第二章-2- エルダーの回想から
私宛に戦士訓練学校の入学通知が届くとは、実際苦笑いしかしようのない事件だった。
だが、個人的な意思でどうこうできる問題ではなし。
第一、私はまだ十歳の子供であったのだ。
もちろん、サーシ・レ・エレクの精神訓練課へ入学した。
帝国の戦士は帝国戦士訓練学校-肉体訓練課-と、こっちと、両方学ぶらしいが、もとより戦士になるつもりなどない私は、肉体訓練課なぞ受けるつもりもない。
レ・エレクの住民すべてが私と同じ意見で、<<E.S.S”インペリアル・ソルジャー・エデュケーション”>>を受けようとした者は、ここ十年来一人もいない。
戦士になって何が面白い。何が栄光だ。
オレアーナがあの時言ったように、戦士とは本来、”守る者”なはずだ。
”守る者”には殺生が必要ないし、その技術もいらない。
精神能力だけで十分なはずだ-レ・エレクの方針だけど、私もそう思うのだ。
一人だけ--そう、たった一人、E.S.Eを受けたバカがいたと聞いた。
もう十二年も前の話だ。
そいつは今、ミノア財団の戦士団に入っているが、何を血迷ったか自分の故郷、レ・エレクを攻撃してくるのだ。
噂ではこのレ・エレクの戦士--もちろん防人--を倒すごとに、ばからしい。勲章が得られるそうだ。
”力と栄光”が彼等のすべてだったらしい。
もちろん、レ・エレクはやられはしない。
ここはその名のとおり”聖なるエレク”のごとく、創世主・ルードのおん御地であるのもしかり、ルードが守ってくれる事も、ある。
けれどそいつは違った。
レ・エレク出身だけあって、精神がすごい上に、<<殺人>>にたけている。
そいつの胸を、呆れるほどの勲章が飾った。
だから、後に、彼、シェリフォス・ラウム・リジェールが、しゃあしゃあと私の前に現われた時の怒りは、察してもらえると思う。
それほど私は戦士が嫌いだったし、それ以上に裏切り者が嫌いだったのだ。
彼はレ・エレクとミノアと、二つ裏切ったのだ。
***************
精神訓練課での生活ほど、神経にさわるものは無いと言っていいだろう。
そこは帝国の戦士たちがうようよしているのである。
精神修養するのはいいことだし、その点はかまわない。
それど彼等は「人を殺す」のだ。またそう言う力を身につけている。
彼等とあって会話していても、血なまぐさい空気が感じられて私にはたまらなかった。
五年の歳月の間に学んだものというのは、レ・エレク人は特別な能力を持つということ。そして前にもまさる、人の死の恐ろしさであった。
ここはなんといってもレ・エレク。
戦士が学ぶのは精神能力だけではないのだ。
哲学やら宗教やら、およそ人としての思考に関することすべてが教えられた。
後で聞いたことだが、現皇帝ベルグ八世も、それが目的らしかった。
戦士出身な彼にしてみれば、良くわかったものである。
まだこのレルヘニト帝国にも光明はありそうだ。
しかし帝国内の公家争いの矢面に立つ彼等戦士が本当にここでの学びを生かしているとは思えない。
ミノアの戦士と同じように”力”を求めているようなのだが。
ここ、レ・エレクの精神戦士訓練学校で、私がマドヴァー・ヴァーターに出会ったのは、偶然であったのだろうか。
それとも、巧妙な彼女の頭脳が組み立てたプログラムの内の1つだったのか。
彼女のいない今となっては、問いただしようの無いことである。
人付き合いの苦手な私にとって彼女は、まさに太陽のようであった。そう、太陽の光のように、私を捕らえて放さなくなってしまったのだ。
彼女の裏切りが、私の人生における第二の失落となったのも、うなづけよう。
しかし、今はただ、彼女に感謝を捧げよう。
私の人生は、ここから始まった、というのも過言ではないのだから。
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