5 私は母ではなく、妻なのですが
で、前の章からの続きですが。
私の顔を見て、旦那が自分の部屋に走って行った後。
私は、とにかく見なかったことにしよう、と思いました。
人間って、見たくない物を見た時、「見なかったことにしよう」と言う防衛本能が働くんですね。
と、言うか。
この文章を書きながら思ったんですが、私が旦那を生理的に駄目になった瞬間って、ここだったみたいです。
保育園生&幼稚園生の子ども達が、「ないわ、これはないわ」と思うほどの表情を浮かべた旦那を見た瞬間、思ったんですよ。
「私の選んだ男は、この程度か」って。
旦那にしてみれば、多分、ちょっとしたパフォーマンスだったみたいなんですよね。
とにかく「見なかったことにしよう」と私が判断して、スーパーで買った食品を冷蔵庫に入れ始めたら、「え、なんで?」と旦那、そんな表情をして、部屋から顔を出しましたから。
旦那の中では、自分が部屋に立ち去った後、私が追いかけてくるか、声をかけてくるか、どちらかの反応がある、と思ったのでしょう。
でも、現実の反応は無反応。
私としては、本当に、「見たくなかった」ものを見せられたんですから、無反応になるのは当然なんですけど、まあ、旦那的にはそれが衝撃だったらしく。
その日の夜に、ラインが来ましたよ。
ええ、隣の部屋にいるのに、です。
『ケンカをしていて、とてもつらい。今日は体調が悪いので、早く寝ます』
これを見た瞬間、何と言いますか……何と言いますか……最初に思ったのは、「占い師さんすげぇぇぇ!」でした。
旦那的には、「ケンカ」だったわけです。
そう。
旦那は、私が怒った意味を、少しもわかっていなかったわけです。
まあ……「話し合ってもわからない」人だったんで、わからないのは当然なのですが。
当時の私は、「何考えとんの⁉ こん人っ!」でした。
ええ、今ならわかります。
旦那は、「何も考えていなかった」と。
でも、とりあえず(自分なりに)冷静になって、
『いや、これはケンカじゃないから。私は、絶望しているの。結婚生活を続けられるか、と思うぐらいにね。とりあえず、しばらく家庭内別居で行きましょう』
とラインを返しました。
そうして。
しばらく考えて、近くの病院で、週末でもやっている病院を検索して探して、『体調が悪いなら、病院行って』と病院のサイトアドレスを貼って、追加のラインも送りました。
まあ、旦那にしてみれば、このラインを送ることで、「大丈夫⁉ きついこと言ってごめんね!」と私が言うことを期待していたのだと思います。
実際、翌日仕事が休みだった旦那、私が帰って来たら、部屋で眠っているようでした。
しかし、私は部屋越しに呼吸をしているのを確認すると、「うん、大丈夫だろ」と言う判断の元、いつも通り簡単な夕飯を作り、後片付けの後は風呂に入り、洗濯をして、部屋に戻り、いつも通りの時刻に就寝しました。
翌々日には、旦那は仕事に行きました。
私は休みだったので寝ていたのですが、洗った皿を見る限り、食欲もあるようです。
ならば、きちんと旦那が自炊できる環境がいるなあ、と私は考えました。
結婚する前に、毎日弁当がいる旦那+共稼ぎのことを考えて、冷蔵庫よりは冷凍庫が欲しいよね、との判断のもと、四段の冷凍庫は購入していたのですが、冷蔵庫は一人暮らしサイズのものです。
勿論共用しても良いのですが、まあ……手間が掛かるのは、目に見えていました。
何せ、弁当使用にしていた物を、勝手に食べていた人です。
「聞いてから、使う」と言うのは、頭にないですし、いちいちそれを指摘して、旦那を責めるのも面倒くさい。
ならば、最初から分けておいた方が、旦那のためにも私のためにも良いな、と思いました。
さて、皆様。
ここまで読んで、まだ私が何故旦那に対して、絶望と言うか、まあ、絶望ですよね。何故にそんな風に抱くのか?と思われますか?
気持ちはわかるけど、たかがゴーヤチャンプルーごときで?と、考えていらっしゃる方もいるかもしれません。
でも、これは私の持論なのですが。
その人の本質が現れるのは、「食べ物」の「食べ方」だと私は思うのです。
旦那は、私がお弁当のおかずを作った時の状況も、考えも、私に言われるまで思い付かなかったのです。
まるで、それが自動的に湧いて出たような感覚で、食べていたわけです。
要するに、作った私のことは考えもしなかった、ということですね。
これが、まだ十代とか二十代前半ならばわかります。
BUT、旦那アラフォー成人男子です。
しかも、怒った私に対して、被害者意識持っています。
だからこその、保育園生&幼稚園生達が、「ないわ、これはないわ」と思うほどの表情浮かべ―の、「可哀そうな僕」のパフォーマンスしーの、だったのです。
そう……旦那の頭には、「自分の事」しか、一切合切なかったわけです‼
アラフォー成人男子なのにっっっ!
なので、私は自分に余裕が持つことも目的の一つではあったのですが、旦那には自分で料理を作ってもらって、手間を知ってもらおう、と考えたのです。
ええ、私は「母」ではないんですけどね。そこまで考えての行動でしたよ。
そしてさらに、「セックレス」ですからね。
同棲だったら、この時点で多分、私家出ていたと思います。
幼馴染の、「同棲をしてから結婚した方が良いよ」と言うアドバイスをスルーしたこと、本当に心の底から悔やみました。
しかし、悔やもうがどうしようが、自分で選んだ結婚相手です。
成長してもらうためにも、こちらもサポートしていくしかない、とは思いました。
はい、この時点で。
「あれ?」と思われた方も、いらっしゃるかもしれません。
我が母は、「変われるのは自分だけ」と私に助言をし、私もそれを受けて、「キャパ拡大計画」を計画していました。
それなのに、「旦那にも変わってもらおう」としています。
だって、そうは言っても、旦那は自分からは「変わらなきゃ!」って、もう本当に針の先ほども思っていませんでした。
彼が思っていたのは、「どうしてkakuちゃんは、僕に優しくしてくれないんだろう。どうして、男として立ててくれないんだろう。どうして、僕を大切にしてくれないんだろう」ですからねー。
無理にでも、変わっていく方向に持って行かなければ、結婚生活は続かん‼と、私は判断したわけです。
ええ。結局、続きませんでしたけどね。
まあ、それはともかく。
自分のことは自分ですることで、家事の大変さを知って行けば、少しは旦那も変わってくれるのではないか、と目論んだ私。
それでは、早速冷蔵庫の情報を、と思って朝食後の洗い物をして、ふと冷蔵庫の方を見ると。
何か、コピー用紙みたいな物が、半分に折ってあって、マグネットで貼ってあります。
何じゃろな―と思い、紙をぱらりと広げると。ワードで作成された、旦那からの手紙でした。
そこには、こう書かれていました。
『kakuちゃんとケンカして辛い。僕が勝手におかずを食べたことは悪かったと思っています。これからは、何事も約束事を二人で決めていきたいです。そして、kakuちゃんの作ったご飯も食べたいし、二人で出かけたりもしたいです。本当は、仕事も辛くて、転職したいけれど、相談して良いかわからなかったし、「来てくれないか」という会社もあるけど、給料はそこも安いし、新人さん達も、全員辞めてしまって、辛いです』
……。
さて、皆様。
これを読んで、突っ込まれましたでしょうか?
まずね、後半。
何故にここで「仕事が辛い」と出てくるのでしょうか?
それに、「相談して良いかわからなかったし」と、何故にこのキーワードが出て来る?
私は、「旦那がお弁当のおかずを勝手に食べた」ことで、旦那の「相手の手間と気持ち」を考えないことを怒っているわけです。
これは、「結婚」をした大人としては、致命傷でしょう。
若くして結婚したのならばまだしも、お互いアラフォーです。
三十代後半男子であれば、ある程度人間関係の積み重ねがあって然るべきなのに、旦那には、全くそれがない。
それなのに、どうしてこの「転職したくても、相談して良いかわからなかった」という言葉が出て来るのか。
まあ、旦那的にはこういう内容を書けば、私は許してくれるだろう、と思ったのかもしれません。
「自分は辛い目にあっているから、責めないでくれ」との、遠回しアピールだったのかもしれません。―でも、それはそれ、これはこれだよね、と私は思いました。
さらに、「二人で何事も約束事を決めて行きたいです」ですが、約束事も何も、「これ食べて良い?」と尋ねるのは、基本中の基本だし、そもそも、ジト目攻撃をして来る人とお出かけして、楽しいですか?
要するにこの手紙は、「可哀そうな僕をこれ以上責めないで、優しくしてください」という内容だったわけです。
「……離婚か?」
私は旦那の手紙を読みながら、小さく呟きました。
旦那は、自分の悪かった所を、少しも反省していないわけです。
私が怒っているから、とりあえず謝る。その「原因」も「理由」も、聞こうとしないし考えもしない。
まあ、しかし。
「キャパ拡大計画」も「旦那成長サポート計画」も、発動はしていません。
『離婚は、まだ早いですよ』
そして、出かけた先での車の中で。
占い師さんに相談したところ、そう言われました。
『そうですよね……』
この時点で、結婚して四か月。
一緒に暮らし始めて二か月です。
確かに、「離婚」を考えるには早いです。
『今離婚しても、あなたにも後悔が残りますし、旦那さんも納得しません。周りも、同様です』
「でしょーね……」
私達の世代の親達は、昭和ど真ん中を生きた人達です。
彼らにとって、離婚とは「忌むべきもの」だし、そもそも「結婚」した以上、多少の苦労はして当然、と考える世代の人達です。
今の時代、離婚はそこまで特別視されていませんが、それでも「離婚」は軽々しく考えるものではない、とは認識されています。
まあこの場合、子どもがいたりとか、家を建てたりとか、経済的問題とか、理由があるのですが。
もちろん、私とて「結婚」の苦労を避けるつもりはなかったのですが、その「苦労」をする前の段階、で苦労をしていたのです。
結婚が決まった時、人生の先輩達には、こう言われました。
『最初の一年はね、ケンカばっかりだけん。ばってん、ケンカすっとが当たり前たい。赤の他人が一緒に暮らすとだけん。たくさんケンカして、お互いの生活ば作り上げて行きなっせ』
しかし現実は、旦那、自分の望んだ「確定された未来」が叶えられず、ジト目で私を見るのみ。
考えることは、「どうしてkakuちゃんは、僕に優しくしてくれないんだろう。どうして、男として立ててくれないんだろう。どうして、僕を大切にしてくれないんだろう」のみ。
えっっっっっっとー、私は母親ではなくて、妻なんですがぁ~~~~~~!
これ、旦那には手を変え品を変え伝えていたんですけど、理解してくれなかったです。
取り合えず、この時点では、まだ何一つ対応していなかったわけで、私も占い師さんに「離婚はまだ早い」と言う言葉には、頷きました。
この時点で自分のやることは、旦那に自分の気持ちを伝えて、自分で自炊して欲しいこと、そのためには冷蔵庫を買う事を実行することだ、と判断したのです。
早速自宅に戻ったら話さねば、と思いながら私は家路を車で走りました。
「ただいまー」
とアパートの玄関を開けると、旦那が洗い物をしていました。
そして、振り返った旦那、
「お帰り」と言いました。
「あのさ、冷蔵庫買おう。あなた用の。今使っているのは、私が一人暮らしで使っていた物だし、サイズも小さいから、もう一台、冷蔵庫だけのを買おう」
どうやら旦那、「無視しても効果なし」と悟ったようで、私に「お帰り」と言い、私の話を聞いています。
しかし、私の言葉を聞いて、目を丸くしています。
「申し訳ないけど、もうご飯を作る気力はないの。お米だけは炊いて冷凍しておくけど、それ以外は自分でして。そのためには、冷蔵庫がいるからね」
「え、でも……」
「そもそも、さ。二人で約束を決めて行っても、あなた守れるの? 忘れて、私が怒って終わり、じゃ意味ないじゃない。わからない時は聞くことをすれば、「約束」なんて、必要ないと思うんだけど」
と言うか、「うっかり忘れていた」と言って、約束を破ることを連発しそうです。
それに対して、「怒り」を抱くことは、私はしたくありませんでした。
怒ること自体、エネルギー消費します。
「それに、転職について悩んでいるって書いていたけど、そもそも、求人についてチェックしているの? 求人サイトに登録したり、履歴書を書いたりしたしている?」
「えっ……」
旦那は、私の問いかけに目を見開きました。
その表情から、「考えもしなかった」と思ったことは明白です。
私は、転職を考えた時は、在職中から求人をチェックしていました。
今は、ネットで幾らでも情報を得られる時代です。
パソコンやスマホがあれば、いくらでも求人を見つけることはできるのです。
それに加えて、ハローワークにも通って、求人を検索したりしていました。
もともと、今の職種に入った時、世の中は大不況。
何通も履歴書を書いて、履歴書を作成するために本も読んで、ハローワークの転職セミナーにも通いました。
「それ、本気で転職する気あるの? って言うか、悩んでいたら、せめて求人ぐらいチェックしない? 自分の売りには何があるとか、考えたりしていたの?」
「全くしていませんでした」と、旦那の表情が言っています。
「加えて言うならさ、新人さんが全員辞めるような環境なのに、あなたは何もしないの?介護の仕事がハードなのは承知で皆入社して来ているのにさ、どうして辞めたの? その問題点に対して、『仕事がきついから、皆辞めて行く』で、終わらせているの?」
さらに、私はそう旦那に付け加えて言いました。
ええ。そうですね、旦那が望んでいたのは、そんな「正論」の言葉ではないことは、わかっていました。
旦那が望んでいた言葉(もの)。
『そんな辛い目にあっていたのに、気付いてあげられなくて、ごめんね。明日からご飯作るから、頑張ってね』と言う類のものですね。
「辛いあなたを支えるわ!」みたいな。
私、支えて貰っていませんけどね。
それどころか、「どうしてkakuちゃんは、僕に優しくしてくれないんだろう。どうして、男として立ててくれないんだろう。どうして、僕を大切にしてくれないんだろう」って、ジト目で、毎日攻撃されていますけどね。
「その新人さん達のために、あなたが何かしたことがあった?」
旦那はもう、半分涙目です。
まあね。
自分では「許してもらうために考えた策略」なのに、返って来た私の反応は、「駄目だし&説教」ですからね。
「違う、俺が欲しい言葉は、そんなものじゃないんだ!」と心の中で絶叫していたと思います。
って言うか、していましたね。
けれど、旦那の問題はそこなのです。
旦那の「思考」は、常に「自分だけ」しか存在しません。
「相手の気持ち」と言うものが、考え付かないのです。
「例えばね、私があなたの洗濯物を干すのは、あなたが一時間かけて電車で出勤しているから、じゃあ余裕のある私がやった方が、あなたには負担がないだろうな、と思ったからなんだよね。そういう視点で、物事を考えたことある? 利用している人や、同僚さん達が、『何を望んでいるのか』って考えて、行動している?」
もうここまで話すと、旦那、「勘弁してください」、状態です。
そうですね。
何故に家に帰ってまで、仕事の話で説教されなきゃいけんのか、って、思いますよね。
あなたが手紙で、「仕事が辛くて転職も考えている」と関係ないことを書いているからですよ。
「転職するならするで構わないけどさ、そういうことも考えて動き出さないと、何時まで経っても変わらないよ」
とりあえず、この辺で終わらないと本題に入ることはできない、と私は判断し、転職についての話はそこで終わりにしました。
私とて、旦那を責めたいわけではないのです。
しかし、当の旦那が「逃げること」で、自分の有利に立ち回ろうとしているのですから、それを封じるためには、ある程度の牽制は必要でした。
要は、「本題から逃げるな」ってことですね。
「で、さっきの続きだけど。私はもう、ご飯を作る気力はないの。あなたがお弁当のおかずを食べた件で、やる気が失せたのよ。お互いの考え方もあると思うから、食事は別々で、自分で作るようにしよう」
「そのことだったら、謝るから……」
「謝られても、気力は回復しないから。自分のことは、自分でして」
旦那は言い募ろうとしていましたが、私、そこでばっさり切ってしまいました。
謝ってもらっても、一度去った気力は戻りません。
この時の私は、旦那のために何一つしたくない状況でした。
世話をしてもらう=男として大事にされている、と思いたい旦那には付き合ってなどいられない、と考えていたのです。
「お互い大人なんだから、自分の面倒は自分でみましょう。食費分は折半している金額から引いて。冷蔵庫は、自分で探しても良いし、私が探した物で良いならそれを買うから」
旦那、呆然です。
その表情は、「何でこんなことに……」とでも言いたそうです。
いや、本当に。
何でこんなことになるんでしょうね?
最初は「セックスできない」から始まったのに、今やセックスどころじゃなく、何と言うか、人としての在り方? みたいな感じになっていっています。
しかし、ここは何事もやってみないとわかりません。
とりあえず、私は旦那のための冷蔵庫を注文して、自分はバレエストレッチ教室と整体に通い始めました。
率直に言いましょう。
楽です。とても、楽なんです‼
まあ、それはそうです。「必ずご飯を作らなきゃいけない」と言う縛りがなくなり、「うわあ、楽。たいぎゃあ、楽!」という心境でした。
好きな時に、好きな物を食べられるのは、とても楽です。
まあ、ジト目攻撃はありましたが、「見ないふり」をすれば、そこまで負担にはなりません。
何れ旦那と向き合わねばならないことはわかっていましたが、私は自分を休ませる&キャパを広げるために、意識を自分に向けることに集中することにしました。
旦那が不満そうにジト目で私を見ていましたが、気にせずに、自分のやるべきこと、やりたいことを積極的にやることにしたのです。
ただ、弊害もありまして。
とにかく、旦那を避けがちになるわけです。
だって、一緒にいてもジト目攻撃しかしないわけですよ?
楽しくないんですよね、正直言って。
そりゃあもう、友達と出かけて喋ったり、人生の先輩達とご飯を食べに行った方が、断然楽しかったです。
旦那のことを愚痴って、アドバイスをもらったり、友達の恋バナを聞いたり。
腹に一物ある相手と出かけたり話したりすることほど、きついことはないな、と思いました。
まあ……旦那は旦那で、このままではまずい、とは思ったようです。
そりゃあ、嫁は自分の用事を済ませると部屋に退散して、休みも出かけて、会話はまるでなし。
私が同じ立場でも、焦りますわな。
けれど。やっぱり、どこかズレているのです。
この頃、連絡用のホワイトボードには、「トイレ掃除しました」とよく書かれていました。
私が「あなたの洗濯物を干していたのは、あなたが負担だろうなと思ったからだ」と伝えて以降、旦那は旦那で自分の洗濯物は洗って、干すようになりました。
まあ、それは別に良いのですが、何故か「トイレ掃除しました」と、ホワイトボードに書いているわけです。
トイレ掃除をしてくれるのはありがたいのですが、何故にこのように毎日連続で書かれているのか。
いや、トイレ掃除するのは構わないんだけど、あなたも使っているし、そもそも、掃除をする場所はトイレだけではないんですが?
何を……期待しているのだろう?
ホワイトボードに書かれた文字を見ながら、考え込みました。
とりあえず、自分に意識を向けることに集中することにしたので、スルーすることにしました。
何か欲しければ、旦那の方からアクションを起こすだろう、と思ったのです。
ええ、そうですね。
旦那、きっと期待していたんですね。
「ありがとう、助かる!」って言葉を。
でもですね。
別に、旦那が使っているのは、トイレだけではないんですよ。
お風呂場も、洗面所も、リビングも、台所も、全部使っているわけです。
ええ。
私は、毎日掃除をしていました。
けれど、旦那から「ありがとう」と言う言葉は、一度として言われたことはありません。
たかだかトイレ掃除ぐらいで、「ありがとう!」と、何故に言わなくてはいけないのでしょうか?……と言うことを、自分から気付ける旦那であれば、まあ、最初っから、弁当使用にしたおかずを無断で食べたりはしませんわな。
けれど、旦那の「トイレ掃除しました」は、私の中では、業務連絡の一つであったのです。
どうも、自分で思っていた以上に、私は自分に負担をかけていたようなのです。
この頃の私は、よく冗談で回りに「愛が減るわ!」と言っていましたが、これは実感としてありました。
旦那がどんなに家事をしようとしたり、自分のことは自分でしようとしていても、旦那の根底には、「どうしてkakuちゃんは、僕に優しくしてくれないんだろう。どうして、男として立ててくれないんだろう。どうして、僕を大切にしてくれないんだろう」が常にあるわけです。
だからこそ、私をジト目で見ているわけで、ようは、自分の思い通りにしてくれない私を、責め続けていたわけですね。
で、当の私は、自分の欲しい物―「お互いに協力していくパートナー」がいないわけで、そりゃあ、愛も減りますわ。
愛って、与えてもらわないと返せないんですよ。
子どもに無償の愛情を注げるのは、「子ども」が親の愛情を真っ直ぐに受け入れて、返してくれるからなんですよ。
でも、「大人」はそうではありません。
これは「子ども」が成長して「大人」になるのと言えるかもしれませんが、やっぱりね、「お互いに愛を渡し合う」ことが大切になるわけです。
「思いやり」という言葉が、ここには当てはまるのかもしれません。
お互い違う「愛」を求めている以上、これはもう致命的なすれ違いが起きるのは当然でした。
片や、パートナーと柴刈りに行きたい者。
片や、誰かが作り出してくれたお花畑に安住したい者。
そんな感じでしょうか?
自分でお花畑を作り出して維持してくれるならばまだ良いのですが、そんな気はさらさらないって感じでしたからね。
それでも、旦那が成長してくれれば、私のキャパが広げられれば、何か変わるかもしれない、と思い私は日々を過ごしていました。
ストレッチ教室は綺麗な先生が、時々「鬼か!」と思うようにな指導をされて、とても楽しかったです。
整体も、時々「鬼か!」と思うマッサージをされて、「いや、全然押してないよ。あなた、どれだけ凝っているのよ」と突っ込まれていましたが、癒されました。
一方旦那の方は、「去年のこの日に、僕達は結婚相談所を退所しました。記念すべき日です」とホワイトボードに書いてきました。
まあ、確かに、一年前のその月に私へプロポーズはして来たのですが、月末まで私は結婚相談所に在籍していました。
その旨をホワイトボードに返事として書いたら、「あ、そうだったんだ。でも、記念日だよね!」と書いて来ました。
「記念日だから、ケーキです」
と、部屋のテーブルの上に手紙とケーキが置かれていましたが、私的には「何がしたいんだ……」でした。
「あの時の気持ちを思い出して! そしたら、もっと僕に優しくできるでしょ!」って感じなのか?
けれど、正直そんな気持ちにはなれませんでした。
この時点で、愛は減りまくっていますからね。
ケーキに罪はないので美味しくいただきましたが、結局旦那が何をしたいのか、不明なままでした。
そうしているうちに、仕事の方も忙しくなって来ます。
大きなイベントじゃあ、活動の準備じゃあ、と諸々やることが山積みです。
正直、旦那のことはどうでも良くなって来ていました。
このまま離婚になっても、問題ないかも、とまで考えるようになっていたのです。
旦那がいなくても、私はやっていけます。
仕事はあるし、生活も自分でやれるし、困ることは何一つないわけです。
しかし、旦那がいると、「どうしてkakuちゃんは、僕に優しくしてくれないんだろう。どうして、男として立ててくれないんだろう。どうして、僕を大切にしてくれないんだろう」攻撃が常にある。
自分で欲しているお花畑を自分で作り出してくれるならばまだしも、それは自分でしない。
もちろん、維持することは考えもしない。
一緒にいる価値は、あるのでしょうか?
『で、どうすると?』
仕事♪仕事♪放送大学の試験勉強♪という日々を過ごしている最中、竹馬の友が電話をして来ました。
「そりゃ、もう少し落ち着いたら、旦那と一緒に過ごす時間ば作って、お互いの交流ば深めるつもりたい」
『そぎゃん言うけどたい、旦那がもうその気がなかったら、どぎゃんすっと』
……幼馴染と言うのは、こういう時厄介です。
幼い時から付き合いがある分、容赦なく突っ込んで来ます。
そしてその突込みは、ド直球の真正面。
誤魔化しは、一切効きません。
『旦那は、何も言わっさんとね』
「うーんと、毎日『トイレ掃除しました』って、連絡用のボードに書いてきとらすね。それと、『この日空いてる?』って、書かれた日もあったわ」
『どぎゃん答えたとね』
「トイレ掃除の件は、もう、スルーしている」
『まあ……そぎゃんだろうね。でも、『空いている?』には、何て答えたと』
「放送大学の試験があるって書いた」
『……それ、本当?』
竹馬の友、鋭いです。
「試験があるのは、本当。勉強せにゃ、私資格取れんとよ。申請方法が変わったけん、移行期間が、今年で終わると」
『それ、私との約束が入ったら、どうすると?』
「多分、行くね」
試験があるのは、本当です。
そして、猶予期間がないのも、嘘ではありません。
でも、「空いていない」と答えたのは、旦那と出かけたくなかったのが、本当の理由です。
先日の「プロポーズした記念日」をほぼスルーしたのも、それを祝う心境ではなかったのです。
『そぎゃん、旦那と出かけたくないと』
「だって、無理に一緒に出掛けても、話すことなんてないしね。一番言いたいことを我慢して一緒にいることほど、地獄なことはないわ」
「プロポーズ記念日です」と旦那はホワイトボードに書いていたけれど、一緒に出掛けたりしなかった理由はそれでした。
一緒に出掛けたとしても、私は旦那に一番言いたいことを言えないまま、時を過ぎるのを待つわけです。
一方の旦那も、私が自分の一番して欲しいことをしないことで苛立つわけですから、楽しいお出かけにならないことは、火を見るよりも明らかです。
『何て言いたかと?』
「『何で、セックスできんと?』」
『まあ……ね』
最初から、事の顛末を知っている竹馬の友は、深いため息を吐きました。
その言葉を言ってしまえば、もう、旦那を責める言葉しか出てこなくなります。
『私はさ、あた(貴方)のこっだけん、たいぎゃ頑張っとるとは、思っとるとよ』
「うん。知っとるよ」
そう思っていることは、折りに触れて、忙しい中でも連絡を取って来てくれることで、感じていました。
『だけん、後悔して欲しくなかとよね』
「わかっとるよ。ありがとうね」
私はそう言って、竹馬の友の言葉に頷きました。
竹馬の友の言葉は、胸に響きます。
彼女自身が忙しい日々を送っているのに、私を気遣ってくれることがわかるからです。
BUT、旦那とはそれがありません。
気遣えれば良いんですが、旦那の頭にあるのは、「どうしてkakuちゃんは、僕に優しくしてくれないんだろう。どうして、男として立ててくれないんだろう。どうして、僕を大切にしてくれないんだろう」なので、私の言葉で自分のご飯を作ったり、洗濯をしたり、食事を作ったりしたとしても、自分の「確定された未来」を見事に裏切り続ける私を責める気持ちが、常にあります。
それに対して、私は「いや、自分のセックスのこともきちんと考えきらん男が、何言うか!」と、思うわけです。
前にも書きましたが、求めているものが違い過ぎて、交わりません。
例えて言うなら、二次創作のカップリングの派閥みたいなもんでしょうか?
Aキャラが攻でBキャラが受けを好む人が、その逆のカップリングを好む人がいたら、「相容れないわ!」と思うことがよくあります。
ましてや、CキャラとAキャラのカップリングが好きという人が出てくると、もう様相はさらに混沌となってきます。
私としては、二次創作でのBL展開は基本ないなーと思っています。
学童に勤めていた頃、
「先生、友達がナルトとサスケ(NARUTOのことですね)は恋愛関係でおかしくないって言っているんだけど、どう思う?」
と言われて、最近の小学生すげぇぇぇ!と内心思いながらも、
「うーん。でも、あれって、恋愛の話じゃないからねー。ナルトには、ヒナタがいるじゃん。サスケには、サクラがいるし」
「やっぱり、そう思う?」
「楽しみ方は人それぞれだから、友達の見方も、それが友達が『楽しい』と思うなら、アリだとは思うよ」
などと。
さも理解のある大人のふりをしながら、内心は、「いやー、ないわ」と思っていました。
基本私は、BLはオリジナル派です。
何の事ですか、と思った方々は、スルーしてください。
ようするに、私と旦那の「思い」は、二人の間に、決して埋まることのない、深くて険しい溝ができてしまっていた、と言う事なのです。
そうこうしているうちに、一ヶ月経った頃。
「明日、父の実家の方に行ってきます」
と、ホワイトボードに書かれていました。
「ねえ、これは、法事?」
私は旦那の部屋のドアを叩いて、出て来た旦那にそう尋ねました。
「あ、そう」
「じゃあ、ビールか何かを買って、持って行ってくれる? レシートを後で頂戴」
夜遅く帰って来ていたので、気の利いたセットを売っているお店はもう閉まっています。
旦那は朝早くに出ると言っていましたが、途中にショッピングモールもあるので、そこでビールか法事用のお菓子を買って行くように、私は旦那に頼みました。
で、その日の夜、私が眠った後に、旦那は帰って来たようでした。
翌日。
朝の準備をしている旦那に、私は聞きました。
「差し入れ買って行ったレシートある?」
「あ、買って行っていない」
しかし、旦那の返事は思ってもいないものでした。
はい? と、私は思いました。
私は、「買って持って行ってね」と確かに旦那に伝えました。
「家庭」を持って、親戚の「式」に参加するということは、その「家庭」を代表する、と言うことです。
そして「大人」として、お供え物を用意することは、「マナー」でもあります。
「え、いや何で?」
「要らないと思って」
「いや、だから。要らないなら、私は『買って行ってね』とは、言わないよ。何で、要らないと思ったの⁉」
「え、だって……」
旦那は、ごにょごにょと何か言いたそうにしています。
「あのさあ。あなた、私と結婚したんだよ。『家庭』を持ったんだから、親戚付き合いの一つとしてね、お添え物を持って行くのは、最低限の礼儀なんだよ。それとも何、お金を包んだの?」
私の問いかけに、旦那は首を振ります。
「……今度から、法事とかある時は、早めに言ってくれる? お義父さん達が用意してくれたから、って言うんなら、違うからね。あなた、いつまでも『息子』のつもりでいるなら、ちょっと考えないかんよ」
旦那は、私の言葉に黙り込みます。
こういう時。
大抵、用意しなかったのは「妻」の責任になります。
法事の参加を私に強要しないのは旦那の優しさなのでしょうが、それならばそれで、最低限の礼儀は果たさないといけないわけです。
「男に、それを期待するのは酷ぞ」
しかし、実家に帰省した折。バス停まで車で迎えに来てくれた父は、私の話を聞いて、ため息を吐きながら言いました。
旦那は、一緒には来ませんでした。
「仕事だから」という理由もありますが、私としても、自分の「実家」へ、ジト目攻撃をして来る旦那と一緒に行きたくはありませんでした。
「いや、私は『ビールかお供え物になりそうな物を買って行ってね』って、ちゃんと言ったとよ? 自分で気付いて持って行け、とは言ってなかと。それなのに、持って行かっさんだったとよ」
「お前の言いたいことは、わかったい。間違っとらんとも、思うたい。ばってん、綺麗ごとばっかっし言っても、人は着いて来んぞ」
父は、苦い表情をして、そう言いました。
確かに、父の言う通りではあるのです。
著出でもある「腹が減っては、戦はできぬ」の登場人物で、「言っていることは正しいけれど、上から目線過ぎて、誰も着いて来ない」という人をこの頃書いていた私、素直にそう思いました。
そうして、頭に浮かんだ言葉はこれでした。
I have to do my homework(私は宿題をしなければならない)
何で英語やねんと自分でも思いましたが、とりあえず、そろそろ旦那と向き合う時期が来たのかもな、と思いました。
この時は、旦那に「ご飯作らんけん」と宣言してから、一ヶ月半経っていました。
ただ、そうは言いましても。
私と旦那の間にある溝は、二次創作のカップリング派閥並みに深いわけです。
さて、どうやってこの溝を埋めるのか。
まず私が思ったことは、面倒くせーでした。
お互いがお互いを理解するために、努力に邁進しているのなら良いのですが、旦那は私に言わせれば「待っている」状態。そして、旦那に言わせれば、「やってくれない」状態。
「話し合いが足りないんじゃないですか?」
今は退職した、前の職場の元同僚さんはそう言いました。
「お話聞いていたら、お互いに自分の思いが強くて、譲り合いができてないような感じがします」
私より年下とは言え、さすが管理職をやっているだけはあり、鋭い指摘です。
「まあ、ね……」
しかし、です。
皆様。
前に「話し合いには、それなりの手順と能力がいる」と私が書いていたことを覚えていらっしゃいますでしょうか?
この、「話し合い」。
なかなかの難問でした。
話し合いの基本は、自分の意見を出し合い、お互いの妥協点を探します。
赤の他人同士が一緒になって暮らすのですから、話し合いを重ねて、お互いを理解していくのが過程なので、何回も何回も話し合いは重ねていくことが大切だと、私は思っていました。
しかし、旦那。
この「話し合い」ができません。
「話し合いは、できんとたい」
私は、ため息を吐きながら、元同僚さんに言いました。
「何でですか?」
「泣かすとよ」
「はあ⁉」
私の返事に、元同僚は素っ頓狂な声を上げました。
「旦那さんがですか⁉」
はい。アラフォー世代の成人男性である旦那ですが、どうも私が自分の考えていることと違う意見を言うと、「否定された」と感じるらしく、黙り込む&涙ぐむ。
話し合いの基本中の基本である、「お互いの意見を出し合う」この時点で、もうこれでした。
「kakuさんの言い方もきついのかもしれませんけど……」
それも、否定はできません。
私は何とか自分の有利に持って行こうとする旦那を、ことごとく、切りまくっています。
けれど、それにしても。
「涙ぐむアラフォー世代成人男子に、どんなふうに接したら、『話し合い』ができると思う?」
真剣に、私は元同僚さんに尋ねました。
「このままじゃいけない」とはわかっていても、なかなか旦那と向き合える気力が湧きません。
旦那は、私が「確定された未来」を叶えることが当然だと思っています。
それは、最後まで変わることはなかったです。
「……二人で何かするとか?」
「共同作業ってやつ?」
「それよりは、もっとフランクですよ。二人で何か『楽しい』と思うことをするんです」
「デートってこと?」
「それでも良いですけど、二人で『何か』共同で楽しむことをするんですよ」
「二人でねぇ……」
元同僚さんの言葉に、私は考え込みました。
「映画とか?」
「それよりは、もっと作業的です。『共同作業』ですから」
「サバイバルゲーム?」
「せめて、キャンプにしておいてください……」
元同僚さんの言葉に、私はふむ、と考え込みました。
確かにサバイバルゲームはちょっと無理そうですが、何かしら「共同作業」をやってみるのは楽しそうです。
水晶玉子さんの占いをやってみても、「このままだと、ただの同居人になる」と出ました。
この時点で、結婚して八ヶ月。
一緒に暮らし始めて五ヶ月。
既に、同居人と化しています。
否。シェアハウスの住人と言った方が、良いかもしれません。
何故にこんなことになったのか。
まあ……私が耐えられなくなったからなんですが、それでも、きちんと向き合わないと、先に進めることは、できません。
とは、言えど。いったい、二人で「作業的なこと」を、どうすればできるのか。
キャンプはどうかなとまず考えたのですが、旦那とキャンプに行って……まあ、どうなるかは、想像に難くなく。
旦那に仕事を頼む→失敗して、戸惑う→私はため息を吐きつつ、フォローという図式しか浮かばず、ちょーと現実的ではないなーと思いました。
夫婦で登山……もといハイキングコースも、同様に私がさっさっと歩き、旦那が後を付いてくる姿しか浮かばず、これも違うな―と思いました。
そして、映画は共に見るのは良いが、その後は沈黙の嵐であることは間違いなく……。
何が良いんだろうかな~と思いながら過ごすこと数日、旦那の洗濯物を置くために、旦那の部屋に入った時、そのもっさり感に「うーん」となったのです。
あ、ちなみに。
洗濯物は、外に干してある物を入れることはしていました。
旦那が先に帰っている時は、旦那が入れていましたし、圧倒的に旦那の方が先に帰っていましたから、旦那が私の分を入れてくれるんですから、私だって、きちんと入れます。
そして、旦那の部屋に入ると、もっさーんとした空気を感じます。
一応、引っ越す時に棚とかカラーボックスとか買っているはずなんですが、何故か床に直接置かれる、洗濯物とパソコン関係らしい機械。
本棚の上には、汚れているらしい衣服。
畳まれなく置かれている、布団。
「暗い……」
ふと、机のすぐ横には、「夫婦道 がんばらない幸せ」(サビエル著SIBAA BOOKS)が転がっています。
旦那、ようやっと、「このままじゃ駄目だ」と思い、自分でも本を探して読んでいるようです。
ただ、ですね。
この本を読んだところで、旦那自身が私と向き合わないと意味がないのです。
そのことが私達にはできていません。
向き合い、話し合う。
字面にすれば、たった八文字。
しかし、できないのです。
今、この文章を書いている現在、旦那とは別れていますが、そして、結局できなかったのですが、本当に何故できなかったのか、それは今でも考えます。
まあ、こう書くと、「お父さんが言うとおり、正論を吐いて、旦那さんを追い詰めるからじゃない?」と言われそうですが、それって、責任転嫁ですよね?
「お前が俺の思う通りにしないから、俺はしないんだ!」って、それこそ就学前の子どもじゃないんですよ?
「仕事がきつくて辞めたいけど、相談して良いかわからなかった」と言う、まあ言ってみれば相手の罪悪感を利用して、自分の有利性を出そうとする人間に、どうしたら良かったのか。
ただ、この時の私は、正面切っての話し合いは、難しいと判断しました。
「話し合い」と言っても、私が正論を言い、旦那が涙ぐんで終わる。
進みません!
進むわけがないんですよ‼
だったら元同僚さんの言うとおり、「共同作業」的なことをして、少しでもお互いの交流を進めた方が良い、と判断しました。
それに、旦那も「このままではいけない」と思っていることは、確かです。
ならば、前向きに努力するべきだ、と思いました。
ならば、「掃除」はどうだろうか、と閃いたわけです。
どうせ、夫婦共同で何かするならば、この旦那のもっさーんとした部屋を、ビフォーアフターすれば、一石二鳥!
ふむ、と私は思いました。
さらに言いますと、こんな「暗い」部屋にいれば、そりゃジト目攻撃にもなるわ、とも思ったのです。
旦那の実家にお邪魔した時も、床に荷物が所狭しと置かれていたので、これは育った環境にもよるでしょう。
ちなみに私の実家は、所狭しと棚やタンスに荷物がギュウギュウで、今度私は実家に戻ることになったのですが、私の荷物が入るのか、今から戦々恐々としています。
閑話休題。
話を元に戻しましょう。
早速私は「収納」をやってくれる人を探すことにしました。
最近では「こんまり」さんの存在のおかげで、随分と「整理整頓」も見直され、「収納コーディネーター」と言われる人も出てきました。
どうせやるなら、効率的にやって、効果も最大にしたいなーと、私は思ったわけです。
そうと決まったら、はい、ググります! ネットで検索ですっっっ!
何事も探してみると、近隣にもいらっしゃいます、「収納セミナー」と言う肩書をお持ちの方々が。
その中の一人で、予算の一万円前後で、自宅まで来てくださる方を探してお願いすることにしました。
旦那にも都合の良い日を聞いて、その日に収納セミナーの先生に来てもらうことにしました、が。
「ごめん、仕事が入った」と旦那が数日前の日に、そうホワイトボードに書いて来ました。
ありゃりゃ、と思いましたが、仕事ならば仕方ありません。
「仕事なの?」
私は旦那の部屋の戸を叩き、確認すると、
「うん、そう。急に仕事が入った」
と言われました。
ここで、「さぼりじゃね?」と思われた方々もいらっしゃると思いますが、旦那の性格上、それはないと私は思いました。
もし、さぼりだったとしても、旦那が「嫌だ」と思っていたら、それは強制できないな、とも思ったのです。
それに、一番の開運方法は「掃除」であることは、私も自分の体験で実感していましたから、この時は「まあ、仕方がない」と思い、収納コーディネーターさんと二人で、奮闘して旦那の部屋を模様替え&整頓しました。
しかし、何故にクリアファイル成る物が、何十枚と出てくるのでしょうか?
どうも、保険会社みたいなところから景品としてもらった物を、後生大事に新婚生活の場に持って来ていたようです。
これどう見ても着んじゃろ、と思うような服も何着も出て来ます。
そして、これまた何故に絆創膏が何箱も出て来るんだ??
「旦那さん、『取捨選択』ができない人みたいですね」
と、収納コーディネーターの先生が言います。
「取捨選択ができない?」
「何が必要で何が要らないのか、選別することが苦手なんですよ。『いつか使うかもしれないし』と思っちゃうんですね。でもこれ、整理整頓が苦手な人に多い思考なんです」
以前、「机の引き出しの中は、頭の中と同じ」と言う言葉を聞いたことがあります。
つまり、旦那は自分にとって何が必要なのか、「わからない」ということになります。
自分の望む「確定された未来」を手に入れる方法を、自分で考えることを思い付くことがなかったのも、それが原因だったのかもしれません。
ただ、これは旦那と別れた後の今、思うことで。
この時点の私は、「まあ、そんな感じよねー」と思うだけでした。
そうして、何とか「ビフォーアフター」並みの模様替えができ、仕事から帰って来た旦那も、「ありがとう!」と本当に嬉しそうでした。
私としては、旦那と共同で何かをしたかったのですが、当てが外れた形であったものの、「これをきっかけに、収納セミナー一緒に受けよ」と旦那を誘って、オッケーがもらえたので、まずは「良し」としました。
でも。
これで、旦那は「やっぱりKakuちゃんは、僕のためにやってくれるだ!」と思ったらしく。
まあ、確かに私は「二人の交流のために」旦那の部屋を整理整頓したのですが、それは当てが外れたので、どちらかと言えば、「たまたま」だったのです。
基本的に、「自分のことは自分でしよう」の精神が叩き込まれている私、旦那の「確定された未来」なぞ、さらさら叶える気はないわけです。
ですが、旦那は「叶えてくれる」と確信してしまい……要するに、「やればできるんじゃん!」と思ってしまったようなのです。
いやいやいやいやいやと、この当時の私が知ったら、盛大に突っ込んでいたでしょう。
皆様。思い出してください。
旦那が「確定された未来」と信じていたのは、「結婚したら、朝起きたらできたてのご飯ができている。妻は手作りのお弁当を渡してくれて、笑顔で送り出してくれる。帰って来たら、妻が笑顔で『お帰り』と言って、できたての夕飯を出してくれる。ご飯の後は二人で後片付けして、TVを見ながら話して、寝る。休日は、一緒に起きて、二人で朝ご飯を作って、家事をした後は、二人で出かける。帰って来たら、ゆっくり珈琲でも飲みながらテレビを見て、まったりとした時間を過ごす」ですからね!
正社員として、朝から晩まで時に残業までしていた私に、これを「やればできるじゃん!」で何とかできるなんざ、百歩譲っても無理ですっっっっ!
しかし、旦那。
それができると、信じて疑いもしませんでしたからね。
でなければ。あんな言葉を、書いてはこないと思います。
「僕も手伝いますから、kakuちゃんも頑張ってください」
この文を読んだ時。
私はそれまで自分がやって来たことは、何一つ無駄だったということを知ったのです。
そうして。
旦那にとっては、「結婚」とは、通販で商品を買うように、「妻」という者を得るものだったと言うことを、実感することになるのです。
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