第3話 救い

「気配を感じたから急いで来てみれば、ただのシルバードッグか。ねぇ、こいつの価値ってどんなもん?」


「そうですね……。シルバードッグはゴブリン並みに繁殖している魔物ですし、恐らく二束三文にしかならないでしょう」


 何やら話すような声が聞こえてくる。もしや自分は既に死んでしまい、ここはあの世なのか? そう思い、目を開けると衝撃の光景が目に飛び込んできた。


「なっ……」


 二十を過ぎたほどと思われる青年と、その従者と思われる少女が馬車とシルバーウルフの間に立ちはだかっていた。その隣には綺麗に落とされたシルバーウルフの首が二つある。


 突然の出来事にシルバーウルフも戸惑っているようだった。


「あ、貴方たちは早く逃げなされ! そいつはシルバードッグじゃなくてシルバーウルフですぞ!」


「ん? あぁ、こいつらのことか? 安心しろ。もう終わってる」


「グルルルル……ガッーーァ?」


 シルバーウルフが青年に向かって飛び込んだと思った瞬間、青年の姿が一瞬ブレたかのように見え、シルバーウルフの首が全てずれた。


 終わっている、いつでも殺すことができた。つまりすでに勝負はついていたのだ。

 魔の森にすむシルバーウルフが切られたことに気がつかないほどの剣速、相手にならないほどの強さ。


 一瞬の瞬きの間に一体何度剣を振ったのか、想像するだけで身が震えた。


 もしも感が鈍っていなければ剣を捉えることができたのだろうか? いや、不可能だ。こんな芸当をできるのは昔一度だけ見たSランク冒険者くらいだろう。


 執事が茫然としている間にも二人は話を続けている。


「それより急ぎましょう。もう食料が全くありません。今日中に街へ着かなければお腹が減ってしまいます」


「そうだよなぁ……行くか。なぁ、ここをまっすぐ行ったら街に着くか?」


「は、はい! ここを馬で二刻ほど進むと街に到着しますぞ!」


「ふぅん、ありがとう。お礼代わりに、もしこの先で魔物にあったら討伐しておいてやるよ。じゃあ行くか」


「そうですね」


 一連の出来事に呆気にとられてしまったが、もしこの青年を護衛として雇うことができればこの先の安全は保証されたものだろう。


 それに、貴族たるもの助けられれば謝礼を渡すものだ。執事は急いで二人を呼び止めようと声を上げる。


「そこの二人! 少しいいかーーあれ? もう居ない……?」


 執事が声を上げた時にはすでに二人組の姿はなく、シルバーウルフの死体だけが残されていた。そのことに呆然としてしまったが、シャーリーが馬車から出てきたことで正気に返る。


「……シャーリー様、私たちは助かりました」


「……何がおきたの?」


「……わかりません。ですが、あの強さは恐らくSランク冒険者。その中でも上位の存在でしょう。昔見たSランク冒険者よりも強かったと思いますぞ」


「そう、上位のSランク冒険者……ッ!? 彼らはどこに行ったの!?」


「こ、この先をまっすぐ行けば街かどうかを聞かれたので、三刻ほど進めば着くと伝えましたが」


「……彼らの風貌は?」


「二十を過ぎたくらいの白と金のメッシュの髪の青年と、その従者らしき成人したての黒髪の少女ですぞ」


「セバス、街に急いで。彼らを探して! なんとしても見つけ出して依頼をするのよ! ラナが助かる可能性はそれしかないわ!」


 今から急いで街に向かっても、ラナの命が助かるまでの猶予は二日も残っていないだろう。だが、偶然シルバーウルフを圧倒するほどの実力を持つSランク冒険者が現れ自分の街へと向かっている。

 しかも、助けておいて謝礼を要求してこないような相手だ。


 見つけて頼み込めば依頼を受けてくれるかもしれない。諦めていたところに降ってきた一本のクモの糸、シャーリーはそれを何としてでもつかみ取ってみせると心に決めた。


 執事、セバスは馬車を走らせる。貴重な軍馬を連れてきたが関係ない。三刻で馬を使い潰すつもりで街へ急いだ。

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