第18話 殺害現場②
「おい、一人で行くなよ。……どこを見てるんだ?」
壁をじっと見つめている木下に、石原が怪訝そうな顔で声をかける。
佐藤里奈の幽霊が見えるのは、木下だけなのだから当然の反応だ。
ほかの面々もぞろぞろと部屋に入ってきた。
「いやー、見事になにもないな」
「本当、新居と言った感じね」
「この部屋で殺人が起こったとはとても見えないな」
口々と部屋の感想を漏らすが、木下はそれどころではなかった。ここで彼女が現れたのだ。なにかのアクションを起こす。その様子をじっと見つめていた。
「せっかく来たから、一応、一通り調べておくか」
「本庁の連中が見落としてることがあるかなぁ?」
仲間たちがばらばらに動き、なにか落ちてないか、壁などにおかしな所がないか調べ始めたその時、彼女の右手があがって、カーテンのかかっていない窓を指さす。
「……?」
あわてて窓に近づき、隅々まで見る。
すると、かすかだが窓の縁全体にボンドのようなものでなにかを張り付けた跡があった。
「これ、なんでしょう?」
「ん? コルクの破片か?」
「木の板じゃないっすかね」
興味津々といった表情で皆が集まってくる。
「普通の家は窓にこんなもの張らないですよね」
「まぁ、確かにな。でも、これはここで殺人が行われたっていう証拠にならないぞ」
「そうですよね……」
しょげた顔で里奈を見ると、今度は左手で廊下の方を指さし、大きく唇が動いた。
お・ふ・ろ
聞こえなかったが、確かに佐藤里奈がそう言ったのを見た。
木下は急いで風呂場へと走る。
脱衣所の扉を勢いよく開けて、浴槽を覗く。
こちらも見た目はなにひとつ、不自然な点はなかった。
しかし、ここになにかがあることは間違いないのだ。
くまなくチェックをする。
元々汚れがなかったのか、風呂場はリフォームされてる様子はなかった。
壁も床もよく見ると消耗劣化の跡がある。
「…………」
もしかしたら、この浴槽で殺害されて血痕でも出て来るのかと一瞬考えたが、用意周到な犯人が残してるとは思えない。そもそも、そういった殺され方をしていない。
諦めかけたその時、風呂の栓の先になにかが絡まっているのを見つけた。
「ちょっと来てください! これ、もしかしたら被害者の物かもしれませんよ!」
「なになに?」
「どうした?」
近くを調査していた者たちが次々と木下の元へ集まってくる。
「よく残っていたな。とりあえず、調べてみようか」
「被害者たちの中の誰かとDNAと合致すれば、ここで殺害された可能性があると証明されるからな」
石原がピンセットで髪の毛をゆっくりとビニール袋にいれる。
「しかし、確実に言えることは、いかに本庁の連中の捜査がずさんかわかってしまったわけだ。これで、こいつが証拠になってみろ。もう、大きな顔はできんぞ」
誰かのセリフに、全員が大笑いをした。
だが、結果だけ言えば、このブラックジョークを所轄の全員が笑えない状況になってしまったのだった。
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