第2話 神父の気苦労

「ん~、今日も良い1日になりそうですね」



 太陽が眠りから覚め、ようやく空が白んできた頃、1人の青年が両腕を思いきり空に突き上げ、伸びをしていた。

 肩ぐらいにまで伸びている銀髪の左側だけを編み込み、まるで夜空を写し取ったかのような綺麗な蒼の瞳、そして両耳には十字架を象った装飾品をしている。

 どこか軽薄そうな感じの見た目だが、凛とした佇まいとピッシリと着こなしたい神父服からは品の良さが垣間見える。


 そして、そっと息を吐き服装を整えてから青年は歩き出し、薄明るい街へと歩を進め始める。



 はてさて、今日の朝食はどうしよう。昨日も一昨日もトーストだったからなー、なにか食べ応えがある物がいいなー。

 よし! 今日は焼き魚にしましょう!


「すみませーん、ゼロサバを2匹お願いします」

「お〜、おはよう神父様! 今日も朝早くからご苦労様だねー!」

「私が来る前からお店を開けているあなたには負けますよ、ハイリさん」

「ハッハッハ! ここの区画じゃーそれが当たり前だろーよ!」


 確かに、ここヘルネイド王国の王都ベルリアの東区画といえば、食べ物や貴金属、武具に至るまでいろいろな物を売っている商業区域ですものね。

 一般家庭よりも少し早めに動き出すのは当たり前といえば当たり前か。

 とはいえ、今は6時を回ったばかり。些か早過ぎる気もしなくはないが、この時間に開いてるのは私としてはとても嬉しいので文句はありませんが。


「はいよ、おまちどうさま! 2匹で130セルだよ!」

「フフ、ハイリさん? それは1匹分の値段ですよ?」


 いくら手慣れた作業とはいえ、人間である以上間違える時はあるものだ。それを冗談ぽく、やんわりと指摘するのが1番の優しさだと私は思うんですよね。


「あー、最近教会に行けてねーからよ。ちっと少ねーけどお布施みてーなもんさ! なにかと世話になる時もあるしよ! 気にしねーで受け取ってくんな!」


 …………優しさ語ってスミマセン‼︎

 あぁ、恥ずかしい。ハイリさんの好意に気付かず、調子に乗って優しさ語って本当にスミマセン。

 棺があったら入りたい。


「おーい、顔が赤いぞ? 具合でも悪いのかい?」

「いえ、自分の未熟さを再認識しただけですので、お気になさらないで下さい。これ、ありがたく頂きます」


「お、おう。なんもねーんならいいけどよ、最近しつけー奴らに絡まれてるって話聞いたからちっと心配してたんだよ。そっちの方は大丈夫か?」


 大丈夫です! と、言いたいところなんだけど、実際かなりヤバいです。正直私も心配しています。を。



ドゴォン‼︎


「なんだぁ⁈ 随分でけー爆発音だぞ? 事件か?」


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 違うんです、今の音は恐らく……


「ん? ありゃあ教会の方じゃねーか? ────あー、そういう事か。なるほどな」


 そんな哀れな目でこっちを見るのやめて下さい。


「しっかし、今回のはまた一段とキレてるなー。おたくのシスター様は。まぁ派手なのは嫌いじゃねーがな!」

「笑い事じゃありませんよ! 今度はいったいどれほど破壊したのか想像がつきません……」


 はぁ、この事態を避けるために今日はいつもより早く買い物を済ませたのに。

 結局こうなる運命だったのか……

 神父の身でありながら、最近は少しだけ神様の存在を疑ってしまうんですよね。


「帰ってからが大変そうだなー。その魚、今日はサービスしてやるから持って帰んな」

「…………ありがたく頂きます」

「まぁ、そのー、なんだ、頑張れよ! ゼノ・レイビス神父様!」


 今日もいい日になりそうです。

 いつも通りの、少し慌ただしい、素晴らしい1日に。


 


 


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