パンが食べたい

目が覚める。

お腹が鳴った。

ユカが笑ってこっちを見ていた。覗き込むようにして、起きた!なんて大声出すと、


「おばさーん!リサも起きたよ!」

「あら、やっとかい!よかったねえ」


頭巾をかぶった…太めのおばさんが腰掛けのエプロンで手を拭きながらやって来た。妙に内装が古臭くて、木製のものが多い。でもふかふかのベッドに寝かされてた。



「あんた、うちの息子が狩ってきたドラゴンの腹の中にいたのよ!」


なんですって。起き上がる途中の姿勢で固まってしまった。腹の中…腹の中……。そうか、掃除機に吸われる前に、教室の中に現れたドラゴンに食べられたんだった。口の中のよだれが頭についてないかと、頭を触った。無事。

口、臭かったな…。


「それでこの子は羽にしがみ付いてたみたいで…でもたいした怪我じゃなくてよかったよ」

「ホントホント、ねえおばさん、パン食べたい」


羽にしがみついて…、ユカらしいけど大丈夫だったのか…は、今を見ればわかる。ベッドの横にある机に乗ったかごに、たくさんのパンが詰められている。それをよだれを垂らしてさっきから見ていることだし、なんら問題はなかったのだろう。

……とりあえず、まずここが現実ではないことを理解しよう。そしてどこかを突き止めよう。パンは食べたいけど。

まず、ここがどこだかを理解したい。ユカがドラゴンを引き連れてきたこと。ドラゴンを狩ったという話。そしてこの家、ピコーン。そうか、わかったぞ、ここは異世界のファンタジー村だー。


「ってなるかーーーーーーーーーい!!!!!」

「うわ、リサイかれた?ねえおばさんこのパン食べていい?」


お前に言われたくは。読み込みが早い自分が嫌だ。子供の時から飲み込みが早いねと、褒められてきた自分を呪う。というよりも、どこか懐かしさすら感じる。現代のあの教室より、この古びた感じや、ドラゴンがやけに馴染む。だから、ピンと来た…のだが。

そうやって頭を抱えていると、目の前にパンが差し出された。


「とりあえず、あんたらどこから来たか知らないけど…落ち着くまでゆっくりしてな」

「わーい!おばさんありがとーーー!!で、このパン食べていい?」

「あんたはダメ」

「えっ」


温かいパンを、一口で飲み込んだ。おいしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る