第19話 理不尽な本部からの嫌がらせ

「おはようございまーす」

翌日、木下は刑事になってから初めてといっていいほど、大手を振って署へ着くと、課長と署長が神妙な顔つきでこちらを見た。

「……なんですか?」

危機察知能力だけは優れている木下が二人がだすイヤな気配を感じながら、おそるおそる聞く。

「実はな、昨日、おまえが見つけた毛髪の鑑定結果がでた」

「なんだ。脅かさないでくださいよ。それで、どうでした?」

「結論から言うと、おまえの読み通り、あの毛髪は佐藤里奈のDNAと一致した」

「そうですか。では、あそこが犯行現場、もしくは、監禁されていた場所ということになりますね。あとは、あの部屋を借りていた人物を誰か特定すれば……」

「あの部屋を借りていた者は半年前に、すでに亡くなっていた」

「え? どういうことです?」

「誰かが、その死んだ者との契約を継続して家賃を支払っていたというわけだ。その人物が犯人と関わっている可能性は非常に高いのだが、その特定はまだだ」

「じゃあ、その人物を探せば解決したも同然ですね」

「…………」

木下が明るい声をだすと、課長と署長が互いに顔を見合わせる。

「おはようございますー」

そこへ、石原も出社してきた。

「石原、ちょうどよかった。木下、二人とも落ち着いて聞け」

「なんすか?」

署長の真剣な表情に、木下と石原は机に鞄を置くのも忘れて、かしこまる。

「……本日、早朝に本庁から指令がでた。『木下、および、石原の両名を本件の連続殺人事件の捜査から外す』と。」

「「は?」」

木下は署長がなにを言っているのか、理解できなかった。

「な、なんでですか?」

一瞬早く我にかえった石原が声をあげた。

「俺たちが重要な証拠を見つけたんですよ! 誉められるならともかく、なんで捜査から外されないといけないんですか!」

「本庁の言い分では、待機の命令を無視して、独断専行で捜査をし、挙げ句にその情報を本庁に届けなかったことが問題とのことだ。一昨日の夜、すぐに潜伏先を知らせれば犯人を捕まえられたかもしれない。逃がした責任は所轄にある、と言われたよ」

「証拠を見つけた俺たちへのただの逆恨みじゃないっすか! 先に着いておきながら、見つけられなかった自分たちが悪いのに……」

「そんなことはわかっとる!」

課長がばんっ、と机を叩いて怒鳴った。

「それでも従うのが組織だ」

「…………」

「だが、安心しろ。これから、わしと署長が本庁へ行って、おまえ逹を捜査から外すのを撤回してもらうよう、頭を下げてくる」

「……課長」

「なに、気にするな。元々、この件は課長であるわしに責任があるのだからな」

「そういうことだ。だから、処遇が決まるまで、今日だけは署内でおとなしくしていろ」

「わかりました」

「わかりました」

木下と石原はふたりに深々と頭を下げた。

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