二項

実は、という程でもないが死ぬ決意をしたことがある。才能のない人間はいつか見切りを付けないといけないと思ったからだ。正直、今でも思っている。才能だっていろいろある。芝居だってそうだし、サラリーマンやOLを続けるのも才能だ。私は楽しくないことは続かないという何とも怠惰で我儘な人間だから、バイトだってろくに続いたことはない。ちなみに恋愛関係も酷かった。お付き合いは続いて3ヶ月。そんな人間がマトモに就職できると思えないし、まず就活をする気すら起こっていない。よって私には何の才能もないのである。

怠惰を才能で片付けてしまうのは如何なものかという意見もあるだろうが、そういうことを言いたいのでは無いので流して欲しい。つまり私はいずれ見切りを付けるべきだと思っていたのだ。明確に年齢も決めていたしそれなりに覚悟を決めていた。

しかしその計画は破綻した。親に〈生きろ〉と言われてしまったからだ。通っていた養成所を楽しくなくなった事を理由に辞め、それを親に報告した時に言われた。夜中にシャワーを浴びながら辞めようと思いつき、次の日には退所届に判を押していたくらい突発的な行動だったので辞めてからの事を1ミリも考えておらず、これからどうするのかと問われて答えに詰まってしまった。結果として、何でもいいけどとりあえず生きろよ。と有難い言葉をいただくに至ったのである。

こんな言葉を無視するなんて簡単なのだろうが私は出来ないでいる。仲のいい家族のそれなりに好きな両親の言葉を無視してまで積極的に死にたいわけではないのだ。ただ何となく生きるべきでないと思っているだけで死にたいわけでも生きたくないわけでもない。だったらせめて〈生きたい〉なら良かった。生きることに積極的であれば何かを頑張れる気がする。そうでもないから自ら変化を与えることも無くダラダラと過ごしているし、正直事故なり病気なりで仕方なく死ぬことが出来ればと思っていたりする。大変不謹慎ではあるが。

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