第8話 ナナとツクモとシキ
だが、ツクモは話しかけられた側だし、今日泊まることができる宿屋を見つけることができたかもしれないのだ。
「完全なる冤罪だからね? それに俺はシキがいるからね」
「ななななな、何をおっしゃるのですか?!」
「えっと、お姉ちゃんがお兄ちゃんとお宿にきてくれるの?」
シキはあわわわっとしていたが、ナナの言葉を聞いて正気を取り戻した。
いや、今も若干赤くなったままな気がするが指摘したら怒るから指摘しないでおこうとツクモは決めた。
「はっ! ……こほんっ。って、お宿ですか?」
「そうそう。この子、宿屋の娘さんみたいなんだけど、せっかくだしここに泊まろうかなって。あ、そうだ。換金したお金ってどれくらいになった?」
そう質問すると、シキは説明を始めた。
「なるほど、そういうことでしたか。お金は、本来の買取価格なら銀貨15枚程度だったのですが、まず、持っていった素材の中にタイミング良く薬師からランク問わずの依頼で張り出されていた解毒草があったので、その依頼を達成したことにしたためランクがEに上がりました。そして、ツクモ様が投石用に持ってきた石を誤って出してしまったところ、領主様がギルドに緊急の依頼として出される予定だった依頼の品である解呪石だったことが判明したため、そちらを達成ということになりました。ですが、Aランクへ依頼する予定だったらしく、そのままではランクの都合上受注ができないため、報酬はそのままでEランク依頼として再発注してもらい達成したため二回分の貢献度となり、全部で金貨102枚と銀貨32枚でした。そのうちの92枚をギルドに預けてきたので手持ちは金貨10枚と銀貨32枚です」
「……なんて?」
「ええと……本来の買取価格なら銀貨5枚程度ーー」
「待て待て待て待て! ストップ! 一旦止まって!」
シキが一気にズラリと説明してくれたが、半分以上理解することができなかった。辛うじてツクモが聞き取れたものは拾った石にすごい価値があったということと、悪いことにはなってないということが分かった程度だ。
「シキ、簡潔に短く要点をまとめて言ってもらえると助かるなぁ……」
「そうですね……。Eランクに昇格、偶然特殊な依頼達成、お金ガッポガポ」
「……ガッポガポか」
「……ガッポガポです」
「ガッポガポなの?」
お金ガッポガポ、それだけ分かってしまえばもう満足だった。ガッポガポと聞いた瞬間ツクモの態度は大きくなる。小物臭漂う方にだが。
「シキよ、金貨1枚は銀貨何枚分なのかね?」
「100枚です。昔と変わりありません」
「ちなみになんだけど、ナナちゃんの宿って一泊いくら?」
「んーとね、ご飯なしで銀貨3枚!」
「ふむふむ、なるほどなるほど。つまり既に1000日以上宿に泊まれてしまうわけか!よくやった、でかしたぞシキ!」
「いえ、それほどでもあります」
あるんかい! と突っ込みそうになったが、確かにこれはシキの功績だと思っていい留まった。それに、金持ちは余裕を持たなければいけないのだ。
「シキ、銀貨を10枚ほど」
「はい、どうぞ」
「ナナちゃんや、我々を宿に案内してくれたまえ、これが案内料だよ」
「はーいーーって、案内に銀貨なんて要らないよ! ただでさえナナのお店にきてくれるのに……」
ナナは突然渡された銀貨に驚いてしまったが、ツクモは偉そうな態度を崩さない。
「ナナちゃんよ、この世界には情報料と紹介料というものがあるんだ。だから遠慮なく受け取るがいい」
一般的な成人の月収入は銀貨30枚前後と言われており、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚の価値になっている。
ナナがツクモに渡されたお金は銀貨3枚。情報料だとしてもいささか多すぎる金額だ。
ツクモは完全に調子に乗っていた。ナナは宿屋の子供なだけあってお金の価値を把握しており、あたふたしていた。
それに若干涙目だ。お金を貰いすぎて涙目という若干不思議な状況だが。
「えーと、んーと、どうしよう……あ、そうだ! 代わりにお兄ちゃんお姉ちゃんこれ貰って! お兄ちゃんにラスクあげようと思ったのに忘れるところだったの!」
「これはこれは、美味しそうなお菓子ですね。遠慮なく頂きましょう」
「俺も食べさせてもらおうじゃないか」
ツクモとシキはラナナからラスクを貰った。食感なサクサクしていて、全体的に砂糖のようなものがまぶされていてとても美味しい。
「じゃあ宿に案内するね! こっちだよ!」
「あ、ツクモ様。稼ぐまでは追加でお金は渡しませんからね」
「なんで!? 今回の大半のお金って俺が拾った石じゃなかったっけ!?」
「石を拾ったのはツクモ様でも、石を冒険者ギルドで間違えて出したのは私です。ツクモ様は価値がない石を拾っただけで、その石を金貨に変えたのは私です。石から金、錬金術師と呼んでくださっても構いませんよ」
なるほど、確かにツクモは偶然その石を拾っただけ。その石を価値あるものに変えたのはシキだから金貨は全てシキの手柄に……。
「ならないよ! 百歩譲って全部シキの能力によるものだとしてもせめて一割くらいはくれないかな!?」
「しょうがないですね……」
「なんでそんなに渋々なの!?」
「だってツクモ様にお金を渡すと、いつも調子に乗ってすぐに使い切ってしまうじゃないですか!」
「うぐっ……それは申し訳ないと思ってる……」
すぐに使い切る自覚はあったツクモはぐうの音も出ない。
「着いたよ! ここがナナのお宿!」
ナナに案内されて着いた宿屋は、森の隠れ家という名前の、年季がかなり入っているであろう見た目の建物だった。
「シキさんシキさん、宿代は出してもらえるのでしょうか……」
「うーん、どうしましょうかねぇ……」
「ごめんって! もう調子に乗って散財しないようにするからさ! これ以上減ったら何も買えなくなっちゃう!」
「もう……しょうがないですね。今回だけですからね!」
「ありがとう! 愛してるぞシキ!」
「あいっ……!? と、当然です!」
何も買えなくなっちゃうと言っている時点で既に散財しそうだとは気がつかないシキ。
なんだかんだ言ってシキはツクモにめちゃくちゃ甘かったし、側から見れば典型的なダメ男との会話としか思えないだろう。
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