第4話 ツクモとシキ
セバス達の馬車からかなり先に進んだ場所に、馬車などとは比べものにならないくらいの速度で走る青年とその青年に背負われている少女がいた。
「シキ、ようやく見えてきた。もうすぐ着くみたいだよ。この速度で大丈夫? 辛くない?」
「問題ありません。……負担をかけて申し訳ありませんツクモ様。私がもっと速く移動できれば……」
少女、シキはツクモの背中の上でしゅんと顔を落とした。
「シキのせいじゃないよ。元々俺がヘマをしなければ旅に行く必要もなかったんだから」
「そのヘマも私が原因で起きてしまったようなものですし……」
「シキはずっと守ってくれてたんだから一度の失敗で怒ったりしないよ。ま、起きちゃったことはしょうがないよ」
シキはうずめていた顔を上げて言う。
「そうですね! ずっと守ってきたわけですし、その間私に任せっぱなしだったツクモ様にも原因はありますよね!」
「立ち直り早いなぁおい!」
話をしながら走っていると前方に大きな壁のようなものが近づいてきた。
その中が先ほど執事が言っていた街で、街を囲んでいる大きな壁は魔物から街を守るために作られたものだろう。
「あの執事が言ってたとおり街があったね。そろそろ降りる?」
「そうします。ツクモ様もそろそろ能力を解除してもいいと思います。それと、体調はどうですか?」
「そうするかぁ……。体調は……十パーセントくらい」
光が収まった時、そこには青年などおらず、成人したてのような風貌の白髪の少年が立っていた。
「んじゃあ、そろそろ行こう」
「はい! ……そういえば、さっきツクモ様が助けた馬車の中に呪いにかけられている人がいたと思いますが、助けなくて良かったんですか?」
「あー……あれかぁ。確かに治せたけど、生を諦めてる人を助けても意味がないじゃん。馬車の中の女の人はもう死ぬつもりだったみたいだし」
「確かに、あの馬車の中にいた女の人も戦っていたら、ツクモ様が出る必要はありませんでしたからね」
シャーリーは、Aランク冒険者ほどとは言わないが、魔物が多く生息する辺境の街に住んでいるだけあって、ある程度の戦闘能力を持っていた。
それに、貴族だったため、魔法を使って対処することもできただろう。
しかし、彼女は抗うこともせずに死ぬことを選んだ。きっとこれが運命なのだと。
「俺が助けるのは生きたいと願っても生きられないようなやつだけだよ。それに、俺は正義の味方なんかじゃない」
「……それなら呪いにかけられていた人は条件に当てはまる気がするんですけど」
そう言われて、少し考えてみる。生を諦めていたのは中にいた女の人であり、呪いを受けていたのはその女の人に抱えられていた少女だ。
パッと見た感じではあの呪いは他者からかけられたものであったから、少女に非はない。
「……ミスったかな?」
「良いんじゃないでしょうか。あれが最善だったと思いますよ」
「そうだよなぁ。シキは最初から否定的だったし、そう考えると多分助けても助けなくても結果は変わらないと思うんだよね。いや、俺の刀が粉々になったし……もしかして不運?」
ツクモは鞘だけしか残っていない刀だったものを掲げてそういうが、一体どこに不運な要素があったのか。シキはため息をついて言う。
「あの武器は一体いつのものだと思っているのですか……。シルバードッグごときでの戦闘で砕けてくれて運が良かったですよ」
「それもそうか。……って、執事はシルバードッグじゃなくてシルバーウルフだって言ってなかったっけ?」
「シルバードッグに決まっているじゃないですか。シルバーウルフは鎮守の森の奥から出てきませんし、あんなに弱くありません。大方、増え過ぎたシルバードッグが縄張り争いに負けて鎮守の森から出てきたのでしょう」
確かにシルバーウルフはもっと大きいし群れで行動などしない。行動したとしても家族単位だから多くても五匹程度だ。
先ほどの群れは十匹以上一緒に行動していた以上、あの魔物はシルバードッグなのだろう。
「なら、なんであの執事はシルバードッグのことをシルバーウルフって呼んでたんだろう?」
「鎮守の森の外にいるシルバードッグしか知らないから勘違いしてしまったのか、あるいはーーいえ、なんでもありません」
「あるいはの先が少し気になるけど……もう門に着いちゃうからいいか」
二人は入場待ちの列に並ぶ。前には商隊が一つ並んでいたようだが、すぐに入場できるだろう。
シキは、もしかしたら人族の実力が下がったことによってシルバードッグとシルバーウルフを間違えたのかもしれないと思ったが、魔物の強さは変わっていなかったためそれはないと判断した。
もしも魔物だけ強さが変わらずに人族が弱くなっていたとたら、このような街など魔物にあっという間に滅ぼされてしまい、国など存在することができないはずなのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます