神獣『白虎』

 【通販】のスキルは想像していた以上に優秀で便利だ。購入を確定すると、瞬時に異空間倉庫に商品が届く。

 通常、冒険者は余分に買い物をする。理由は単純で『足りない』って事が致命的になるからだ。回復薬や予備の装備品…一度、冒険に出るとなると、目的に応じて準備にも気を使う必要があり時間も取られる。

 しかし…俺には、その必要が一切ない。必要となったタイミングで随時補充が可能だからだ。最初は『何じゃこれ?』と思った固有スキルだが、立派なチートである。


「着替え終わったら俺の部屋へ来て」


 二人に届いたばかりの装備品を渡し、足早に部屋を出た俺は自室に戻る。そして、人生で初めてとなる全身鎧フルプレートを身に纏う。少し重い感覚はあるが動作には問題ないようだ。侍の如く左腰に黒刀も装着した。


「ほぅ…ニャかニャか似合ってるニャ」


 突如、誰も居ないはずの背後から奇妙な声が聞こえた。振り返ると、ベッドの上に蠢く動物の姿が確認できる。


「……猫?ん、いや…虎か?」


 入口の扉は勿論、窓も閉まっている。密室のはずだが…何処から入った?

 全身の体毛は真っ白。そして、綺麗なラインを描く黒い縞模様。以前、動物園で見たホワイトタイガーの子供に似ている。


「我は神獣『白虎』ニャ。創世神ルナアース様より伝言を預かってきたニャ」


 動物が喋ってる…異世界とは何でも有りなのか?転移より受け入れ難いぞ…

 いや、待て…白虎だと?

 聞いた事はある…四神と呼ばれる伝説上の霊獣だったか?って事は、朱雀・青龍・玄武も存在するのか…魔獣のいる世界だから不自然な話ではない。


「伝言とは?」


「諸事情があったとはいえ…事前説明もニャく、強引ニャ形で転移とニャった事を謝罪するとの事ニャ。それと、君の誤解を解消して欲しいとの事ニャ」


 布団の上でゴロゴロと転がる姿は愛らしいのだが、未だ違和感は拭えない。

 何より…謝罪の言葉を伝えに来た態度ではないな。まぁ、話だけは聞くか…


「誤解とは?」


「先ずは転移に関してニャ。時空の女神クロノス様は一週間も前から、何度も何度も君に接触を試みていたニャ。勿論…事の経緯を説明した上で承諾をもらうためニャ」


 何だと?そんな事実はない…

 この一週間、普段通りの生活だったが?


「だけど…接触は不可能だったニャ。原因は不明…君の目にその姿が映る事も、耳にその声が届く事も叶わニャかったニャ」


「ほぅ…結果としてはあれだが…強制的な拉致行為のつもりはなかったと?なら…この場で返事をする。転移に同意する気はない。だから、今すぐ元の世界に戻せよ」


「それは待って欲しいニャ。今回の転移はルナアース様と聖女の約束によるものニャ。それを果たす必要があるのニャ」


「聖女との約束だと?」


「ルナアース様は二年前に聖女の願いを一つ叶えると約束していたニャ。そして…一週間程前、その願いを伝えてきたニャ。その内容は『に神嶋天翔を呼んで欲しい』との事だったニャ。だから…先ずは聖女に会って欲しいニャ」


 ……は?正直、意味が分からん…俺は、神のミスやら、魔王を倒して云々…みたいなラノベ展開を想像していた。

 異世界に知り合いなぞいない。と、なれば考えられるのは、聖女は俺と同じ世界からの転移者で……

 まっ…まさかな……


「そうか…色々と言い訳してるが、要約すると、聖女の願いを叶えるために、俺を拉致同然に強制転移させ、此方の意思を伝えても聖女に会うまで再転移拒否と…監禁・脅迫って話か…滅茶苦茶じゃねぇか!」


「…ッ。そんな物騒な話じゃ…」


「黙れ!なら…二葉と咲愛はどうして転移したんだ?目的は俺だろ?巻き込まれってやつじゃないのか?それとも、二人の転移にも理由があるのか?」


「……」


「あぁ、なら話は終わりだ。出ていけ!これ以上は話す事もない。そして神とやらに言っとけ!お前もだが、とな」


 俺は返す言葉を失った白虎の首根っこを掴むと、窓を開けて外へと放り投げた。


「わ、我は神獣ニャ!」


「知るか!偉ぶりたければ信者共の前で好きなだけやれ!無信仰の俺にしてみれば、ただの不法侵入獣だ!」


 窓を締め、ベッドに座り込む。

 ふぅぅぅ…

 深い溜息が洩れる…そして一つの推論が脳内を支配した。俺の転移は神の意思ではなく聖女の意思…

 ・二年前

 ・俺を呼んで欲しい


「ははは…そういう事か…そりゃ、いくら探しても無駄って話だよ…」


 詳しい事情は分からない。だが、残された二つのキーワードから導き出された答えは一つだった…確信を持って言える。


「聖女の正体…それは、二年前に全く痕跡を残さず行方不明になった二葉の実姉で、俺の幼馴染みでもあった藤崎ふじさき 一葉かずはだ…」

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通販で極める異世界生活 @yami0629

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