第17話 殺害現場①
午前六時。
緊張感のない、だらしない表情であくびをかみ殺す木下が覆面パトカーから降りると、十数人のスーツを着た団体がマンションから出て来るのが見えた。
「おいおい、なんだありゃ。本庁のやつらじゃないか」
あわてて隠れるも、向こうもこちらに気づいたのか、先頭を歩くひとりの刑事が近づいてきた。
「こら! おまえら所轄がこんな所でなにしてる!」
「それはこっちのセリフですよ。忙しい本庁の方々が大勢でどうされたんですか?」
石原が嫌味を言うと、本庁の刑事は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「そんなの、所轄に関係ないだろ!」
「意地悪しないで教えてくれませんか?」
「だめだっ!」
「私からもお願いしますよ」
近くに停めてあった車の後部座席から、安藤さんが出てきた。
「安藤さん。貴方まで来たんですか」
「ええ。ここが連続殺人犯のヤサだという情報が入ったものでして」
「どこでそれを?」
「とある情報屋から、とだけお答えしておきましょう」
「……仕方がありませんね。俺から聞いたって言わないでくださいよ? 確かに、本庁でもここに例の連続殺人犯が潜伏しているというタレコミがありまして、こうして来たわけですが、もぬけの殻でした」
「えっ!」
「なにっ!」
さすがにこれには、所轄の面々も驚きの声をあげた。
「証拠どころか、見事になにもなし。生活していた形跡すらありませんでした。完全に普通の空き屋です。無駄足も無駄足」
「ガセネタと言ったわけですか」
「そうです。なので、どうぞ、所轄のみなさんも部屋をごらんになって構いませんよ。証拠のひとつでも見つけて捜査の進展に貢献してください」
仕返しのつもりか、高笑いをしながら、本庁の刑事は帰って行った。
「…………」
「……どうする? せっかくだから見ていくか?」
すっかり、意気消沈といった顔で、互いにみあわせている中、木下は脇をすり抜け、部屋へと走りだした。
エレベーターを待たずに、三階まで階段を二段飛ばしで走り、部屋にたどり着くと、本庁の刑事たちがしらみ潰しに捜索した後が残っていた。
開きっぱなしのドアを通り、すでに土足で汚れていた玄関を靴のままあがる。奥へ行くと、確かにそこにはなにもない。まるでリフォームしたばかりのように、綺麗に片づいていた。
おかしい。ありえない。
まさか、昨日の今日で証拠を全部片づけたのか。
「なにか、なにかないか?」
独り言のように、半ば祈るように、木下は辺りを見渡す。
すると、朝日が射し込む部屋の隅に、『彼女』が現れた。
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