第3話いつもの光景

 ふぅー、やっと着いた。


 東区画の魚市場から、南区画にある教会までは普通に歩いて約20分はかかるが、シスターが毎回騒動を起こすおかげで今では裏道をしっかりと覚え、10分弱で着けるようになった。


 確かに買い物などは楽になりましたが、なんというか……複雑な気持ちです。


 というのも、シスターが毎回騒動を起こさなければ普通の道で事足りるんですよね!


 いつものごとく、教会の前には人だかりができてるし……


 一体、今回の修繕費はいくらになることやら。



「すみません、通して下さい」


「お? みんなー! 神父様のご帰還だよ! 道を開けな!」

「おかえり、神父様。今回もなかなかのもんだよ!」

「今までのを含めても上位じゃねーか?」

「ちょうど良かった、これ食べな! お裾分けだよ!」


 んー、なんとも協調性のない野次馬達ですね。


 さて、渦中のシスターは中かな? 今回は中々やってくれたようですからね……、少しきつめにお説教しましょう。


「すみませーん、通りま──────っ⁈」



 え? え? なんで?


 教会の前に輪を描いている野次馬達。その中央で対峙している2人の女性。

 片方は赤茶色の髪の毛をサイドポニーにしているパジャマ姿の少女、もう片方は長い金髪の修道服の女性。

 親子にしては歳が近すぎるし、友達にしては歳が離れすぎているし、といった異様な2人組だった。

 だが、驚愕すべきはそこではない。

 仁王立ちで眼下のシスターを睨みつける少女、その少女の、真正面で正座して俯いているシスター。

 普通逆じゃね? 


 という疑問はもっともだが、そこにも特に疑問は抱かない。

 なぜなら、その光景自体は僕からしたら見慣れた光景だから。もう慣れました。


 問題は! なぜ! それを! 外でやってんの⁈ って事です。はい。

 こんな醜態を晒し続けるのはよろしくない!


 と、いう事で────


「ちょ、ちょっとサリー⁈ なにしてるの⁈ いや、シスターも! なんで地面に正座してるんです⁈ ってか泣いてるんですか⁈」


 溜まった疑問と驚愕を濁流のように吐き出す僕。

 神父にはあるまじき慌てようでお恥ずかしい限りですが、身内の奇行を見ると人間こうなるものなんですよ。



 このままではまずい。

 まずは、2人を中に入れる事を第1にして、話はその後で聞こう。うん。そうだ。そうしよう。


「2人とも早く中にはい」

「おかえりなさい、神父様。そして、おはようございます。」

「あ、ただいま。そして、おはようサリー。とりあえず中に」

「入りません」

「なんで⁈ いや、ここだとめちゃくちゃ注目集めちゃうんだけど……」

「理解しています。だからこそです! 今日という今日は許しません! 罪には罰を! しっかりと反省して頂くためにも、ここでお灸を据える必要があります!」


 サリーが厳しいという事は知っている。

 しかし、今日は凄い気迫だ。


 なるほど────今日はガチか。

 

 確かに、サリーの言いたいことは分かる。

いつもなら、教会の中で、サリーのお説教をのらりくらりと交わしてすぐにどこかへ逃げてしまったり、お説教をされても反省をしている様子は見えずケロっとしている事が多いのがシスターエルナこの人である。


 それによく僕もサリーも振り回されているのが事実として存在する。

 

 しかし……


「うぅー、サリーが反抗期です。最近私に厳しいのです。どうしてこうなってしまったのでしょう。ゼノ助けて下さい。シクシク」


 むごい。

 最後のシクシクを自分の声で言っちゃうあたりが流石シスターといったところだけど、これは少し目に余る。


 だって、24歳の大人の女性が12歳の少女に正座させられたあげくに怒られてるんだよ? 外で! 一般市民の皆さんの前で!


 これは早急に助け舟を出さねば、そろそろシスターがヤバい。ガチ泣きしてしまう。


「分かりました。サリー、ここは私に任せて貴女は学校へ行きなさい。もう時間でしょう?」

「あ! いや、でも。んー……」

「大丈夫ですよ。私も今日は時間がありますから、ゆっくりとお説教しますので」

「では……、お願いします。朝のお掃除は終わっていますので、ここの片付けだけお願いします。絶対に甘やかさないで下さいね! それでは行ってきます!」


 サリーは真面目で、歳のわりにものすごく頼りになる。

 が、たまにド天然なんですよね。


「サリー、急ぐ気持ちは分かりますが、着替えてから行きなさい。あと、走ると転びますよ?」

「え⁈ あっ」


 言わんこっちゃない。

 まぁ、こーゆー所が年相応で可愛らしくもあるんですが。


「失礼しました。改めまして、行ってきます!」

「はい、いってらっしゃい」

「いってらっしゃ〜い!」


 なんて軽快な挨拶だろうか。さっきまでの涙が嘘のようだな。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る