第24話 連続殺人犯の自白
安藤の自供で、警察内は上から下から大騒動となった。
連続少女殺人事件の犯人がまさか身内だったということと、その中でもトップの検挙率を誇るノンキャリアの期待の星だったせいもあり、夜勤で残っていた者たちは全員、仕事の手を止め、安藤の処遇やこれからの警察の対応などを小声でささやきあい、ずっと取調室の様子を伺っていた。
「……安藤さん、嘘でしょう? 貴方が連続殺人事件の犯人だなんて」
安藤のパートナーだった佐伯がよろめきながら安藤に近づき、問いかける。
「…………」
しかし、安藤は佐伯の顔を哀しげな表情で見つめるだけだった。
「なんとか言えよ! 「俺は犯人じゃない」って言ってくれよ!」
胸ぐらをつかみ、激しくゆすりながら叫ぶ。
「待てっ! 佐伯! 落ち着け!」
ふたりの刑事が後ろから羽交い締めにして離そうとするが、佐伯の興奮は収まらない。
なおも食いつこうとするところに、部屋のドアが開き、近藤課長が入ってきた。
それを見て、ようやく佐伯も落ち着く。ふたりに離してもらって、暴れて乱れた襟をただす。
課長が空いているイスを引き寄せ、安藤の前に座る。
「本当に、君がこの連続殺人事件を起こした張本人と言うのか?」
「そうです」
安藤が答えた途端、一気に場の空気が重くなった。
信じていた人に裏切られた佐伯は怒りのあまり、扉を蹴破る勢いで部屋を飛び出した。
「……なぜ、将来のある若い女性ばかり狙って殺した?」
近藤課長も怒りを抑えているのか、低い声で安藤を責めるように聞く。しかし、本人は気づいていないのか、すました顔で答える。
「殺した、と言う言い方はしてほしくないですね。これは芸術であり、少女たちを清く美しい時のまま、天に送り届けるという、いわば偉業です」
「わしにはその理屈はわからないが、君が犯人というのならば、とても許されることではない。おそらく、無期懲役、もしくは極刑になるが、それでも供述は変えないのだな?」
世間を騒がしている連続殺人犯が警察官であるという事実を再確認するように、真剣な表情で問いつめる。
安藤が少女たちを殺したという物的証拠がないため、決め手は安藤の自白だけだ。ここで間違いがあっては警察全体の問題へと発展してしまう。確認に確認を重ねる。
「私は、私の崇高な目的でやったと自負している。これは私の正義だ。それだけは曲げるわけにいはいかない」
「……そうか。君のような優秀な刑事を失うのは、非常に残念だよ」
認めたくない、そんな気持ちを捨てたのか、近藤はあきらめた顔をして、席をたち、側にいた刑事にあとを任せたと言って部屋から出ていった。
「課長!」
神妙な面もちで待っていた石原と木下が、近藤のもとへ駆け寄る。
「どうでしたか?」
「自分がやったと自白しおったよ」
「そうですか」
石原と木下はほっとしたような、残念そうな、不思議な表情でため息をつく。
そんなふたりに、近藤はねぎらうように肩をたたく。
「まぁ、なにはともあれ、よくやった」
「課長……」
「ありがとうございます」
「無事、犯人は捕まったんだ。明日からおとなしく休んで、謹慎があけたらまたバリバリ働いてくれ」
「はいっ」
木下は、今日は刑事になってから初めて達成感を感じて眠ることができるだろうと感じていた。
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