第11話 鍛治師

ある程度街を見て回ったツクモは武器屋で剣を買うのではなく、鍛冶屋に行くことで直接剣を作ってもらうことにした。


 もちろん先に武器屋も見て回ったのだが、武器屋にあるものは品質も低く値段不相応の武器だらけで正直話にならなかった。


 オーダーメイドになるとかなり高くなってしまうと思うが、今回求めているただの鉄の剣なら作ってもらったほうが圧倒的に長持ちするし、長期的に見るとこちらの方が得だと判断した。


 さすがに合金で作られたものは値段相応の価値があったが、鉄の剣は刃の厚さもバラバラでいかにも量産といった様子のものしか存在しなかった。


 だから商店街のようなところから職人街のようなところに移動して、最初に目に入ったかなりぼろぼろな鍛冶小屋らしき建物に入ってみることにした。


「すみませーん! ここって武器を作ってもらえますかー?」


 ツクモが鍛冶小屋らしき建物に入って大声を出すと、奥からドワーフらしき職人の男が出てきた。


「……どんな武器だ?」


「金貨3枚以内で鉄の片手剣って買えるかな?」


「……その程度なら武器屋に売ってるやつでいいだろ」


 そのドワーフはぶっきら棒に答えて作業に戻ってしまった。多分これは拒否されたのだろう。


 確かに今言った条件を満たすものなら武器屋にいくらでも売っている。しかし、武器屋に売っているものは鋳造で作られたものだ。


 ツクモの求めているものは、鉄の剣では通用しなくなるような強さの魔物と戦うことができるランクに上がるくらいまで長持ちしてくれるような頑丈な剣だから、店に売っているものではダメなのだ。


 ツクモの外見は成人したての少年にしか見えないし、一応登録したての新人冒険者でもある。だから、周りから見たら高い武器で背伸びをしたい子供にしか見えないのだろう。


 だからこそ、ツクモは自分は違うんだと示すかのように条件を追加する。


「刃は、獲物を叩き斬るようなものじゃなくてなるべく切れ味を上げたもので……できるなら片刃で刀身は少し反る形のものを作ってもらいたいんだけどダメかな?」


「店に売っているようなやつじゃ嫌だってか?」


「だって店に売っているやつはどれも鋳造された量産品じゃん。あれじゃオーガすら殺せそうにないし、ぎりぎりオークを殺せるかどうかってところだよ」


 ドワーフの質問にそう答えると、途端に眼の色を変えて見極めるように次の質問をかけられた。


「……なぜ鋳造と判断した?」


「いやだって、厚さは均等じゃないし刃に全く切れ味はないし、一緒に置いてあった剣の形がほとんど一致してたからさ。あ、あと刀身と持ち手が一緒になってた」


「ふふふ、ふはははは!」


 急に昔見た劇に出てきた悪役のような笑い方をし始めてしまいツクモは困惑してしまった。しかし、それもすぐ収まり、鍛治師が言う。


「いやすまんな。こうして注文しに来るやつでまともな人間は久しぶりだったからな。そして久しぶりに来たと思ったらそれがこんな若いやつだったからつい笑っちまった」


「そうなんだよなぁ……。俺ってば今の見た目はどう見ても成人直後だからね。……というか、話し方とか変わりすぎじゃない?」


「まぁそこは気にすんな。それより、聞くからにお前が求める武器は、扱うのに相当な技術が必要だと思うが、お前が持ってるのは知識だけじゃないんだよな?」


「うーん……使い方は一応マスターしてるつもりなんだけど……」


 すると、ドワーフは立ち上がってツクモに言う。


「裏に試し切りできる場所があるから着いてこい。なに、お前のその態度から実力がないことは疑っちゃいねぇ。ただ、見せてもらうことで剣のイメージをつかみたいと思ってな」


「え? ということは作ってくれるってこと?」


「まぁな。とりあえず見せてみろ。俺くらいになれば見るだけで大体の癖を掴むことができるからよ」


 ツクモはドワーフの後を追って鍛冶場の裏に向かう。

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