第23話 不明
「ここがキャロルちゃんの家ですか? ……近かったですね」
「そう! 宿から徒歩五分! 交通に便利な立地となっております!」
「行商人に家を売るような宣伝文句ですね」
「まぁまぁ、とりあえずキャロを呼ぶね。まだ朝ご飯も食べてないんだから。キャロー! お兄ちゃんが来たぞー!」
シキが横でお兄ちゃん……と呟いたが、若干引いているように見えなくもないが! ツクモは気にしない。
今は約束した時間よりもまだ一刻ほど早い時間。
朝ごはんを食べてからキャロルを迎えに行くといっていたツクモは、心配で心配でたまらなくなり、朝ごはんを買う前に迎えに来てしまったのだ。
「あれ? まだ寝てるのかな?」
「そうですね、ご飯も食べずに起きてすぐに来ましたしその可能性もありますね。入ったら良いんじゃないでしょうか? お兄ちゃんなら。お兄ちゃんなら入っていいと思いますよ」
「まぁ、迎えにいくって言ってたわけだし、入ってみようか。鍵は……開いてるな……」
キャロルのことしか頭に残っていないツクモはシキの嫌味に気がつかず、キャロルの家に堂々と入る。
まるでそこに何年も住んでいたかのような躊躇いのなさだ。
ツクモの後に続いてシキも家の中へと入っていく。
「キャロー? どこだー?」
「キャロルちゃーん? どこにいますかー?」
しかし、いくら二人で探してもキャロルは見つからない。隠れているのかと思ったが、ツクモなら気配で簡単に見つけることができるのに気配すら感じない。
おかしい、そう思って家の中を見て回っていたその時、ツクモが何かに気がいて呟いた。
「……手提げがない……」
「手提げ? なんですかそれは?」
昨日ツクモが宿に帰る時にはあったはずの手提げがあった場所から無くなっていた。
しばらく探してみるが、家中のどこにもないことも確認した。
「キャロが昨日持っていた手提げがないんだよ。花を買った時にあったから……まさか……ッ!?」
思い当たる可能性の中で一番最悪のものが頭に浮かんできて、ツクモは走り出した。
「待ってくださいツクモ様!」
ツクモはそのままキャロルの家を飛び出した。シキはその後を追う。
「くそっ! シキ! 花畑はどっちだ!?」
「花畑と呼ばれているものは東門の先にある森の手前にありますーーッ!? まさか……そういうことですか!?」
「くそっ! 走るよ! シキも急いで!」
ツクモは東門に向かって全速力で走る。
ダメなのだ。今のキャロルを森に行かせてはダメだったのだ。
キャロルが隠されてしまう!
急いで門へと向かい、門を守っている門番の元へ突撃する。
「門番さん! ここに猫人族の女の子来なかった!?」
「お、おおう? 猫人族の女の子ってキャロルちゃんのことか?」
やはり名前が出てきた。いや、まだただの知り合いという可能性もある。
「そう! ここを通ったのか!?」
「朝一でやってきたぞ? 花をプレゼントして驚かせるんだって張り切ってたからまだ花を集めてるんじゃないか? ……というかそんな焦ってどうしたんだよ」
「ここをいつ頃通ったんだ!?」
「一刻ほど前だが? そんなに心配しなくても花畑には魔物は出ないし、危険なんてないぞ? 確かにいつもよりは遅いが……そろそろ戻ってくる頃合いじゃないか?」
そんなはずがない。一刻も花を摘み続けるはずがない。
それにもし驚かせたかったのならツクモがキャロルの家に行く前に戻ってこなければいけない。
「くっ……! キャロッ!」
「衛兵さんこれを!」
「あ、おい! 身分証をって金貨!? ……ったく、キャロルちゃんのために必死になってるのに、受け取れるわけないじゃねぇか……」
身分証を見せずにツクモが外へ飛び出していき、シキが門番に金貨を数枚投げつけてから同じく後を追って外へと飛び出していく。
許可を取らずに外へ出た罰則はせいぜい銀貨数枚しかとられないし、キャロルのことを呼びながら飛び出していったのだから悪いものではないのだろう。
そう判断して、少し経ってから増員としてやってきた衛兵に異常なしと報告した。
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