第12話 正義の殺し屋②後編
「これは……?」
最初、なにかのジョークかと思ったほど、ストレートに『殺し屋』と書かれてあったので、男と名刺を二度見してしまった。
「「きゃーっ!」」
その時、木下の後ろで悲鳴があがった。振り返ると、駅の改札口手前で松木優美が倒れていた。
「……っ!」
急いで彼女に近づき、起きあげるが、青白い顔でぐったりしていた。どうやら息もしていない。
「誰か! 駅員さんを呼んで!」
周りで立ちすくんでいる人たちに叫んで、木下は救急車に電話する。
緊急処置を駅員に任せて、近くの交番へ向かおうと顔をあげると、もうすでにそこには工藤の姿はなかった。
駅員と木下の迅速な対応で、助かるかと思ったが、松木優美は病院で息を引き取った。
死因は心臓麻痺。
不審死ということもあり、解剖することにはなったが、争った形跡も外傷もないため、事件性はなく、事故死として処理されそうだ。
「……お前はよくやったよ」
石原がうなだれている木下の隣に座り、慰めの言葉をかける。
「しかし、この手口は“ガールズキラー”と似ているが、同一犯だと思うか?」
「いえ。違います」
「どうして?」
断言する木下に、石原が問う。
「まず、年齢。確かに、綺麗な人でしたが、殺された四人はいずれも十代。松木優美は二十歳を過ぎてました。そして、これまでずっと、人目につかない場所で遺体に装飾してきたのに、今回は人目につく場所で殺したところが違います」
「模倣犯だと?」
「そこまでは……ただ、おそらく犯人はこいつです」
警察手帳に挟んでいた『正義の殺し屋』の名刺を石原に渡す。
「正義の殺し屋、工藤。こいつは……」
「知ってるんですか?」
「噂を聞いたことがある。人を傷つけておきながら平然としている、法で裁けない人間を殺す依頼を請けるやつがいると」
「それがこいつですか」
「そうだろうな。殺害方法も心臓麻痺に見せかけるところが同じだ。なんでも、そいつは体内で電気を生み出し、相手に電流を流すことで殺すことができるらしい……。おそらく、こっちが本元。“ガールズキラー”が模倣犯なのかもな」
深刻な表情で指を組みながら言う。自分で言っておきながら、まだ半信半疑、そんな感じにも見える。
「やっぱり、これは事故ではなく、殺人ですよ」
「誰がこんな話信じる」
「……そうですね」
物証のない推論は無意味だ。ドラマなどでよく聞くフレーズが頭をよぎる。木下も視線を床に落とす。
「しかし、お前がこの工藤という男の顔を見て、この名刺を受け取ったことは大きい。連絡先を追えば……って、書いてないじゃないか」
刑事に渡す名刺だ。連絡先など載ってるはずがなかった。
おそらく、本当に困っている人にだけ連絡をとるのだろう。
「まあ、いい。この名刺から指紋をとって、前科者カードから割り出してみよう」
たぶん、だめだろうがな。そうつぶやいて懐にしまう石原。
「とりあえず、俺たちは“正義の殺し屋”と“ガールズキラー”両方を追おう。どちらか捕まえればもう片方の情報も手に入るかもしれない」
「そうですね。では、僕は知り合いの探偵に新しいネタがないか聞いてきます」
「おう。俺は本庁の方を突っついてみる」
どちらともなく立ち上がり、急ぎ足で病院を出る。
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