどういうのが良いの?」


 どういうのって言われても……


「地味なので良いけど……」


 俺がそういうと、男性店員はうんうんと頷いてくる。

 一方美奈は……


「あんた……そんなんじゃ学校で恥かくわよ」


 かかねえよ! そもそも下着なんて見せねえよ!


 そんなやりとりをしていると、ヒョコヒョコと女性店員がやってくる。


「大変おまたせしましたーっ」


 俺の目の前に現れた店員。


 …………ん?

 こ、この人? なんか……小学生にしか見えんのだが。


「ぁ、大丈夫ですよ、うちの店長です」


 マジか! ドッキリかと思ったわ!


「店長、こちらのお客様のサイズお願いします」


「はいはーい。こちらへどうぞー」


 そのまま小学生店長の後について試着室に……。

 美奈と男性店員はまだ楽しそうに談笑している。おのれ、人の気もしらんで!


「お嬢ちゃん初めて? 緊張してる?」


 う、うむ。バリバリ緊張しているでござるよ。


「大丈夫大丈夫。痛くしないから」


 サイズ測るだけで痛かったら恐怖だわ……。


「はい、じゃあバストからね。上着脱いでね。オバさん背ちっちゃいから……しゃがんでくれる?」


 りょ、了解ッス……。

 上着を脱ぎつつ正座する。

 そのまま……なんか胸に冷たい感触が……ふっぁっ


「ふーむ、お嬢ちゃん何歳?」


「え、えっと……十五歳です……」


 ほほぅ……と何やら感心するような声を出す小学生店員。

 美奈が大きいと言っていたが……そんなになのか?


「はい、次~、立って~」


 あ、あれ? 教えてくれないんだ……。

 言われた通りに立ち上がり、お腹とお尻も測られる。

 うぅ……お尻の位置に店員の顔が……な、なんか……こそばゆい!


「はい、おっけー。ふむふむ。グラビアに出れそう……」


 ちょっと待て! そんなにか!? 数字教えろ!


「ウフフ。あとでお姉さんに聞いてね。私の口からは言えないわ」


 なんで! 


「じゃあ待っててねー」


 そのままメモにサラサラと書きつつ、試着室から出ていく小学生店長。

 むむぅ、気になる……ちなみに俺はFカップが好きだ。


 と、そこに美奈がカーテンの隙間から顔を出してくる。

 いきなり怖いわ。


「あんた……やっぱり凄かったんだ……。ちょっと待ってな! 勝負下着選んでくるから!」


 待てゴルァ! なんの勝負だ!

 いかん、不安しか残らん。

 まさか……凄いきわどいの選んでくるんじゃ……。


 それから数分後、外から男性店員の声も聞こえる……。


 カーテンを半分くらい開けつつ、美奈が入って来た。

 男性店員は後ろ向いてる……。


「ほい、とりあえず何着か持ってきたから……。ブラの付け方分かる?」


 分かるわけないだろ。


「まあ、そのうち慣れるでしょ。最初は私がやったげるから……あっち向いて」


 言われた通り向きつつ、美奈が俺に……ブラ付けてくる……。

 うぅ……俺の人生でブラ付ける日が来るとは……。


「何震えてんのよ……変な声出すんじゃないわよ?」


 なんだ、いきなり……

 変な声なんて……ブラつけたくらいで……


「わひゃ!」


 い、いきなり何すんねん! この女!

 人の胸鷲掴みに……って、あぁ、こうやって付けるのか……。

 なんか……胸が支えられてる……気がする……。


「変な声出すなって言ったのに……お、可愛いじゃーん。さっきの店員さんにも見てもらう?」


「や、やだ……」


 震えながら言う俺。

 な、なんだ? 今の俺の声か?


「あはは、赤くなっちゃって……。梢、可愛いよ」


 か、かか可愛いって……

 な、なんだコレ……すげえ恥ずぃ……。


「それにしても……ホントに私より大きいとは……しかもお尻は私より小さいし……許せませんな」


 そうか……と、なんか可哀想な目で美奈を見る。


「何よ、その目は……。すみませーん、これどうですかー?」


 と、カーテンを開け放つ美奈。

 わっ、ば、ばかもの! 外にはあの男が!


 思わず美奈の後ろに抱き付いて隠れる俺。

 な、なにしてんだ俺……。

 俺は男なんだ……男に見られて何が恥ずかしいんだ……。


「お、可愛い可愛い。それ付けてく?」


 と、外に居たのは小学生店長だった。

 そりゃそうか……男性店員が試着室の前に居たらドン引きだな……。

 あれ? でもさっき居たよな……。


「あぁ、梢からかおうと思って……最初だけ付いてきてもらったの。ぁ、はい、じゃあ付けてきます」


 うぅ、弄ばれた……。


「じゃあ梢、一回取って」


 ん? つけてくって……


「洗って貰えるから。下着は新品でも洗わないとダメよ。肌荒れするから」


 そ、そうなのか……っていうか……洗ってたら時間掛かるんじゃ……。


 小学生店長に脱ぎたての下着を渡しつつ、数分後……


「ほい」


 はやっ! 


「なんといっても西暦2180年ですから。科学の進歩ってやつよ」


 ごり押してないか、それ。


 そのまま再びブラを付け直し、服を着てレジへ。

 チラっと値段を見る。


 9800円ナリ。


 たかっ!

 下着ってこんなにするのか! 安いゲーム数本買えるぞ!


 美奈普通に一万出してるし!

 こ、こいつ……ホントに今日だけでいくら使ってるんだ?


「ほら、いくわよ。ありがとうございましたーっ」


「またのお越しをー」


 店員さんに会釈しつつ店を出る。

 むむ、なんか肌寒い……。今何時だ?


「午後四時か……結構見て回ったね」


 マジか……下着買っただけなのに二時間も掛かってたのか。

 文字数まだ三千字くらいなんだが。


「そろそろ帰ろうか……って、ヤバ……」


 ん? どうした……って、ぁ……。


「完全に忘れてた……正宗の事……あいつ……ご飯食べたのかな……」


 俺も完全に忘れてたわ……。

 正宗……ごめんよ……。


「ん? 電話に出ない……もしかしてジェットコースターでも乗ってるのかな……」


 んなバカな。正宗は高所恐怖症だぞ。

 ましてや一人でそんなのに乗るとは思えんのだが……。


 なんか心配になり、俺と美奈は入場料を払って遊園地の中に……。

 結構広いな。ここから正宗探すの苦労するぞよ。


「もっかい電話かけてみる……んー……やっぱり出ないなー。何してんだろ」


 もしかして拗ねてるんじゃ……。

 うぅ、どうしよう。


 と、二人で悩んでいる時……。


「ぁ、あの……」


 何やら話しかけてくる男が居た。

 なんかかなり気弱そうな奴だな。

 ナンパでは無さそうだが……。


「よ、よかったら……あ、あそばない?」


 ナンパだった! まじかよ! もっと元気だせよ!


「え? えーっと、ごめん、男の連れが居るから……」


 美奈もなんとなく申し訳なさそうに丁寧にお断りする。

 ナンパしてきた男はシュンとしながら


「そ、そうですか……すみませんでした……」


 そのまま立ち去っていく……なんだったんだ、一体……。


「中々可愛い顔した子だったね。罰ゲームか何かかな」


 あぁ、罰ゲームでナンパしてこいって言われたのか。

 可哀想に……って、また戻って来た!


「ぁ、ぁの……アイスクリーム……食べませんか……」


 チラ……とナンパ男の背後を見てみる。

 三人の男達がゲラゲラ笑っていた。

 なんかイラっとするな……。


「梢……分かってるわね……」


 小声で話しかけてくる美奈。

 あぁ、なんとなく分かった……コイツが何を考えてるのか……。


「うんうん、食べよ! っていうか君可愛いね~。お姉さんが色々教えてあげよっか?」


 と、ナンパ男の腕を取って組みながら言い放つ美奈。

 続いて俺も


「お、おれ……私も食べたい……」


 ぐわぁー! 俺きもちわりぃー!

 美奈と反対側の腕を取って抱き付く。

 うぅ、男の腕に何が悲しくて抱き付かんとならんのだ……。


 チラ……と再び背後を見てみる。

 三人の男達は案の定、悔しそうにしていた。


 いや、しかし……このナンパ男、あとで虐められないか?


「ほら、じゃあ……あーっ、私あれ乗りたいーっ」


 調子に乗った美奈が指示した物……それは、この遊園地で一番怖いと言われるジェットコースター……。

 長蛇の列が出来ている。


「えっ! い、いや……ぼ、僕はちょっと……」


「いいから……来なさい……」


 ボソっと美奈に耳打ちされ、無理やり列に並ばせる。

 三人の男達も、悔しかったのか列に並んできた。


 ふむ、見るからに高校生か。

 って、今日ド平日だろ! サボリか貴様ら!

 俺が偉そうに言うのもどうかと思うが……。


 その時、美奈はいきなり後ろに並んだ三人の男達に振り向き


「君達、この子使って遊んでたでしょ」


 説教を始めた……。


「えっ! い、いや……その……」


「じゃ、じゃんけんで負けた奴がって……」


「……あぁ、俺叱られてる……」


 おい、最後の奴喜んでるぞ。


「度胸試しって奴? 私達だから良かったものの……変な人に声掛けちゃったらどうするつもりだったの」


 変な人って……お前も結構変だが。


「この子可愛い顔してるし、絶対連れ込んで襲おうって奴いるよ?」


 いや、それお前の願望か?


「まあ、でもこの子も頑張って女二人連れに声掛けたんだし……ご褒美あげるわ。梢、こっち来て」


 なんだ、ご褒美って……飴玉なんか俺持ってないぞ?


「ほら、そっち並んで……見逃すんじゃないわよ」


 と、いきなり俺のスカートを捲りあげる美奈……。


 って


「お、お前何してん! いきなり!」


「あはは、ごめんごめん、お約束かなーって……」


 その瞬間、高校男児達は股間を押さえて倒れこんでいく。

 いや、待て、お前等……この程度でそこまでの反応見せるって……ノリいいな。

 ナンパしてきた男も一緒になって倒れてるし。


「これからは仲良く健全に遊ぶんだよ。分かった?」


「わ、わかりました……」


「ありがとうございます……」


「おみそれしました……」


「……で、できれば蔑んだ目で、もっかい……」


 おい、最後の奴……茨の道を進んでるな……。

 そのまま高校男児達は四人仲良く去っていき、俺達二人は列から離れ再び正宗探しを続行する。


「さーって……正宗……今度は電話に出るかなー……」


 言いながら電話を掛ける美奈。


「お、出た出た……おーい、正宗、今何処?」


『……た、たすけて……』


「は? ちょっと、あんた今何してんのよ」


『へ、へんな女に……連れ込まれて……』


 って、おい! お前が連れ込まれてんのかよ!


 何処だ! どこに居るんだ!


『なんか倉庫みたいなトコ……って、ひぁ! ご、ごめんなさい! ごめんなさい!』


 やばい! 正宗がピンチだ!

 助けなければ!


「あー、適当にヤっちゃいなさいよ。早く帰りたいんですけどー」


 美奈ひでえ! 正宗は女に優しくしない奴はカスとか言う奴だぞ!

 そんな奴が女に手あげれるわけが……


「仕方ないな……正宗、GPS切ってるでしょ」


『今入れた! ONにした! 早くきてぇ!』


 まったく何してんだか……と渋々正宗の携帯を追跡する美奈。

 むむ、あそこか、確かに倉庫みたいのがあるな。関係者以外立ち入り禁止の柵を普通に跨ぐ俺と美奈。


【注意:良い子も悪い子もマネしないでください】


 そして……俺と美奈は倉庫を開け放った時


 目を疑った。


 そこに居たのは……。



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