第6話 マスコミに踊らされる警察本部

若い少女ばかりを狙った連続殺人というセンセーショナルな事件に、マスコミは大いに盛り上がった。

殺人犯は“ガールズキラー”と呼ばれ、マスコミの報道が加熱するたびに、警察へのプレッシャーも高まり、ついに所轄だけの問題ではなくなり、本庁から緊急対策本部が設置されることとなった。

『報告を!』

「はい、現場や遺体に指紋はなし。毛髪、体液も見つかってません」

『つぎ~』

「はい、佐藤里奈は学校から家まで自転車で通学していました。事件当日は自転車がパンクしていたため、徒歩で学校まで行ったそうです」

『公園から物証はでたのか?』

「犯行現場には、犯行に使われたと思わしきロープと、クロロホルムのついたハンカチが捨てられてました」

『そうか。それなら犯人の特定は早いな。つぎ!』

「はいっ!被害者の死亡推定時刻ですが……」

本部の偉い人がつぎつぎと報告を要求しながら、情報共有していく。

しかし、緊急対策本部の末席に押し込まれる形となった所轄の面々は渋い顔をしていた。

「あんな堂々と報告してますが、基本的にうちらから取っていった情報じゃないっすか」

「なんであいつら偉そうにできるんですかね」

「仕方ないだろ。組織とはそういうものだ。それにしても、木下はどこ行った? おい、石原、おまえはなにも知らんのか?」

「知りませんよ。昨日、木下が気絶したあとからは会ってません。今日も出社してないんじゃないですかね」

「本庁が来ているこの大事な時に、なにをしとるんだ。なにを」

「どうせ、うちら所轄なんて眼中にないっすよ」

「ほら、課長は本庁から重箱の隅をつっつかれて減点されたくないから。出世に響くだろ?」

「なにをごちゃごちゃ言っとる」

『所轄っ! うるさいぞっ!』

本庁の偉い人から怒鳴られ、課長たちが一斉に首をすくめた。

そんな空気を読まないのか、読めないのか。石原が手をあげて声をあげた。

「遺留品に関してですが、どれも大量生産品で、どこででも手に入る商品です。それらを追っても犯人を特定できないのではないでしょうか?」

『そんなことはやってみなければわからないだろう! 所轄が決めることではない!』

「…………」

『石原、だったな。お前は所轄のやるべき仕事を放棄し、独断専行するクセがあると聞いている。今回の捜査でも、我々の指示に従えない場合は、謹慎処分もあるからな。わかったな!』

「はいはい、それで犯人が見つかるなら従いますよ」

『なんか言ったか!』

「いえ、別に……」

『それでは、次の報告を!』

本部長が石原から目を離し、次の捜査員へ情報共有の続きを促した。

「石原~、頼むからわしの顔に泥を塗るような真似はせんでくれ~」

近藤課長が、半ば懇願するような目つきで石原を見ながら言う。

「俺が課長にそんなことするわけないじゃないですか。任せてください。俺がかならず犯人を捕まえて見せます」

「わかっとらんじゃないか……やれやれ」

監督責任をとらされる未来を想像し、課長は頭を抱えたが、警察官としての職務を全うしようとする石原の姿勢は見習う点があるのか、強く止めるつもりはないようだった。

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