第6話 サリーの過去①

 あー、疲れた。結局、1時間も暴れるし。

 おかげでお夕飯も普通の食事に戻す約束をしてしまった。今度は僕がサリーに怒られる番ですね。


 シスターもようやく朝のお祈りに向かって下さったし、とりあえずは落ち着きましたかね。



 シスターの仕事は基本的にはお祈りと使徒職ですが、シスターエルナはお祈りをした後に朝食をすませて後は大体のんびりしてます。

 一応、1日1回は外へ出て街の皆さんと交流していますし、教会に遊びに来た子ども達の遊び相手をしているのでサボっているわけではないんですよね。

 家事に関しては全く何もしませんが。


「ゼーノー、お腹空きました」

「お疲れ様です、シスターエルナ。少し遅くなりましたが、朝食にしましょう」


 お祈りには、声に出して祈る口祷、声には出さず心の中で祈る念祷の2つがあり、シスターエルナはだいたい念祷の方を1時間程して終わります。

 これを朝1番でやってから朝食になります。

 うちの腹っ減らしのシスターにはこの1時間がなかなかキツいらしく、毎日腹の虫と一緒に念祷しています。


「そういえば、サリーは学校でちゃんとやれているかしら? 今日はいつもに増して怒っていたから、お友達に八つ当たりしてなければいいのだけれど」


 原因が何か言ってる。


「その心配は不要でしょう。あの子はしっかりしていますから、学校ではきちんと切り替えていると思いますよ」


「あの子は、ハキハキとストレートに言葉にするから友達付き合いとか少し不安に思ってしまうわ。知らぬ間に怒りをかってなければいいのだけど」


 これには納得だ。サリーは思った事をそのまま相手に伝えてしまう。良い事も悪い事も。

 良く言えば正直者、悪く言えば不器用なのです。

 家事に関しては器用になんでもこなすんですけどね、人付き合いに関しては本人は無自覚だが、あまり得意な方ではないのでしょうね。


「それでも、最初にこの教会に来たときよりは見違える様に成長していますよ」

「……そうね、あの頃のあの子は、とても寂しい子だったものね……」


 そう。サリーはこの教会に捨てられていた捨て子。愛情を知りつつも、幸福を知らない哀れな子だったのです。


 あれは今から7年前、先代の神父とシスターが消息を断つ少し前の出来事でした。


 最初に見つけたのは僕と、先代の神父オルダーでした。

 いつもの買い物に行こうとした時に、教会の扉の前でボロボロになって倒れていた少女を見つけたのです。

 その時の少女は、その小さい身体では持て余してしまう程の多数の傷を負っていて、正直、死んでしまっていてもおかしくない状況でした。


 少し前まで、この国では赤という色が忌み嫌われていたんです。

 理由は、単に魔族の眼の色が赤だから。危険な物、不吉な物として国民から酷い迫害を受けていました。

 そして、不運なことにサリーの髪の色は綺麗な赤茶色。

 これが原因で、サリーは父親から虐待をうけていました。

 母親は、例え忌み子とはいえ自分がお腹を痛めて生んだ可愛い我が子、恐ろしさよりも愛情が勝っていたのでしょう。サリーと同じようにボロボロになりながら、必死に父親からサリーを守っていましたが、これ以上は逃れられないと悟り、サリーだけでもと協会の前に置いて行ったのでしょう。


 それを見かねた神父オルダーの尽力で、サリーは教会で保護、父親は衛兵に捕縛され、そのまま収監。

 そして、後日母親は遺体として発見。死因は殴殺、骨格が原形を留めていなかったそうです。

 こうして、事態は後味の悪いまま、少女を1人取り残し、幕を降しました。


 


 

 

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