第25話 ガンツ
シキは走る。門をくぐり、商店街を抜け職人街の方へと休むことなく走り続ける。
朝早く、まだ準備が完了したばかりの屋台が並び、仕事をするために移動を始めた人たちがちらほらと歩いている。
シキは手当たり次第に話しかけ、情報料を払ってガンツの鍛冶場を探す。思っていた以上に時間がかかったが、無事ガンツの鍛冶場の前までたどり着く。
扉に鍵などはかかっていない。そのまま扉を開け、中へと入っていく。
「こちらがガンツさんの工房で間違いないですか?」
「……朝から何者だ?」
今の今まで鍛治をしていたようで、シキが呼ぶと同時に奥の扉が開き奥から槌を持ったドワーフ、ガンツが出てきた。シキはしっかりとあいさつをする。
「ツクモ様の代わりにこちらへ来ました。シキと申します」
「ツクモだぁ? 完成は二日後の予定だったはずだが……こんなに早く取りに来られてもまだ完成してないぞ?」
それはそうだろう。ガンツほどの鍛冶師が三日ごと言ったのは、三日後にはできているという意味で言ったのではなく、三日後までには何とかしてやるという意味だ。
三日どころか、まだ一日も経過していないのに刀が完成しているはずがなかった。だが、それはシキも承知の上だ。
だからシキは失礼なのを承知で頭を下げて頼み込む。
「完成品でなくても構いません、料金も支払うので刀を一本譲っていただけませんか?」
「……俺に失敗作を売れと?」
ガンツが明らかに不機嫌な声でシキに返す。当然だろう、ガンツは気に入らない作品は捨て値同然で売るような職人だ。未完成の品を売るなんてことをするはずがない。
ツクモに頼まれたものはいつも打っているただの剣ではなく、全く新しい刀という未知の武器。未だ試行錯誤を繰り返している最中であり、やっと掴めてきた程度の進捗状況だ。
そしてその刀の出来は、捨て値同然だとしても売りに出す気になれないレベルの低いものばかりだった。
「お願いします。どうしても今日ツクモ様に武器が必要なのです」
シキは言い訳せずにただただ頭を下げる。ツクモとシキはつい先日街に来たばかりであり、この街に詳しくない。
普通ならば街に売ってある武器を使うべきなのだが、街で売っている剣の質はかなり低いということを知っていた。
加えて、ツクモが今から挑もうとしているのは失敗の許されない強大な敵だ。なるべく使い慣れた形状の武器が欲しかった。
今は大至急ツクモが使う武器が必要であり、ツクモが使うという信用に足りる鍛治師であり刀に一番近いものを制作することができる鍛冶師をシキはガンツしか知らなかった。
そんな思いを込めて頭を下げ続けるシキに何かを思ったのか、ガンツがゆっくりと言葉を発する。
「……頭を上げな。見たところ何か事情があるようじゃねぇか。理由次第ではくれてやる」
シキは頭を上げて、神妙な顔で言う。
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