第2話 ハンカチとお手紙
「お、おはようございます……」
相手が再会を心から喜んでいるのに知らないふりをする方が心苦しくなってしまい、つい返事をしてしまう。
物静かで近寄りづらい印象を漂わせていた美人なクラスメイトが自ら話しかける姿に、周りの生徒達は驚きと疑問が混じった目でこちらを見ている。
「こちら、先日お借りした物です。あの時はありがとうございました」
「あっ、いえいえそんな……」
一体どんな関係だ、とでも言わんばかりの視線がちくちくと突き刺さるが、そんな状況は気にせず、彼女は両手で丁寧に手提げの紙袋を渡してきた。
ちらっと中をのぞくと、綺麗に折り畳まれ透明な袋でラッピングもされている僕のハンカチと、白無地の洋封筒が入っていた。
「そちらの手紙は感謝を伝えるための物だったのですが、同じクラスでしたら口頭で伝えられるので問題なかったですね。読み上げましょうか?」
「えっ、読み上げ!? だ、大丈夫です、ありがとうございます!」
慌てたまま感謝で彼女の提案をもみ消した。読書感想会や国語の授業でもないのにこんな教室の真っただ中でそんなことを頼めるわけがなく。
けれど手紙を貰えた事が久々で嬉しくなり、ましてそれが同級生の女の子からとなれば感慨深いものがあった。ここで開けるほどの勇気はないが人が書いた暖かみのある紙をじっと見て、じわりと浮き出てくる喜びを堪能していた。
ちょっとした満足感に浸っていると、澄んだ声が耳に届く。
「申し遅れました、私の名前は『
「あっ、ご丁寧にどうも。僕は『
「あきと君ですね。どうぞよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……!」
彼女は両手を膝に置き、深々とお辞儀する。それにつられて僕も頭を下げたが、彼女の美しくお淑やかな所作にはまるで敵わなかった。
名字をすっ飛ばし、異性からいきなり名前呼びをされ、一瞬だけ心臓が跳ねる。
それは親愛を込めた呼び方であることを、ちらりと見えた彼女の柔らかな目の色からうかがえた。
入学式の日に制服姿でいたということは、ほぼ確実に同期であることを察していたからこそ、知らないふりを決め込むことにしていた。
あんな美人は自分には不釣り合いとか、ちょっと雰囲気が怖い人だったから避けたいという気持ちがあった。
しかしそれ以上に一番大きい理由は、あの出会いで彼女に「弱みを握られた」と勘違いされる可能性を
なのに彼女は同じクラスで、しかも隣の席だった。
どうやら早く学校へ着き、大人しく待っていたようだ。まるで同じクラスなら
運命的な出会い、なんて思うのはおこがましい。けど何となく運命らしい物を感じてしまうぐらいには、
クールな人との刺激的な日常は、この日から始まった。
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