第3話死神の休日

ハイビスカス柄の派手なアロハシャツを着たグラマーな女が柔らかなソファーに座り、ある料理がくるのを今か今かとまっていた。


高級ホテルのレストラン。


白いソファーは体に負担がまったくかかることなく、座り心地はこの上ないものだった。


「こいつは天国だな。あはっ死神が天国いっちゃあ、まずいか」

赤い髪をゆらゆら揺らし、これまた派手な顔を笑顔に変えながら、一人で笑っていた。


彼女は人を安らかな死へと導く死神であった。

その名はエルザ。


たまの休日に人間界にきては、料理を楽しむのが彼女の趣味であった。

食べるという行為は生の象徴である。

常に生と対局にいる彼女は食にたいしての執着は人並み外れていた。

いや、死神なので、人並みという表現はおかしいのかもしれないが。


ウェイターが皿に乗せられた料理を運んでくる。

それはパンケーキだった。

「お待たせしました」

女王に仕える侍従のようにうやうやしく、料理をエルザの目の前においた。

その横に琥珀色も鮮やかなアイスティーをおいた。

軽くお辞儀をし、ウェイターはその場から立ち去る。まったく無駄のない動きだった。

何事にも一流の仕事をする人間がいる。


パンケーキを目の前にし、エルザはごくりと唾を飲み込んだ。

たっぷりの純白の生クリームにふわふわのパンケーキ。バナナ、キウイ、ストロベリー、ブルーベリーなど色とりどりのフルーツが宝石のように添えられている。

ゆっくりとナイフをいれるとさほど力をいれていないのにパンケーキは切れていく。

一口だいにきり、生クリームとフルーツを器用にのせ、ぱくりと口の中にいれた。

それは極上の柔らかさであり、淡雪のように消えていく。口内には至高の幸福だけが残っていた。

「はー、さすが三千円のパンケーキ……うまい、うますぎる」

エルザの瞳には涙すら浮かんでいた。


空気が微かにゆれた。

「休日のところ、すまんな。イレギュラーが発生してしまった」

突如、突然、エルザの左横に非正規の死神貘があらわれて、そう言った。

右横には高村真紀子が腰掛け、エルザの食べるパンケーキをじっとみつめていた。

「あんたもどうだい」

そういうとエルザは一口、真紀子の口にいれた。

「なにこれ‼️‼️超美味しい‼️‼️」

驚愕の表情で真紀子は言った。

「だろう」

軽やかに笑みを浮かべ、二人はみつめあう。

であったばかりの二人であったが、その笑みは何年もの時間をともに過ごした友のようであった。

二人のやりとりをどこか冷ややかな目でながめながら、貘は言った。

「資産家の老人が運転する自動車に跳ねられて死んでしまう予定だった親子だが、この女が助けたせいで生き残ってしまった。かわりにこの女が死んでしまったというわけだ」

「ああ、あれね。あの男、認知症だったらしいからね。世間は大騒ぎになるだろうさ。予定通り親子も死んでいたら、この上ない悲劇になっただろうよ」

パンケーキを頬張りながらエルザは言った。

「でも、別の話題になりそうだね。あんた、女優の里美マキだろ」

ちらりと白髪の女性を見て、エルザは言った。

「ええ、そうよ」

七十代とは思えない愛らしい表情で真紀子は答えた。

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