第14話 ご飯
しばらく歩いていると、キャロルが一つの店の前で足を止めてこちらを振り向いた。
「着いた! このお店だよ!」
「へぇ、ここがキャロルちゃんのオススメのお店か」
「うん! ここのお魚がすっごく美味しいの!」
猫人族だからなのかただの好物なのか分からないが、とりあえずここの魚料理がおいしいらしい。
食べた時を思い出したようで、うっとりとした表情になっている。
しかし、いざ入ろうと思った時キャロルがピタッと立ち止まった。
「じゃ、じゃあ、私はここで待ってるね!」
「ん? キャロルちゃんも一緒に行かないの?」
「大丈夫! 私お腹すいてないから!」
そんなはずはない、それなら花を売ろうとなんてしてなかったはずだ。
と言うことはできなかった。
だからツクモは自然に、
「じゃあ、中でキャロルちゃんのオススメの料理教えてくれないかな? せっかくだから大当たりを食べたいと思ってね」
「うーん……。そっかぁ……。それも案内かぁ……。……分かった! 私が教えてあげるね!」
「お! そうこなくっちゃ!」
少し迷ったようだが、キャロルは頷いた。そのキャロルの手を引いて店へと向かう。
二人で店の中へと入っていく。店は綺麗に整えられており、キャロルが言っていたちょっと高いということが理解できるような内装だった。
「いらっしゃい! そこら辺の席に勝手に座んな!」
店主らしき人の指示に従って適当にキャロルと向かいあって座る。
「この中のどれがおすすめなのかな?」
「うーんとね、この包み焼きが美味しいの!」
「そうなんだ。じゃあこれにしようかな。すみませーん! 包み焼き二つお願いしまーす!」
ツクモは迷わずキャロルにオススメされた包み焼きを
「あいよー!」
「お兄ちゃんは二つも食べるなんてお腹ペコペコだったんだね!」
キャロルのその言葉をツクモは笑ってごまかす。キャロルには、それがお腹がすいていて恥ずかしいと思っていると取られたようでにこにこと笑っていた。
しかしこうしてキャロルをよく見てみると、服などは綺麗だが顔色もあまりよくなく今にでも倒れてしまいそうだ。
ここ最近で何か困るような事態に陥ったと考えた方がいいだろう。
「あいお待ちっ! 包み焼き二つ!」
「ありがとう。はい、キャロル。一個食べていいよ」
ツクモが言うと、キャロルはキョトンとした後にぶんぶんと首を振った。どうやら本当に貰える可能性を一切考えていなかったようだ。
「わ、私はもらえないよ! こんな高いところで食べたらお金もすぐに無くなっちゃうし……」
「でも、ほとんど何も食べてないんじゃないの?」
「えっと……お腹すいてないから大丈夫!」
そうキャロルが言い切った瞬間、「くぅっ」という可愛らしい音が聞こえてきた。キャロルのお腹が鳴った音だろう。
そのことに気がついたのか、バッと顔を赤くして手を顔の前で振りながら言う。
「こ、これは違うの!」
「あははっ。やっぱりお腹がすいてるんじゃないの?」
「えっと……うんと……」
お腹がすいているのは事実だけど、食べられないと考えて何も言えなくなって俯いてしまった。ツクモは、本当にいい子なのだと感心しながら言う。
「俺が払うから食べても良いんだよ」
「で、でも……お花も買ってもらったし……」
「だって俺は二つも食べられないから、キャロルちゃんが食べてくれないと無駄になっちゃうよ?」
無駄になるというと、少しキャロルに反応があった。もう一押しだと考えて、更にツクモは言う。
「もし食べてくれなかったらこの包み焼きは捨てられちゃうんだよなぁ。せっかく注文したのに、一口も食べないなんてお店に申し訳ない気持ちになるなぁ……」
すると、キャロルが少しだけ顔を上げておずおずといった様子で言う。
「……お兄ちゃんは本当に食べれないの?」
「そうだね。二個も入らないかな」
「……無駄になっちゃうの?」
「キャロルちゃんが食べてくれなかったらね」
「……お金払わなくてもいいの?」
「俺が払うから大丈夫だよ」
そこまで確認を終えて、キャロルはちゃんと顔を上げた。そして覚悟を決めたように頷き、恐る恐るフォークで一口大に切って口に入れる。
「……美味しい……」
「良かった」
止まらなくなったように次々と口に入れていくキャロルを確認してからツクモも食べ始める。
確かにキャロルがおすすめするのが分かるほどの美味しさで、この辺では取れなくて高価な塩で味付けされたシンプルな味わいだった。
魚の味が活かされた値段相応、いや、それ以上の美味しさの包み焼きだった。その美味しさゆえか、キャロルもツクモもあっという間に食べ終えてしまった。
「ふぅ。美味しかった……」
「お兄ちゃん」
「どうしたの?」
「ありがとう……おいしかった……」
キャロルは純粋だけど賢い子のようで、食べている途中にツクモがわざと二個注文したということにも気がついたらしい。
若干目が潤んでいるようにも見えるが、そこは気がついていないふりをしてツクモはにっこりと笑いながら、ただ一言キャロルに言う。
「どういたしまして」
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