第13話 ツクモとキャロル

 外に出たは良いものの、まだ空は明るくシキとの約束の時間にはまだ早い。ツクモはそのままの足でとりあえず昼食を食べてからシキへのプレゼントを探しに行くことにした。


 とりあえず良さそうなものが売ってる場所が分からないから誰かに聞こうと思っていたら、視線の先に途方に暮れたような表情をした藍色の毛並みの獣人の少女を見つけ、


 よく見るとどうやら花を売っているようで、ツクモはその少女の元へと自然な流れで向かう。


「お嬢ちゃんその花は一本いくら?」


「……買ってくれるの?」


 急にツクモに話しかけられた十歳くらいの少女は、少しビクッとした後にこちらを振り向いた。

 そしてただの冷やかしじゃないのかと疑うような目でツクモの方を見る。


 だからツクモはなるべく優しい声になるようにと心がけながら話を続けた。


「実はお兄ちゃんねー、いつもお世話になってる女の子に何かプレゼントしようと思って良いものを探してるんだよね」


「そうなの? これ、一本で銅貨1枚だったの……。でも、朝取ってきた花だからしぼんじゃったから……」


 少女は悲しそうに花を見た後にしゅんとしてしまった。元々は満開だったであろう手提げに入っている花はどれも少しずつ枯れ始めてしまっていた。


「そっか、じゃあ全部で銀貨1枚でどうかな?」


「……いいの? もとの値段でもそんなにしないのに……それに、しぼんでるよ……?」


 きっと素直で良い子なのだろう。そんな値段で売っていいのかと罪悪感を感じたような表情をしている。


 確かに花は枯れかけているし、百本もない。しかし途方に暮れたような表情を見た後では放っておくことなどできなかった。


 だから、なるべくこの幼女が対等だと思えるような条件を出すことにした。


「じゃあこうしよう! さっき言ったとおりお兄ちゃんはプレゼントを探してる。だけど、お兄ちゃんは女の子が貰って喜ぶのようなものがどこに売ってるのかすら分からない! だから銀貨一枚で案内も引き受けてくれないかな?」


「……そんなことで良いの? それでも高すぎると思うよ?」


「お兄ちゃんは暗くなるまでお嬢ちゃんを連れ回すんだぞ? もしかしたらそのまま連れ去られるかもしれない危険な仕事かもしれないんだぞ?」


 ツクモが怖いんだぞー? なんてしぐさをしながらそういうと、幼女は一瞬キョトンとした後に笑い出した。


「あはは! お兄ちゃん知らないの? 悪い人はそんなこと言わないんだよ?」


 心の中でやっと笑ってくれたと思いながらツクモは少女に再度提案する。


「まぁ実際そんなことしないからね。……で、どうかな? 案内人を引き受けてくれないかな?」


 そういうと少しだけ迷った様子を見せた後に頷いた。


「うーん……いいよ! 私でいいならお兄ちゃんがプレゼントを選ぶお手伝いをするよ!」


「よし、交渉成立だね! 行く前に自己紹介だけしよう。俺の名前はツクモ。お嬢ちゃんの名前を教えてもらえるかな?」


「私の名前はキャロルだよ! 猫人族の十歳!」


 自己紹介と共にキャロルの可愛い猫耳がピクピク動いている。尻尾は今は隠れて見えない。その小さい手と握手をしてこれで契約成立だねと言った。


「キャロルちゃんは十歳か! お兄ちゃんは二千から先は数えてないから何歳か分からないや」


「あはは。お兄ちゃんエルフさんじゃないんだからそんなわけないじゃん!」


「あはは。そうかもね。というわけで早速行こうか! ……と言ってもお兄ちゃんはこの街に来たばかりでどこに何があるか分からないから、さっそく案内人の出番だよ!」


「はーい! いろんなものが売ってるのはこっちだよ!」


 キャロルが先導をして歩き出したが、それをツクモが止める。買い物の前にしたいことがあったのだ。


「あ! その前にお昼ご飯を食べたかったんだけど、どこかいいお店って知ってる?」


 そう言われてキャロルはツクモの方を振り向き、躊躇いがちに聞く。


「あ、あの……お兄ちゃんってお金持ちさん?」


「え? うーん……お兄ちゃんは冒険者だからその時で変わるかな? ちなみに今はお金持ちさんだよ」


 ガンツとの約束のおかげで最低でも金貨3枚は得をした状況だし、今のツクモは確かにお金持ちであった。


「えっとね、ご飯の……予算? はどれくらいなの?」


「特に決めてないけど、金貨が必要にならなければ大丈夫かな?」


 ツクモは難しい言葉を知ってるなぁと少し笑いながら答えた。


「金貨なんて使うお店ないよ! でもそっかぁ……じゃあこっち! こっちのほうにちょっと高いけど美味しいお店があるの!」


 再びキャロルの先導でツクモは歩いていく。周りから微笑ましいものを見るような目で見つめられるが、実際張り切って案内してくれているキャロルは可愛い。


 それにこの視線は、この国では獣人に対する差別がないという確かな証拠だからむしろ安心感を覚えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る