第18話 金貨三枚

「いらっしゃいませー……? あの、お客様? お店を間違えていませんか?」


「えっと、いつもお世話になってる女の子にプレゼントを買うのにオススメのお店って聞いたらここだって今肩車している子に聞いて……」


「え? あぁなるほど! 分かりました、任せてください! 絶対に成功させましょう!」


「ん? そうだな、せっかくなら喜んでもらいたいし任せようかなぁ。あ、キャロも良いと思ったのあったら教えてね」


「うん! 任せて!」


 裏に戻った店員さんは、いろいろな商品のレプリカらしきものが入っている箱を抱えてやってきた。キャロルはキョロキョロと展示されている商品を見ている。


 そのままではさすがに見にくかったようで肩から降りてきたが、尻尾はツクモに絡ませたままだった。


「まず、お贈りする方のことを教えていてもらえますか? 年齢や髪色などできれば詳しくお願いします!」


「そうだなぁ……。髪は俺とは対照的に真っ黒で、肩くらいまでしか長さがない。見た目は俺と同じくらいかなぁ? あ、一応一緒に冒険者登録したから、武器を使う時に邪魔にならないようなものとか無いかな?」


「ふむふむ、ちなみに予算を教えて貰えますか?」


 ツクモが今持っているのはほぼ金貨5枚だ。キャロルに銀貨1枚とご飯と串焼きに多少の金を使ったが誤差の範囲内だろう。

 しかし今回は、もし剣を買っていた時にかかったであろう値段までしか使わない予定だった。

 でも、こんなに気合を入れて選んでくれているのだから多少値段が上下しても構わない。


「予算は金貨3枚で、多少ならオーバーしても大丈夫なんだけどさすがに足りるよね?」


「き、きき金貨3枚ですね!? ということはそういう事ですね! 足ります! この店にある大体のものを買えますよ!」


「わぁ、ツクモお兄ちゃん頑張るんだ! キャロも応援してるね!」


「そうだなぁ、喜んでくれると良いんだけどね」


 店員さんが先ほどから濁した言い方をしていて少し気になるが、やる気はかなり入っているみたいだし、気にしないことにした。


「髪が黒……なら暗めで合わせる? いや、せっかくだしお兄さんの髪色とーー冒険者なら指輪はダメだけど、でもこれなら? いや、金貨3枚なんだからペアじゃないと……それなら、よし! 決めました!」


「お! どんなやつか教えてもらえる?」


「はい! まず、冒険者ということだったのでネックレスにすることもできる指輪にしました! 魔物などと戦う時はネックレスとして、普段は指輪として使えるようなものです!」


「それは良い感じだね。……大人しめの子だから派手だと付けてくれないと思うんだけどどんな見た目なのか見せてもらえる?」


「はい! えっと、あった! これです! 開けてみてください!」


 渡された箱の中には、黒と白が入り混じった指輪が入っていたが、なぜか二個ある。


「えっと、何で二つも入っているの? 違いがあるようには見えないし、どっちか片方を選ぶって感じでいいのかな?」


「違います! これはつまりペアリングです!」


「ペアリング?」


 ツクモの疑問に答えてくれたのはキャロルだった。


「お兄ちゃん、ペアリングっていうのは、同じものを付けて二人が仲良しってことが簡単にわかるようにするものだよ! だから二つあるの!」


 キャロルに言われたことが本当なのか確認するように店員さんの方を見ると、頷きながらさらに力説された。


「その通りです! それに加えて、黒鉄とミスリルを使用することで、お相手の黒い髪とお兄さんの白い髪を表現できるんです! これ以上にぴったりなものはないと思いますよ!?」


「そ、そうか……。ちなみにこれでいくらくらいなの?」


「二つで丁度金貨3枚です! なにせ、金貨3枚用の商品なので!」


「金貨3枚だもんね!」


 勢いに押されている感はするけれど、もしかして、この店は値段ごとに商品を取り揃えているのだろうか? もしそうならツクモはキャロルにとても良い店を紹介してもらったのかもしれない。


「じゃあそれを買わせてもらうよ。……キャロは何か良さそうって思ったやつはあった?」


「んーとね、最初はこの赤いリボンがいいと思ったけど、ネックレスの方がいいと思ったから大丈夫!」


「そうか……。店員さん、そのリボンも買うよ」


「毎度ありがとうございます! 私からの応援として二つ合わせて金貨3枚で大丈夫ですよ!」


 店員さんにはツクモが考えていることがわかったようで、ニッコリと微笑まれてしまった。


「そうか。ありがとう」


 でも、その会話を聞いていたキャロルが焦りながら言う。


「え? 買わなくてもいいんだよ! せっかくペアリングで選んだのに台無しになっちゃう!」


「違うよ。このリボンはこうするんだよ」


 ツクモは、キャロルの猫耳に似合うように赤いリボンを着けてあげる。少しくすぐったそうにした後に目をぱちくりとした。


「……キャロに?」


「うん、キャロの藍色とリボンの赤はすごく合うって思ってたんだよね。手伝ってくれたお駄賃だよ」


「も、もうキャロは銀貨をもらってて、ご飯も、だから、その……」


 例のごとくキャロルはあたふたしてしまったが、ツクモはそんなことは気にしないと言わんばかりにキャロルに聞く。


「誰かに何かをして貰ったら何で言えば良いと思う?」


「えっと……あ、ありがとう……」


「その通り。良いものが選べたのも全部キャロのおかげだから、そのリボンはもうキャロのもの。貰ってもいいんだよ」


 キャロルは照れたような仕草のままツクモの背中によじ登って、そのまま顔を隠してしまった。


「はは、じゃあ店員さん、そろそろ俺たちは戻るね。良いものを選んでくれてありがとう!」


 ツクモは礼を言って店を出る。


「いえいえ、応援していますよ! あと、私は店員ではなく店主です!」


 それは失礼なことをしてしまったと思いながら空を見上げる。まだ空は明るい。

 でも、そろそろシキの元へ向かえば丁度いい時間なのかもしれない。


「俺はそろそろ待ち合わせに向かうけど、キャロはどうする? もし良ければ俺たちの泊まってる宿に泊まりに来ない?」


「ほんと!? あ……でも……うん。えっとね、すごく嬉しいんだけどね、今日はやめとく!」


 一瞬目を輝かせたキャロルだったが、すぐに辞めておくと言い出した。


「どうしたんだ? あ、お金なら気にしなくて大丈夫だよ。かなり余裕があるからね」


「あのね、ダメなの。せっかくの金貨3枚がキャロがいたら台無しになっちゃう」


「そんなことないよ? 逆に、一緒に選んでくれた人って紹介すると相当喜ぶと思うんだけどなぁ……」


「でも、でも……。やっぱりダメなの! 今日だけは一緒じゃダメだよ……」


 多分キャロルは、ツクモがシキにネックレスを渡したときにもしも受け取ってくれなかったらどうしようと考えているのだろう。


 そしてそれが原因でもしも突き放されてしまったとしたら……ツクモがそんな事をしないと理性は分かっていても、一人になってしまったという経験が恐怖心として本能を働かせてしまった。


 理性と本能が葛藤して、最終的に出した結論が明日からというものだったのだろうとツクモは推測する。……もっとも、無駄使いだとシキに怒られる可能性はあっても関係が険悪になることなどあるはずがないのだが。


「分かった。なら明日の朝迎えに行くから家で待っていてね? お兄ちゃんが泊まってるのは森の隠れ家っていう名前の宿だから」


「わかった、待ってる! でも、あんまり遅かったら迎えに行くからね!」


「はは、迎えに行くつもりが迎えに来られちゃったら大変だなぁ……」

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