第12話 試し斬り

 そこには様々な材質の的と剣が置いてあった。ツクモは鞘付きの剣を一本選び取る。


「ほう……ただの鉄の剣を選んだか」


「俺が見せるべきなのは技術だからね。確かに切れ味の高い剣を作ってもらいたいけど、だからといって切れ味の高い剣を使ったら技術かどうかも分からないじゃん?」


「ふっ、その通りだな。それと、わざわざ鞘がついているものを選んだということは理由があるんだろ? ならば俺をやる気にさせる何かを見せてみろ」


「じゃあ、残念ながら実戦では中々使う機会がないけど、技であり技術であるこれを披露しようかな。範囲内に入った敵を鞘を使って加速させた剣で敵を一閃する剣」


 ツクモは木でできた人型の的の前で剣を構えて呼吸を整える。裏庭にキンッという音が響き……しかし何も起こらない。


「……まだやらないのか?」


「いや、もう終わっているよ」


「……なに?」


 ツクモは再び剣を抜いてその先で的を突く。すると、まるでかのようにずれ落ちた。


「……なっ!? これは……なんて滑らかな断面なんだ……。ほう……抜く前から剣技は始まっていたわけか。なるほど、だから剣を反った形にして欲しいと言っていたのか……」


「その通り。どうかな? 俺の望む武器は作ることができそうかな?」


「ふっ、誰に物言ってやがる。俺ぁドワーフの中でも随一の腕前を持つ特級鍛治師のガンツだぞ? 俺に作れなければ誰も作れやしねぇぞ」


「いや、知らないんだけど……」


 静寂が広がった。ガンツはキメ顔のまま止まってしまった。


「……俺がこの街に居ることを嗅ぎつけてやって来たわけじゃ無いのか?」


「いや、まったくの偶然だな……」


 どうやら、このドワーフはかなり有名な鍛冶師らしい。誇張していなければ鍛冶が得意なドワーフの中でも随一の腕を持っているという。


 特級鍛治師というくらいだからかなり腕が良いのかもしれない。


「それで、値段はどれくらいになるのか教えてくれる? 一応、最初に言った通り金貨3枚以内だと助かるんだけど……」


「いや、俺も初めて作るからうまく形になるか分からん。そんなものに値段など付けられんよ」


「……まじで?」


「本当だが……それともあれか? 時々いる金を払わないと気が済まないとかいうやつか?」


「いやいや! 割引万歳無料最高! 拾った金は即しまう!」


「お、おう……よくわからないが、とりあえず払いたくないってことだな?」


「払わなくていいって言うなら払わない! 払わないぞ! ……ちなみに、もし買ったとしたらどれくらいの値段になるの?」


「うーむ……。俺が打ったというだけで値段がかなり上がるから……ただの鉄の剣なら丁度金貨3枚くらいじゃないか? それを聞いてどうするんだ?」


「いや、ただ気になっただけだ。……にしても、シキが居ないのにすごい運だな……」


 金貨3枚の価値がある剣を無料で手に入れたということは実質金貨を3枚稼いだということなのでは? 自分で稼いだ金なら自由に使ってもいいのでは……? ツクモはそう考えた。


 もちろんそんなわけはないし稼いだわけでもないが、ツクモは自分で展開した超理論で懐に入れることにした。


 奇しくも、この超理論はシキが展開した錬金術理論とほとんど同じであったが。


「ふふふ、しょうがない。これでシキにプレゼントでも買ってやろう……。最後にプレゼントしたのは……なんだったか忘れたけど、シキが買うものは俺のものばっかで自分のものを買わないからなぁ……」


「ほら、久々にやる気が出てるんだから帰った帰った! 3日後には完成させるからそれくらいに取りに来な!」


「うおっと。分かったよ、えっと……ありがとうおやっさん!」


「うるせぇ小僧! ガンツと呼びな!」


 ツクモはそのまま鍛冶場を追い出され、閂をかける音が聞こえた。


 そして、鉄を叩くような音が聞こえてきた。まだ剣を作るには早すぎるから型でも作り始めたのだろう。


「にしても、ムサシも喜びそうなレベルの剣がゴロゴロ落ちてたなぁ……」


 あれほどの鍛治師ならば、ツクモの求める剣をいや、刀を作ることもできるかもしれない。

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