第20話 ペアリング

 夕食も食べ終え、ツクモとシキは部屋に戻った。とはいえ、ツクモはまずはシキにかけられた疑いを晴らさはければいけない。


 夕食を食べていた時間が空いたことで多少の余裕はできたが、シキの目はまるで氷のように鋭った。


「ふぅ、それでは今日何があったのか説明してもらえますか?」


「うん。まず、重要じゃないことだけど腕の良い鍛治師に剣を、いや、刀を作成してもらうことにした。本来は金貨3枚だったんだけどなんやかんやあってただになった」


 ツクモにとってこの情報は重要じゃないが、ある意味重要な情報だった。……シキとの約束的な意味合いで。


「刀を知っている鍛治師が居たのですか? あんな古くてマイナーな武器を知っているとは……」


「いんや、薄くとか片刃とか指定した。初めて作るから値段はつけられないってことでタダになったんだよね」


 実際ガンツは自称した通りドワーフ随一の鍛治師だ。自分の作品が失敗作だと少しでも判断すれば、普通の鍛治師よりも出来が良くても捨て値同然で売っている。

 昔いた場所では、失敗作を狙う者たちが溢れかえっていたほどだ。……もっとも、それが嫌でこの街へとやってきたのだが。


「それは……自分の打ったものにかなり自信があるようですが、実際実力はどんな感じなのですか?」


「んー、ムサシが喜ぶレベル」


「それはすごいですね……。では、お金は金貨5枚が残ったのですか?」


「いや、2枚だね」


 そう答えた瞬間、空気が一気に凍えた。


「……ツクモ様? 私言いましたよね? 無駄使いはダメだと。言いましたよね? 銀貨10枚くらいは無駄に使われるとは覚悟していましたが……金貨3枚とは何事ですか! そもそもーーー」


「無駄使いじゃなくてシキへのプレゼントを買ったんだ!」


「ーーー一体何を買った……プレゼント?」


 ブリザードから一転、シキはキョトンとした顔で聞き返してきた。


「あ、あぁ。これなんだけどさ、開けてみてくれる?」


 ツクモはネックレスが入ったケースをシキに渡す。


「……これは、ネックレスですか? 同じものが二つ?」


 やはり、同じものが二つあることに疑問を感じているようだ。その理由をツクモは店員さん……じゃなくて店主に聞いている。


「二つあるのは俺とシキが一つずつ着けるからで、ペアリング? って言うんだって」


「ペアリングだったのですか。……ツクモ様はペアリングの意味を知っていますか?」


 キャロルは確か、二人が仲良しだと言うことを簡単にわかるようにするものだと言っていた。つまり……。


「親しいもの同士で付けるものでしょ? 貴族の家紋みたいな感じで」


「え、えぇ、大体その通りなのですが……いえ、大丈夫です。ところで、これはいくらだったのですか?」


「それ二つで金貨3枚だぞ」


「き、きき、金貨3枚ですか!? ……金貨3枚でペアリング……ペアリングで金貨3枚……」


 値段を伝えるとシキは顔を赤くしながら大声を上げたあと、何かを考え込むように下を向いてしまった。やはり、金貨3枚は高すぎただろうか……。


「いや、でもさ! もしも刀を買っていたら金貨3枚だったわけだし? 実質ただみたいなものって……シキ?」


「金貨3枚のペアリング……っ!? は、はい! こ、今回は許します!」


 許すと聞き、ツクモは安心したように微笑んだ。


「そっか、良かった。ほら、そのネックレスさ、白と黒のマダラ模様でしょ? 俺とシキそれぞれの髪の色をイメージしてるんだよね。あと指輪にもなるらしいから気分によって付け替えてね」


「ゆ、指……そ、そうですね! 今はネックレスにしておきたいと思います!」


 仕方なくみたいな言い方をしているが頬が緩んでるし、かなり嬉しそうだ。しかし、これで重要ではない話はおしまいだ。次は重要な話をしなければいけない。


「で、そのネックレスを一緒に選んでくれた女の子が居たんだけど、その子にマーキングがされていた。レベルは3、まだ強制転移は不可能ってところかな」


 それを聞いてシキの雰囲気も一気に切り替わる。


「……マーキング……。ということはやはり?」


「あぁ。この行方不明事件の犯人は神隠しだ」


「……その女の子のことを教えてください」


「うん。話そうと思ってたからね」


「まず、種族は猫人族で十歳の女の子。名前はキャロル。そして……両親が行方不明になっている」


「そう……ですか……」


 シキが悲痛な顔で言う。


「マーキングされた場所は裏道か森か……いや、キャロはまだ十歳だしレベル3ならーーあぁ、花が採れるところかな」


「その、キャロルちゃんは今どこへ?」


「本当は今日からこの宿に連れてくるつもりだったんだけど、俺がシキにプレゼントするのを邪魔したくないって言われて今は自分の家にいるよ」


「……その、レベル3だったのですよね? 大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。神隠しは強力な代わりに発動条件と範囲が厳しい。それに、明日の朝迎えに行くから家から出ないように言ってるからね」


 ツクモはキャロルを家まで送ったし、神隠しの発生条件は家の中では満たすことができない。だからキャロルは家から出ない限り安全なのだ。


 ツクモはシキに買い物と同時に頼んでいたことを聞くことにした。


「俺の方でも確認はしたけど、シキから見た行方不明事件の話の広がりようを教えてもらえる?」


「はい。まず、行方不明事件の話はこの街に限っていえばほぼ完全に広がりきっていました。そして、領主から出された御触れによって知らない人は居なくなったはずです。……ですが、香辛料を販売していた行商人に聞いたところ、そんな情報はこの街へと来て初めて聞いたそうです」


 行商人が知らなかったという情報以外はツクモが得た情報と同じだったが、これはいい誤算だ。


「神隠しは都市伝説級か……。街に噂が広がりきってるから、一応伝説級として対処にあたろう。……これ以上は犠牲者を出さないように終わらせないといけない」


「そうですね。では、明日はキャロルちゃんのところへ私も向かいましょう。こんなに良いものを一緒に選んでくれたのですから」


 シキが微笑みながらネックレスを掲げ、そう言った。


「ははっ……シキに気に入ってもらえたならキャロはもう安心だね。とても運がいい」


「えぇ……そうですね」


 そして二人は眠る。キャロは十歳だし、ナナの友達にもなってくれそうだ。しっかりした子だからナナのお姉ちゃんをしてくれるんじゃないかな。


 でも、少し活発なところもあるからあまり目を離さないようにしないといけないかもしれない。


 そんな事を考えながら意識を落とした。


 しかし、そんな楽しい想像も次の日打ち砕かれる事になる。

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