第7話 ナナとツクモ
「あー、そういえばご飯まだ食べてないんだよなあ」
「お兄ちゃん何してるの?」
「というか、換金って何円くらいになるんだろう……。まぁ、シキが行ったんだから問題はないと思うけど……」
「お兄ちゃんお腹空いてるの?」
そこで、目の前で話しかけてくる幼女に気がつく。
「ん? もしかして俺に話しかけてた?」
「うん! 全く反応がないから心配しちゃった!」
物怖じもせずにツクモをまっすぐ見つめながら話しかける幼女。
見たところ、周りに親の姿はないし幼女は一人のようだが……。
「心配かけてごめんね? ぼーっとしてたから聞こえなかったんだ」
「そっか! 良かった! ……お兄ちゃんお腹空いてるの?」
どうやらさっきの独り言を聞かれていたらしい。隠すことでもないが、どうせすぐに解決する問題だし、適当に答えることにする。
「少しだけ空いてるけど大丈夫だよ。今お兄ちゃんの友達が素材をお金に変えて持ってきてくれるからね」
「素材ー?」
「そう! 素材。お兄ちゃんは冒険者だからね!」
「わぁ、冒険者!? すごいすごい! ……冒険が終わった後だからお金がなかったの?」
幼女が首をコトンと傾けながらツクモに聞く。純真無垢という言葉がぴったりだ。
しかし、幼女の口から出てきた言葉はまさに褒めて落とす。幼女が狙ってそれをした訳ではないと分かっているが、つい呻き声が漏れた。
「うぐっ……ま、まぁそんなところかな?」
嘘はついていない。しかし、シキが換金しに行った素材は冒険者になる前に取ったものだし、ランクもまだカード取りたて仮免Fランクだ。
しかしまぁ、森を抜けてきたのだから冒険を終わった後と言っていいだろう。うん、あれは冒険だった。一応魔物にも遭遇したから冒険だ。
人助けまでしたのだから英雄譚と言っても過言ではないかもしれない。
「お兄ちゃんお腹空いてるなら……んっと、あった! これあげる! ナナの大好きなお菓子なの!」
ナナから渡されたものは今まで見たことがないお菓子だ。すごい美味しそうだが、幼女からお菓子をもらうというのは気が引ける。
「んん? これはなんていう名前のお菓子なのかな?」
「これはね! ラスクって言うの! ナナのお店のお菓子だよ?」
「へえー、お店してるんだ。何のお店をしてるの?」
「んーとね、お宿!」
「宿か! 実はお兄ちゃんたちまだ今日の宿が決まってないんだけど、ナナちゃんの宿の部屋って空いてるかな?」
宿なのにお菓子とはどういうことなのかなど疑問は生まれたが、うまく話をそらすことに成功したし、それどころか今日泊まる宿まで見つかりそうだ。
しかし、宿の話を振った途端ナナは暗い顔をして俯いてしまった。
「ナナのお宿、悪い噂があるみたいで人がきてくれないの。……それでもお兄ちゃんは泊まりにきてくれるの?」
「んー? ただの噂だろ? それくらいなら気にしないよ。それより、もう一人居るんだけど……お、来た来た。シキ! こっちだ!」
「あ! ツクモ様! そんなところにいたんですか! って……何で幼女に絡んでるんですか? いつの間にそういう趣味ができたのですか?」
シキが換金から戻ってきたと思ったら、その直後にツクモがナナに絡んでいるような勘違いをされてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます